管理職

「組織のフラット化」は若手の自律を促せるか?

目次

「組織のフラット化」が導入されるようになった背景

リストラは本来、「組織の再構築」という意味で、後ろ向きの改革ではありません。しかし「中間管理職のリストラ」というと、人員整理的な過酷なイメージがつきまとい、言葉にするのがためらわれます。そこで、この「中間管理職のリストラ」という表現に代わり、「組織のフラット化」という言葉がよく使われるようになりました。

「組織のフラット化」とは簡単に言えば、中間管理職を排除して「経営と現場を直接結び付ける」ということです。経営と現場の間の層を排除して、現場の社員の意見をダイレクトに経営陣に伝え、現場の意見をもとに経営陣がスピーディーで正確な意思決定を行うことを目指します。これを実現すれば場合によっては、経営陣と現場が直接情報交換することもできるようになりますです。
この背景には、急変する経済構造や消費者の要求の複雑化に対応できなければ、企業の存続すら怪しくなるという現状があります。企業の意思決定が遅いと言われる日本では、経営陣からも現場責任者からも、両方から「組織のフラット化」への期待感があったと考えられます。

「中間管理職のリストラ」と「組織のフラット化」はコインの表裏の関係

「中間管理職のリストラ」と「組織のフラット化」は、コインの表裏の関係で例えられます。「中間管理職のリストラ」というコイン表の流行がすたれたら、「組織のフラット化」というコイン裏が好まれるという例えのようです。

「トップと現場が近いと意思決定が迅速に行われる」という「組織のフラット化」のプラスイメージは、具体的には次のような例です。
30人規模のグループに課長級のリーダーが1人いて、その下には係長級の階層が無くなって、直接スタッフが横並びにいるという組織です。
「上司がいなくなれば、仕事がしやすくなるのに」と考える部下はいますので、一見、この組織スタイルはかなりのメリットがあるよに思えます。しかし、現実はそう単純でもなく、部下が考えている以上に上司を必要とする場合が起こります。

「組織のフラット化」のデメリットは、とりわけ中間管理職の不在によって情報の整理がつかなくなることです。

現代は情報の流れが格段に速くなり、当然ながら必要なコミュニケーション量は一気に拡大しました。また、重要度の増した情報は、一対多や多対多の複数間のコミュニケーション量を必要とします。多様な情報を吸い上げ大量の情報が入ってきたとき、「何が重要で何が不要か判断していた」のが、かつてのピラミッド型組織では中間管理職の仕事でした。その役目をさらに中間管理職より上に持っていくと、大量の情報が上部に集まります。これまで以上に情報の過度な集中を避けたい時代が来たにも関わらず、「組織のフラット化」を進めるとその情報を適切に振り分ける「中間」の役割を排除する体制になってしまいます。その結果、大量の情報の要・不要を判断していた中間管理職の代わりに、スタッフ自らすなわち現場の担当者自身が、自分の役割を自覚し自分で振り分け判断するという、現場の高い自律性が求められることになったのです。

「組織のフラット化」の見直しが顕著

例えば、ある80人くらいの会社で、社内の風通しを良くしようと考えて、社長がすべての情報を伝えるように求めて、中間管理職を排除し、情報の取捨選択を下ではしないように命じました。その結果、社長は遠からずパンク状態になり、結局もとの中間管理職を設置し、情報を取捨選択するように戻しました。「組織のフラット化」のデメリットが顕著にあらわれた例だといえるでしょう。

近年、大手自動車会社が係長職を20年ぶりに、総合金融機関が課長職を6年ぶりに復活させました。この自動車会社や金融機関の例に象徴されるように、「組織のフラット化」の見直しがなされ始めました。実は、大手自動車会社の場合、すでに2007年に「組織のフラット化」の見直しがはじまりました。会社の社内報で当時の副社長は、コミュニケーションや人材育成を基盤とした「職場力」や「チームワーク」は弱まりつつあるのではないか、と表明しています。係長職の復活は突発的な路線変更ではなかったのです。

「組織のフラット化」のどこを見直すか?

確かに「組織のフラット化」には、それなりの効能はありそうです。経営意思の伝達が迅速化され、権限が委譲された社員が自律的に行動することで、個々の目標に対する関心が高まり、成果に対する意識の向上が期待できます。同じような時期に「成果主義」も導入され始めました。

日本でも、「組織のフラット化」の導入が各企業で進み、1人の課長級のリーダーがマネジメントする部下の数は多くなる例が見られるようになりました。しかしその結果、新人や若手社員が多い職場では、適切な部下教育がままならなくなってしまい、部下からの不満が徐々に高まってきました。また、ベテラン社員が多い職場では、まるで各社員が一種の個人事業主と化して、組織全体の一体感が薄れ、職場の雰囲気が非常に悪化してきたといいます。

このことは、「組織のフラット化」によっては、現場の担当者が自分の役割を自覚し、自分で振り分け判断するという、「現場の高い自律性」は実現できなかったことになります。このように企業内の「若手社員の自律性向上」と「各組織力の強化」という面では、「組織のフラット化」は今のままでは大きな問題をはらんでいます。

今後は「若手社員の自律性向上」と「各組織力の強化」がキーワードに!?

今後、いったん導入された「組織のフラット化」の行方はどうなるでしょうか? 課長や係長など昔の肩書きが復活して、ピラミッド型組織のヒエラルキーへ戻るという方向になるとは思えません。少なくとも、急変する経済構造や消費者の要求の複雑化に対応するために、なんらかの組織の再編がなされる必要性は一層高まっています。

問題は「組織のフラット化」の方向は変えず、その問題のある中身をどうするか、ということです。
「若手の社員が一人立ちできていない」という問題点を解決し、現場の担当者が自分の役割を自覚し、自分で振り分け判断するという「自律性」を養うという、2つの問題点に、組織は向き合う必要があります。

「若手社員の自律性向上」と「各組織力の強化」をはかるには、「人材の採用・育成」に新しい対策を講ずる必要があります。つまり、「社員教育」が焦点となってくるのです。変革の土壌作りを教育によって推し進めつつ、どのような組織が自律性向上や組織力強化に最適かという議論を進めるべきです。「社員教育」と「組織のフラット化」は、車の両輪の関係です。
おそらく、皆さんの組織においても、すでに喫緊の課題としてこのような検討がされているのではないでしょうか? 困難を脱却する鍵は、「企業の足元」すなわち「社員教育」を問い直すときに見つかるはずです。

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