健康経営の進め方~代替不可能な人的資本の価値を高めるためのステップとは

健康経営の進め方
~代替不可能な人的資本の価値を高めるためのステップとは

「健康経営®」とは、企業が従業員の心身の健康づくりに積極的に関与することを通じて一人ひとりの仕事の質を向上させ、それによって企業の生産性を上げていこうとする「経営戦略」です。

これまで、成果を上げるために従業員に長時間労働や休日出勤を求めることは、多くの企業で当たり前のように行われていました。しかし、今は従業員の健康を犠牲にしてまで成果を得ようとする組織は悪評がたち、ビジネスにまで影響が出る時代になっています。

そこで今回は、従業員の健康増進支援により業績向上を目指す健康経営について、実効性の高い進め方をお伝えします。インソースで実践している取り組みもご紹介しますので、参考にしていただければ幸いです。

1.なぜ健康経営で生産性が上がるのか

健康経営という考え方に注目が集まるようになった背景には、産業構造の大きな転換と、そこでの人材の位置付けの変化があります。

"大量生産・大量消費"で経済を回してきた時代において、「人」はいわば生産のために消費される代替可能な"資源"であり、従業員の健康は、原材料の量や質を保つように「管理」されるものと捉えられていました。
しかし現代は、人々の志向がモノ消費からコト消費へシフトするなど、単純に物をたくさん作って売れば儲かる時代ではなくなっています。また、大量生産・大量消費を続けた結果、将来地球に人が住めなくなるほど地球環境が悪化しており、これ以上環境に負荷をかけないビジネスモデルへの転換が喫緊の社会課題となっています。

そのような時代においては、人が持つ知識やスキル、あるいは組織が持つノウハウや風土・文化といったものが、業績や成長性に大きな影響を与えます。「人」は組織の価値を高めるための代替不可能な"資本"であり、人に投資することでその価値を高め、収益の拡大をはかるという人的資本経営の考え方が、近年広く浸透するようになっています。

・人的資源・人的資本

「人への投資」の具体的な内容として、従業員の教育や育成などの能力開発、働きやすい職場環境の整備、賃上げの実施などがありますが、「体が資本」と昔からよく言われるように、従業員が健康であることは人的資本経営の大前提です。心身ともに健康な状態で仕事に臨むことで、本来備わっている集中力がさらに高まり、ハイパフォーマンスが発揮されます。その結果、モチベーションが向上するとともにミスも減少し、組織全体の生産性向上につながります。さらに、健康によってメンタル面が安定するとネガティブな感情が打ち消され、問題への対処力や思考の柔軟性が維持できるようになるため、新たなアイデアも生まれやすくなります。

つまり、従業員が健康であるための投資は、組織の成長戦略において欠かさざるべきものであり、従業員の健康増進を積極的に「支援」することが、経営にとっての合理的な行動となるのです。

2. 健康経営に取り組むメリット

健康経営に取り組むことは、生産性向上だけでなく、人事が抱える様々な課題の解消にもつながります。

①労働人口減少による人手不足解消
少子高齢化が進むわが国では、将来の労働力人口の減少による人手不足が危惧されています。疾病等で労働から離脱する人をできるだけ減らし、高齢の方にも引き続き労働に参加し続けてもらうためには、健康の維持が大前提となります。

②社会保険費などのコスト削減
少子高齢化は医療費を始めとする社会保障費の増大をもたらしますが、その負担は企業にも回ってきます。従業員の健康が維持できれば、当然その費用を抑えることができます。疾病による休職や離職を減らすことで、欠員を補うための採用コストも削減できます。

③採用活動の効率化
慢性的な採用難にあえぐ企業にとって、健康経営への取り組みは大きなチャンスとなります。「従業員の健康増進を支援する企業」のイメージは、求職者に「従業員を大切にする組織」という印象を与えます。ワークライフバランスが重視される現代において、健康な従業員が多い=働きやすい職場環境が確保されている、という安心感は、応募への十分な動機となります。

3. 「生産性に与える健康の影響度」を数値で見える化

そもそも、病気やケガによって従業員の健康が損なわれ、所定の労働ができなくなることは、生産性に直接マイナスの影響を与えます。従業員の健康が生産性に与える影響度を示す指標として、以下の2つが注目されています。

  • アブセンティーズム......病気やケガによって職場から離れ、休業状態にあること
  • プレゼンティーズム......何らかの体調不良の状態で勤務し、低い労働生産性にあること

アブセンティーズムは、欠勤・休職日数や疾病休業者数・日数などの数字を集計すれば比較的簡単に計測できます。プレゼンティーズムを数値化するのは一見難しそうですが、よく用いられるのが、「病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事をパーセンテージで評価する」という計測方法です(※1)。仮に自部署のメンバーの回答の平均が80%だとしたら、20%の労働損失が発生していることになります。

アブセンティーズムは目につきやすいために問題として意識されやすいですが、プレゼンティーズムは気づくことが難しく、知らぬ間に職場の生産性を落としてしまったり、症状を悪化させてしまうことにもなりかねません。具体的な病名がつく状態になったら医師による治療が必要ですが、それ以前の「何らかの体調不良」にある従業員をケアすることが、健康経営の第一歩と言えます。 。

※1 SPQ(東大1項目版)について
https://spq.ifi.u-tokyo.ac.jp/ (最終アクセス 2023/11/15)

4. プレゼンティーズムの発生を抑えるために

経済産業省がまとめた「健康経営オフィスレポート」(※2)によると、プレゼンティーズムの発生には以下3つの健康問題が関係しているとされています。

  • ①運動器・感覚器障害(頭痛、腰痛、肩こり、眼精疲労)
  • ②メンタルヘルス不調(メンタルストレス、ワーク・エンゲイジメント(働きがい)、うつ病)
  • ③心身症(動機・息切れ、胃腸の不調、食欲不振、便秘・下痢)(※心身症の内、ストレス性の内科疾患)

