銀子の一筆

冒険者

大寒を過ぎて春遠からじとはいうものの、まだ寒い。南北に長い日本には、北には北の、南には南の気候に沿った家や暮らし方がある。 北海道に住む知人は上京して、建物自体が寒くて風邪をひいたと言っていた。なか程の東京でも北風の外に出る時は、まだ気合と勇気が必要な日が続く。

人間は大昔から胸中に、まだ見ぬものへの憧れを抱いているのかも知れない。 民族大移動や大航海時代ではなくとも、進学や就職など不可避の理由による移動でさえ、見知らぬ土地への期待と不安を携えている。 選んで定住している人々も、心の内には「ここではないどこか」への憧れがあり、「今日ではないいつか」の実現を漠然と夢見ている気がする。 原初の呼び声に従って明日の保障のない探検に踏み出すよりも、日常の平穏を望む多くの人は小旅行や転居・転職などによって、よりよい明日を目指すのかも知れない。

◆熱い希求

私はかつて、3人の冒険家と話したことがある。
一人は著名な極地探検家・登山家で、世界で数々の歴史的な記録を残したが、単独行の氷河に消えた。 もう一人は野生動物や極地の自然を求めた(その世界では有名な)探検写真家だった。彼は美しい作品を多く残して、被写体のはずだった熊に襲われて生涯を閉じた。 それらの挑戦を知る人の中には「本人にとっては本望だったかもしれない」などという人もいたが(果たしてそうか?)。どちらの訃報も大きな衝撃だった。

もう一人は当時、無名の大学院生で、洞窟・地底探検家だった。アルバイトで資金を貯めては、各地の洞窟に潜っていた。 その後、世界に足を延ばしているという噂を耳にしたが、今も健在かどうかわからない。いずれの人も別々の機会に紹介されて、一度話しただけだ。 彼らの希求はそれぞれ別のところにあったが、共通している印象があった。雄弁になるのは自分が目指す未知の領域についてだけ。 そのほかのことに関しては、どちらかというと穏やか過ぎて頼りなく無口で、絵本や小説に登場するような豪傑ではなかった。 想像とは違うそのギャップが控えめな口調とともに、今も強く印象に残っている。胸奥に強くて固い熱い夢を抱く人は、どうでもいい世俗的なパフォーマンスには興味がなかったのかも知れない。

◆日常の冒険

極地や洞窟には行かないが、私はよく探検している。知らない街の知らない建物など、偶然に出会う不思議な構造物に惹かれる。 最近、私が散歩の途中で見つけたのは、古い家の2階部分の北側外壁に突き出た小さな庇で、下に小さな窓がきちんと塗りつぶされた跡があった。 せいぜい10×50㎝ほどの塗りつぶしに足場を設けるとも思えないので、多分、高梯子を使ったのだろう、庇を外して建物に傷をつけるのを避けて残したのだろう、 どんな間取りを改築したのだろう、と想像が膨らんで楽しかった。その気になれば、いつでもどこでも探検はできる。

探検と冒険と挑戦は似ている。新しい仕事に入るとき、私は探検をするつもりになっている。 私にできる仕事は、さほど困難なものではないだろうが、そこにはそこのルールがあり、クリアすべきポイントや落とし穴がある。向っていけば面白さも興味も湧いて、毎日が楽しくなる。 以前、弊社の「giraffe(ジラフ)」という適性検査(あるいは性格診断)を受けたら、「大航海時代のスペイン人」と結果が出た。 自分では「農耕好きの遊牧民」だと思っていたが。そういえば若い頃、スペイン人の友人に「キャンディード!(率直、楽天的)」といわれたことがある。 そうか、だから私は世の中の荒波にもめげずに、毎日冒険にでかけられるのか、と妙に納得した。

2022年1月26日 (水) 銀子

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