銀子の一筆

ChatGPTを使ってみた

私は銀子。半世紀以上も急速な科学技術の進歩を享受してきた。デジタルの利便性・正確性に納得しつつも、内心アナログの風情・不便・実在感に愛着がある。AIの判断力や合理性に感心しつつも、人間のフリをする模造脳に懐疑的でもある。けれど、こうしたアンコンシャスバイアスをもつのは真摯に成長を目指すAIに対して失礼だと反省して、虚心になって話題のChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)を使ってみた。

■使う前の確認

チャットボットはユーザーの質問に応じて答えるが、ChatGPTは加えて文章の要約や翻訳・アイディアを出したりシナリオを作ったり・プログラミングなど多様なことができる、らしい。しかしそのプロセスは、人間の脳の働きをコンピュータプログラムに組んで成長させコミュニケーション能力を育てるボトムアップ型では、自我や知性・ひらめきなどをもつ人間的な知能を再現するのは非常に困難だ。そこでコンピュータに言葉を判断・理解させるのではなく、さまざまな文章からキーワードを抽出して、事前に蓄積したデータベースから検索して応答するトップダウン型が採用されている。つまり汎用のAIの多くは過去データの中から、似たような質問や似たような答えを探し出しつなぎ合わせて構成されている。

だいたい世の中の多くの質問・疑問・要望は当人にとっては初めてでも、広く過去から見ればよくある質問や似ている回答が多いのだから、当たらずといえども遠からじの応答が可能になることも少なくないだろう。とりあえず何を質問しようか。飛び外れた個性的な事柄ではなく、単純な質問でAIが得意とする働きを見せてもらおうと思った。

■明日の天気はどうですか?

統計的な概況から始まったが、どうなるかわからないので説明しきれないようだ。なにより長い。要領を得ない状況の説明だけ。「どうやら晴れそうだが、寒いかも知れない」など生活者の実感が湧くような回答は少しも得られなかった。(そうよね。個人的な感覚だもの)正確を旨とするコンピュータが、曖昧な予想を何となくの感覚に表現するのは難しいかも知れない。意地の悪い質問だったのだろうか。もっと簡明で通じやすい質問をしよう。

■昔話「桃太郎」を要約してください

出だしは順調に物語通りに要約されていった。が、桃太郎が鬼退治に行くところで、目を疑った。なんと桃太郎は「猿と雉と犬に家来になる条件で、柿の種を与えて鬼退治に向った」のだった。(え~?一体何を言ってるの?)
「私は知りません」と素直に言えないのか?少し腹が立ったが、「そうか」とすぐに笑ってしまった。多分、正しいか正しくないかなどは考えずに、蓄積データの中の製菓会社の名称と商品を結び付けたのだ。単純な昔話から、愛息が村のために鬼退治に出かけるというのに黍団子しか持たせられない裕福ではない村の現状、黍団子が目的で家来になった猿・雉・犬だが次第に力を合わせて仲間になる過程など、感じとるのは無理なのか。いかにも正解風に、もっともらしく正しい言葉使いで語っているが、「柿の種」は嘘の回答。私は親和的に解釈したけれど、または昔ばなしだからいいけれど、初めて読む人や子どもだったら鵜呑みにして騙されてしまう。危ない。危ない。

■ChatGPTの先

スピーディな双方向性のコミュニケーションツールだが、ビジネスや金融・教育や健康の本質的な問題ではどうだろう。危うい結果が引き出されるリスクを認識して、頼りすぎないようにしないと桃太郎では済まない。答えの確認が必要だし、使う側の真偽に対する知識や技量・感度が必要になる。正しく知りたいとか、迷いながら探し出す、といった人間の思考回路に与える影響はどうだろう。大筋で間違っていない程度の知識で満足する人も増えるのかも知れない。呻吟(シンギン)や推敲(スイコウ)・逡巡(シュンジュン)といった微妙な言葉もなくなるかも知れない。

あるいは、もしも悪意を持って不健全な質問をしたら、どうなるのだろう。なんとかデータの中から見繕って、正しい言葉遣いで間違った答えを悪意なしに捏造するのだろうか?例えばテロや犯罪のように、正義や良識から偏った間違った目的の質問に対して。
または複数の個人の文章が切り貼りされる状態での著作権や作者の文意との乖離・研究データの推移の解析・ただの悪ふざけから始まる情報漏洩など、どうなるのだろうか?言葉や文字は怖い。ただの独り言でさえ、文字にすれば証拠となり、拡散すれば意図しない大きな事件の糸口になりかねない。こうした危惧から開発そのものの抑制・規制を要望する動きもある。

でも、私には「危険だから避ける」という発想は、さまざまな成長を阻害し可視化できない新たな危険をはらむ原始的な考え方に思えて賛同できない。パンデミックの折の警鐘のように正しく恐れ、どうしたら悪い事態を招かずに成長を継続できるかの対策が何より優先だと思える。

■初心者の率直な思い

ChatGPTは多分、想像以上のスピードで社会に貢献するようになるだろう。例えば英会話を学ぶ場合、会話の定形だけでなく「こんな時は、むしろこう言った方が感じがよい」などの場面判断もできる。即座に回答が得られるため、教育現場では学習者の修正や習熟スピードが上がる、などなど。さまざまな分野で国境や異文化、世代を越えて瞬時に共通認識を生むことも可能だ。

その後、テレビでChatGPTの開発企業CEOのインタビューを聞いた。「ChatGPTは通過点に過ぎない、もっと先には全人類が使えるような大きな目的がある。開発は誰でも参加してより豊かな内容になるのがいい。今はtrial and error(試行錯誤)の時、もっと日本語の精度も上げていかねば...」などと話していた。

確かにChatGPTは、すごくて面白い。もっと試せばもっと面白いかも知れない。でも面白いことこそ、注意を払って扱わなければならない。だが、恐れて成長を避けてはいけない。人類がより弱者に優しく、豊かになる可能性を秘めたツールだともいえる。リスク回避・虚偽に対する克服をした後の可能性に期待して、安心な「智」・安全な「賢」の開発が進むように祈りたい。

精度を上げることはもちろんだけれど、分からないことは分からないと言える勇気・時には答えることを拒否する姿勢を獲得すれば、AIはもっと信用されるに違いない、と私には思えた。

2023年4月17日 (月) 銀子

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