「とりあえずここに置いとこう」が事故のもと~バックヤードの片付け、バラつきをなくすには

スーパーのバックヤードや倉庫の扉がたまたま開いている場面に遭遇したことはありませんか。積み上げられた段ボールや緩衝材、梱包資材がそのまま放置されている光景を目にすると、なぜか残念な気持ちになります。
商品を補充するために開梱した空き箱や、まだ中身が残っているが整理されていないカーゴやトラックカートが通路を塞ぎ、買い物の妨げになってしまうケースは少なくありません。そればかりか小さな子供や年配の方がつまづいて転倒したり、ぶつかった拍子に別棚の商品を破損させるなどの事故を誘発します。
片付け処理が甘くなるのは単なる「意識不足」の問題ではなく、業務の仕組みや人の心理、さらには店舗運営の課題が複雑に絡み合った結果です。本稿では、スーパーの倉庫に段ボール等が放置される理由を掘り下げ、その背景にある要因やリスク、改善のための視点を整理してみたいと思います。
放置される段ボールなどの梱包資材、4つのよくあるパターン
梱包資材が倉庫や通路に残される状況には、いくつかのパターンがあります。
- 商品を補充した後、次の業務にすぐさま取り掛からなくてはならない
売り場に商品を並べた直後、次の作業に追われ、空箱を適切に片付ける余裕がない。 - 返品や在庫調整用に保管されているが、明確な管理者がいない
どうしたらいいか誰に尋ねても的を射た回答が得られないため、「とりあえずここに置いておけばよさそう」という判断となり、結果、誰も手をつけない。 - まとめて廃棄・回収する時間が決まっているため、それまで一時的に山積みされる
業者の回収までに時間差が生じ、倉庫が段ボールで埋まってしまうために、本来の置き場でないところに仮置きせざるを得ない。 - 片付けルールを守らない従業員が一定数いる
「どうせ誰かがやってくれるはず」「いまやるのは面倒」という気持ちがあり、自分が担当したものを正しい置き場所でないところに雑多に放置する。
なぜ片付けが後回しになるのか~売り場優先/曖昧な責任/ルールの形骸化
- 業務の優先順位の問題
スーパーなどの小売店舗では「売り場最優先」の意識が根強くあります。開店時間やピーク時間帯に合わせて商品を補充することが第一であり、空き箱を片付けるのは「後でできる作業」として軽視されがちです。その結果、次々と新しい商品が運び込まれ、倉庫には段ボールが滞留していきます。 - 物理的なスペースの制約
多くの小売店は売り場面積を最大化するため、バックヤードの広さを最小限に抑えています。そのため段ボールや発泡スチロールなどの一時置き場が不足し、結果として「とりあえず邪魔にならない場所に置く」状態が常態化してしまうのです。 - 責任の所在が曖昧
「誰が片付けるのか」が明確にされていないケースも多くあります。担当部門の商品補充を優先するあまり、空き箱の処理を「次のシフトのアルバイトがやるだろう」と他人任せにする風土が根付いてしまいます。 - 作業道具の扱いのずさんさ
開梱のために使うカッターの刃を出しっぱなしのまま床に放置する、ハサミやガムテープを使い終わっても所定の場所に戻さないといった状況も、搬入や品出し業務が滞る一因です。何も知らない他のスタッフがバックヤードに入ったとたんに手先や足首を切ってしまったり、必要な道具を見つけられずに作業が後回しになって搬入口にますます段ボールが積み上げられていったりといった事態が生まれます。 - 片付けルールの形骸化
「片付けは各自の責任」と掲示されていても、忙しさや人手不足を理由に徹底されないことがあります。一部の従業員がルールを守らなくても注意されなければ、やがて全体に「やらなくてもいい」という空気が広がってしまいます。
放置された段ボールのリスク~安全/効率の低下/衛生/チームワーク
- 安全面のリスク
通路が塞がると商品の搬入が滞り、転倒事故や商品の破損にもつながります。また、積み上げられた段ボールが崩れ、従業員やお客さまに怪我を負わせる危険もあります。 - 作業効率の低下
倉庫内の動線が妨げられることで、必要な在庫を探す時間が増加します。小さなロスの積み重ねが、全体の効率を大きく下げ、売上を減らしてしまう要因となります。 - 衛生管理上の問題
放置された段ボールはホコリをため込み、害虫の温床にもなりかねません。特に食品を扱うスーパーにとっては致命的なリスクです。 - チームワークの悪化
「自分ばかり片付けている」という不満が生まれてしまうと、従業員同士の摩擦や士気の低下につながります。
改善に向けた取り組み~スタッフ全員が自分の仕事と感じるために
- 片付けの業務を「作業の一部」として位置づける
「商品補充=片付けまで完了して一つの作業」と定義し直すことが重要です。売り場に並べて終わりではなく、開梱した段ボールや空箱を所定の場所に移動させるまでを担当者の責任とするルールを徹底する必要があります。 - 物理的な仕組みづくり
- 使用後の資材一時置き場を明確に区画する
- 回収業者のスケジュールに合わせた処理時間を設定する
- 必要なら圧縮機や専用コンテナを導入し、処理を効率化する
- 道具管理の徹底
カッターやハサミ、ガムテープは定位置管理を行い、「使用後は必ず戻す」を徹底します。道具の乱れが片付けの滞りを生むことを周知し、全員が守る文化を育むことが欠かせません。 - 全員参加型のルール運用
片付けルールは一部の人だけで守るのではなく、全員に共通の責任として認識させることが肝要です。朝礼での声かけや定期的なチェックリストを用いることで、「やらなくてもいい」という風土を払拭できます。 - 見える化とフィードバック
倉庫内の状態を写真で共有したり、整頓度合いをスコア化して掲示したりすることで、意識が高まります。改善が見えれば達成感も生まれ、前向きに取り組みやすくなります。
安全と効率を守るために~片付けの仕組みと意識の改善が不可欠
スーパーの倉庫に段ボールなどがいつまでも放置される背景には、単なる怠慢だけでなく、業務の優先順位や物理的な制約、責任の曖昧さ、さらには職場の文化までが影響しています。しかし、これらの片付けを「安全と効率を守るための必須業務」と再定義し、仕組みと意識の両面から改善に取り組むことで、バックヤードの環境は大きく変えることができます。職場の安全性・効率性・人間関係をも左右することを理解し、現場全体で取り組む姿勢が求められています。
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