福祉・こども局職員に求められる「公平な対応力」と「心のケア」～虐待対応・人手不足の中で支援の質を守る

福祉局やこども局の仕事の多くは、他者の痛みに寄り添い、解決に向けた道筋を探る、「人生」に深く関わる専門性の高い仕事です。たとえば、児童や高齢者の家庭内虐待、生活困窮、障がい福祉など、職員はさまざまな人生の課題に向き合う必要があります。一つひとつの事案に正解はなく、家族や当事者の事情によって最適解が異なります。

一方で、行政としては公平なサービス提供が求められます。「誰に対しても同じ基準で支援する」という原則を守りながら、複雑なケースに柔軟に対応する。そのバランスを取ることは容易ではありません。

さらに、人手不足や複雑化する業務の中で、職員が専門性を維持し、健全な精神状態で職務を全うできるよう、組織的なサポートが不可欠です。本記事では、職員の公平な支援と心の健康を両立させるために組織ができる対応策を解説します。

公平なサービスとは「同じ扱い」ではなく「等しい支援」

全体の公平性を追求するための個別化された支援

行政における「公平なサービス」とは、「誰に対しても同じ対応をする」ことではありません。支援を必要とする背景やリスクは人によって異なるため、状況に応じて必要な支援を適切に届けることこそが真の公平性です。

たとえば、虐待を受けた子どもとその保護者を支援する場合、単に手続き上の支援策を案内するだけでは不十分です。家庭環境の改善や心理的ケアが必要なケースでは、関係機関との連携や継続的なフォローアップが欠かせません。目指すのは、形式的な手続きを越え、支援を受ける方の個別な背景を深く理解し、必要な支援を適切にコーディネートすることです。

公平性を支えるのは「判断基準の共有」

現場の判断が職員ごとにばらつくと、「あの人は対応が厳しい」「この人は甘い」といった不信感が生まれます。これを防ぐには、チーム内で支援方針や判断基準を明文化し、共有することが重要です。ケース会議や振り返りの場を定期的に設け、どのような観点で判断したかを言語化することで、職員個人に依存した支援から脱却しやすくなります。

支援の質を守るための心理的ケアと職場風土

「支援疲れ」からくる感情の麻痺を防ぐ

支援を続けるうちに、職員が感情を抑え込むようになることがあります。悲しみや怒りを感じても「仕事だから」と飲み込み続けると、共感疲労（コンパッション・ファティーグ）と呼れる状態に陥る危険があります。他者への共感を続けることで精神的に疲弊してしまう状態です。この状態になると、支援対象者に対して冷淡になったり、必要な対応を避けたりということが起きえます。

また、人員確保が難しい中では、どうしても特定の職員に負担が集中しがちです。その状態が長期化すると、支援の質にも影響が出ます。「担当制」に偏らず、チームで支援情報を共有し、誰かが休んでも業務が滞らない体制を整えることが求められます。

職員自身の心の健康を守ることは、対象者を守ることと同義です。専門家の支援を得ながら、日常的に感情を表出・整理できる仕組みを職場内に持つことが欠かせません。

上司・同僚による「支え合い」が職員の心を守る

感情の負担を軽減するには、上司や同僚が日頃から「声をかけ合う文化」をつくることが効果的です。「今日はつらい案件だったね」「無理していないか」といった一言が、孤立感を和らげます。また、スーパービジョン（より熟練した職員から、教育・指導・助言を受けること）やケースレビュー（支援方針・対応方法をチームで共有・検討すること）を通じて、専門職としての判断を他者と共有することも重要です。支援を個人の責任にしない職場づくりが、結果的に支援の質の向上につながります。