データ分析の重要性を語る① なぜ5000万円の赤字企業が、わずか1年で2000万円の黒字に転ずることができたのか

データ分析の重要性を語る① なぜ5000万円の赤字企業が、わずか1年で2000万円の黒字に転ずることができたのか

専務取締役 井東 昌樹

【語り手】

インソースマーケティングデザイン

専務取締役 井東 昌樹

・三和銀行(現三菱UFJ銀行)で国内外の営業などに従事したのち、中堅アパレル企業や上場外食チェーンなどいくつかの企業で企業再生などに取り組む

・2009年にインソース執行役員営業本部長に就任後(2010年に取締役)、業績拡大や株式上場などを手掛ける

・その後、地元新潟にUターンし、2018年に株式会社イタリア軒(創業150年の老舗ホテル)の代表取締役社長に就任

・現在は株式会社インソースマーケティングデザイン(以下、IMD)の専務取締役として、IMDの経営に従事している

「企業経営において何よりも重要なことはデータ分析です」と語る、IMD専務取締役の井東 昌樹氏。

 井東氏が過去に手掛けてきた企業再生の経験談と共に、なぜデータ分析が重要なのか、データはどう見るべきなのか、どんなデータをいかに分析するべきなのか、さらにそれをどう活かせばいいのか。データ分析を活かした売上を上げる方法の真髄について、語っていただきました。

※インタビュー実施日:2022年12月2日

企業経営にはデータ分析が必須。しかし、この発想を持つ人は案外少ない

企業経営は100%数字の世界です。

戦略、マーケティング、事業計画、商品、コミュニケーション、人材育成、PDCAなど、全ての要素が最終的に数字に表れます。営利企業である限り利益に帰結するのは間違いないでしょう。

この数字とは、つまりはデータです。数字に基づいて戦略を練り、それを実行するのが企業経営には何より重要です。

しかし、企業の経営者、役員クラスでも、企業経営のためにデータを分析する、という発想がない方が多いのも事実です。

例えば会社の財務分析です。営業であれば顧客の分析、マーケットの分析など、どれも数字やデータの分析であり、それをやらないと実態が把握できないし、有効な戦略も立てられない。当たり前のことですが、実際に実行している方は本当に少ないです。

経営者、管理者が戦略的でないと、組織は戦略的にならない

私が以前インソースで営業本部長を務めていた際には、常にデータ分析を行ってきました。

部下に年に1回データ分析をさせて、一人一人それぞれに事業計画を作らせました。売上を確実に上げるためにいかにデータ分析が重要で、それがひいては営業の力になることをわからせたかったのです。

経営者など上の人間が戦略的でないと組織は戦略的になりません。企業経営は100%数字なので、数字に基づいてまずは現状の把握をする。そして原因を分析して問題があれば対策を立てる。このような問題解決型の企業経営こそが経営戦略です。

あるアパレル企業で企業再生を実行

このような考え方は、私が銀行員時代に培ったものです。融資や法人営業を中心に仕事をしていた当時、企業の財務分析は日常茶飯事でした。

その後、ご縁があり、後継者候補として、あるアパレル企業に転職しました。

そのアパレル企業は、不景気で服が売れず、売上は当時一店舗あたり2~3割も減少していました。小売部門全体では、5000万円もの赤字を計上していました。

そんな状況で私に課せられた使命が企業再生です。とりあえず数字(データ)をみないと何をどうしてもいいかわからない。しかし、その会社にはまとまった数字データがありませんでした。

まずは、25店舗の過去3年分のデータ収集と整理から

そこで、私はまず財務データの帳票に基づいて、25店舗それぞれと、すべての店舗を合計した決算書を作りました。過去3年分さかのぼってコストと利益がどう推移したのか、データを見るために必要だったからです。

過剰在庫と人件費過多が課題と判明

過去の数字を分析した結果、大きな問題が2点あることがわかりました。

一つは在庫が多すぎて回転率が非常に悪いということ。アパレル業界の平均的な在庫回転期間は1.2カ月、それに対してその会社では2.3カ月となっていたのです。つまり平均の半分の水準です。

また、人件費の比率が、同業他社が平均30%程度のところ、その会社は42%と非常に高い。これでは赤字になるのは当然です。

このデータ分析を踏まえて、いったいどのような戦略をとるべきか考えました。

戦略①計画的な仕入れの仕組みを導入して在庫を削減

企業再生の常とう手段は赤字を減らして止血をすることです。在庫が多すぎるということは、つまり仕入れが多すぎるということ。バイヤーが仕入計画も立てず、好きなだけ仕入れていたので当然のことです。

そもそも仕入れというのは売上計画があってのものです。そこで、データを元にした売上計画をキチンと立て、そこから仕入れ予算を作るという計画的なバイイングをバイヤーたちに導入しました。

戦略②アルバイトを増やして戦力化することで人件費を削減

人件費に関しては、データから社員比率が高いことが原因と分かりました。

通常小売業は、社員とアルバイトの比率が2対8や3対7程度が普通です。つまり大半をアルバイトにすることで人件費を抑えています。しかしその会社では社員7~8:アルバイト2~3の比率となっていて、人件費がかかりすぎていました。

そこで、新卒の採用を減らしてアルバイトの採用を増やすことに取り組みました。スタッフの補充はアルバイトで賄うようにして人件費を抑えつつ、さらにアルバイトを育てて、準社員、社員に登用する社員登用制度も導入しました。

わずか1年で5000万円の赤字から2000万円の黒字に

このような戦略を実行した結果、そのアパレル企業はわずか1年で黒字に転じました。前年度は5000万円の赤字だったものがその年は2000万円ほどの黒字を出すことができたのです。

その後、店舗を増やし、適正コストを実現したので売上もさらに伸び、4年後には売上が60億で、営業利益は5億にもなりました。

アパレルビジネスは、感性+科学

アパレルビジネスを一言で言うと、感性+科学であると考えています。私はその科学の部分に力を尽くしたのです。

感性に優れた人材がいないとアパレルビジネスは成り立ちませんが、科学的な分析がないと経営はできません。このアパレル企業はそれができていない典型的な会社だったのです。

このような経験を経て、やはりデータ分析こそが企業運営にとって極めて重要であるということを確信しました。

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