そして、これらの健康問題を解消するために、次のような行動への取り組みが推奨されています。

①に効く行動(体を動かす、適切な食習慣)

  • ・座位行動を減らす
  • ・歩く
  • ・階段を利用する
  • ・ストレッチや体操を行う
  • ・健康器具を利用する (バランスボール等)
  • ・間食の摂り方を工夫する

②③に効く行動(コミュニケーション、休憩・気分転換)

  • ・気軽に話す、挨拶する
  • ・笑う
  • ・共同で作業をする
  • ・仮眠する、安静にする
  • ・昼休みをしっかりとる 等

しかし、これらの行動がよいとわかっていても、職場でいきなり一人だけ体操を始めたり、業務に集中しているメンバーを休憩に誘ったりすることは気が引けるものです。そこで、取り組みを個々にゆだねるよりも、全社一斉で時間を決めて行うなどの工夫をすることで、より高い改善効果が見込めます。

【インソースの取り組み】

1.全社でラジオ体操 1.全社でラジオ体操
毎日実施することで、日頃の運動不足解消やフロア内のコミュニケーション活性化につながっています。

2.散歩会 2.散歩会
身体を動かすことでリフレッシュしつつ、様々な部署のメンバーと散歩を通じて交流することで、仕事面においてもコミュニケーションを取りやすくなっています。

3.昇降機能付きテーブルの設置 3.昇降機能付きテーブルの設置
座っているとつい姿勢が悪くなりがちですが、立つことで心身をリフレッシュできます。また、普段と異なる環境で会議を行うことで様々なアイデアが出やすくなったり、会議時間の短縮や議論の活発化につながる効果も出ています。

※2 経済産業省「健康経営オフィスレポート」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf(最終アクセス 2023/11/15)

メンタルヘルス不調をそのままにしていると、心身症の発症にもつながりやすく、プレゼンティーズムの状態が長く固定化してしまいます。メンタルケアの一環として、前述のように「気軽に話す」や「共同で作業する」などのコミュニケーションが推奨されていますが、職場の中には気軽に雑談をしたり、大人数で話したりするのが得意ではない人もいるかもしれません。

「今日も一日誰とも話さなかった......」という人がいないよう、意識的に声をかけることを心がけている管理職やリーダーも多いと存じます。しかし、業務が立て込んでつい忘れてしまうこともあるでしょう。そこで、月に1回30分、難しいようであれば、まずは月1回10分でも、メンバーと話す時間をスケジュールとして組み込んでしまうのも一つの手です。短いインターバルの中で面談を重ねることで、お互いの心理的な距離が近づき、深い信頼関係を築くことができれば、職場で気軽に話すことのハードルも下がっていきます。
さらに、メンバーの業務状況をタイムリーに把握でき、「今」の状況に合わせた的確なアドバイスが行えるようになることで生産性向上につながりやすいというメリットもあります。

5. 健康経営を進める4ステップ

健康経営に本格的に取り組むにあたっては、公的な認定制度に則って推進していくのが現実的です。経済産業省が運営する「健康経営優良法人制度」の認定要件には、健康経営の推進に欠かせない要件がバランスよく網羅されています。認定を取得するか否かに関わらず、この要件に沿ってステップを進めていくことで、実効性の高い健康経営を行うことができます。

①STEP1:健康宣言
まず、健康経営を経営理念の中に明文化するとともに、自社のウェブページなどを介して社内外に健康経営を行うことを宣言します。

②STEP2:体制づくり
次に、健康経営に取り組むための組織体制を構築します。健康づくりの担当部署を決め、その責任者を任命します。また、産業医や保健師等、健康づくりに関する外部人材の活用も検討します。

③STEP3:健康課題の把握と対策
定期健康診断やストレスチェックなどを通じて、自組織の健康の見える化を図ります。また、残業時間や有給休暇の取得状況、職場の安全衛生状況といった情報からも課題を把握します。
把握した健康課題の中から優先的に取り組む課題とその解決策を検討し、計画を立案します。健康診断の受診率や喫煙率、有給休暇取得率といった、特に重要な数値については、目標数値を設定して取り組みます。

【参考】ちょっとユニークな健康目標(インソース調べ)

  • ・朝食欠食率(金融、ITなど複数)
  • ・レクリエーション・スポーツの参加人数(製造業(運送用機器))
  • ・オーラルケア普及活動参加数(製造業(日用品))
  • ・1日8,000歩及び早歩き20分の実践率(製薬)
  • ・肩こり・首の痛みにより仕事に影響が出ている従業員の割合(電力・ガス・水道)

④STEP4:取り組みの評価
実施した解決策の効果について、健康づくり責任者や経営層が評価し、さらなる健康改善に向けた取り組みのステップアップを図ります。

大切なのは、従業員一人ひとりが自身の健康に価値を見出し、健康増進に向けた行動が習慣となるよう促すことです。経営層の一方的な宣言で終わらないようにするためには、取り組みを実行した従業員にはインセンティブを与えるなどの施策も効果的です。いかに従業員を巻き込み、健康リテラシーを高めていけるか、そのための工夫が求められます。

最後に

インソースでも、2023年9月に「健康経営宣言」を行い、全社をあげて健康経営に取り組んでいます。

≫詳しくはこちらから
https://www.insource.co.jp/ir/ir_sustainable_wellness.html

従業員の健康増進を支援し、人的資本の価値向上に努めることは、企業ブランドを高めることにつながります。その結果、新たな投資を呼び込んだり、優秀人材の定着につながったりするなど、様々なメリットがある健康経営をまだ実践していない、という組織におかれましては、今回の内容を参考に取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

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