岩崎小彌太に浸る7日間vol.4「三綱領につながる小彌太の哲学①社会的責任」
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投機ブームとバブル崩壊
小彌太は1916年に社長に就任をしましたが、その時期は1914年から始まった第一次世界大戦の真っただ中で、日本も世界も激動の時代の中での社長就任でした。大戦中、日本はアジアに貿易を拡大し、イギリスやフランスなどの連合国側に軍需品を供給することで、大戦景気と呼ばれる好景気を迎えていました。1914年(5億)から1918年(20億)の間に輸出額は4倍になり、大幅な輸出超過で、1914年には11億円の債務国であった日本は、1920年には27億円以上の債権国となりました。(大学受験で日本史を選択した方はこのフレーズは記憶に残っている方が多いはず)
こうした貿易拡大の勢いがあるなか、1918年4月に三菱商事が設立されます。7月に第一次世界大戦は休戦となり、好景気は一次沈滞しましたが、翌1919年になると戦後復興需要などで再び輸出が伸び、日本に投機ブームが起こります。投機は株式、綿糸、生糸、米等の商品や土地などに対して行われ、激しい勢いで広がっていきましたが、1920年3月の東京・大阪株式市場の大暴落で、投機ブームは終了しました。
今度は一転、戦後恐慌と呼ばれる不景気に突入し、株価は大暴落し(当時「ガラ(瓦落)」と呼ばれた「バブル崩壊」)、投機的商法を行っていた商社やその機関銀行などが倒産しました。
小彌太は、この投機を非常に嫌っており、投機ブームが起きる直前に、参事以上の社内幹部全員に宛てて手紙で、大戦中のブームでみられた「浮華放漫の弊を去り、質実堅忍の風を振興して人心を緊張せしむること」と檄をとばしました。
危機の時こそ原点回帰
創立直後の三菱商事の事業成績は深刻で、商事会社の仕入れ品は値下がりし、契約は履行されず、取引先は倒産したため、資金の回収は困難を極め、69万円の純損失を出しました。こうした状況のなか、小彌太は商事会社の場所長を本社に召集して会議を開きました。集まった部長や支店長たちはみな、会社の赤字について社長から厳しい叱咤激励があるものと覚悟していました。
ところが小彌太は「頑張って損を取り戻せ」などとは一言もいわず、投機を批判し、生産者と消費者に対する自社の社会的責任について信念を述べました。幹部たちは感動しましたが、この場で述べられた下記3点が、後に三菱の「三綱領」の原点となりました。 (宮川隆泰『岩崎小彌太~三菱を育てた経営理念』中央公論社、1996年、87-90p)
所期奉公(Coporate Responsibility to Society)※国の交易を担う 処事光明(Integrity and Fairness) 立業貿易(Interinational Understanding through Trade)
生産者と消費者に対する自社の社会的責任
三綱領につながる、小彌太の哲学を今回から3回に分けて1つずつみていきたいと思いますが、まず1つ目は「生産者と消費者に対する自社の社会的責任」についてです。
「我々は大いに競争すべきである。Fair Competitionなればどこ迄も争うべきである。然し乍(なが)ら、私は我々の競争をして量(Quantity)の競争たらしめず、寧ろ質(Quality)の競争たらしめたいと考えるのであります。 よく聴くことであるが、某会社は何億の仕事をして居る、三菱として之に劣ってはいけない。某会社は油を何千万円取り扱って居る、三菱は僅かにこれだけである、等々。 これらの議論はその勇気や賞すべくその意気や愛すべしでありましょうが、私は競争するに先立ちてまず自ら揣る(はかる、推し量る)ことが極めて必要であると思う。(中略) 若し競争に熱中し数字上の成績を挙ぐることに急なる余り、手段方法を撰ばないという様になっては、我が社創立の伝統に照らして遺憾であり、かつ頗る危険である。此処に至っては全体の目的の破壊であって、許すべからざることである。」 (『岩崎小彌太~三菱を育てた経営理念』90p)
また渋沢栄一も、 「何をしても富を増やし、地位を得られさえすれば、それが成功と考えている者もいるが、しっかりと道徳観念をもって、正しい意義・目的と正しい方法・やり方で得た富や地位でなければ、完全な成功とは言えない、現在利己主義の人が増えていて、国を豊かにするよりも、自分が豊かになることを大切だと考えたり、自分が成功するための手段を択ばないという風潮が出てきて嘆かわしい。」
と語っており、やはり歴史に名を残す経済人は、経営にすぐれているだけでなく、大きな志をもち、自らの社会的役割を強く意識する立派な方々だと改めて感じました。
渋沢は驚異的な行動力と商売の成功の種を嗅ぎ取る直観力に優れ(天才的な商才)、小彌太は和魂洋才のバランスの良い経営感覚と組織経営・デザインに優れている経営者という、タイプが違う2人ではありますが。
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