銀子の一筆

知ってるだけじゃダメよね

街のあちこちに花が増えて、脳がかじかんで上手く動かない寒さから、やっと解放された。

だが、遠からず脳が茹って上手く働かない夏が来る。春秋は陽気が良くて気が散るし。
こうして年間通して何かのせいにして怠けていると、更なる経年劣化で脳は錆びついてくる。困った。困った。

教養とはなんだろう。知識だけでは教養といわない。
文化とはなんだろう。知識だけでは文化は生まれない。
そこに精神がなければ、知識はあれば便利だが活用されるのを待つただの道具のようだと思う。 そして、知識に頼らず真摯な意思と地道な経験を積んだときに、教養も文化も花開くような気がする。知識は速成できるが、教養や文化は熟成時間がかかる。

◆贅沢な時間

昔、ドイツ人の別荘に遊びに行った時、河口湖を臨むベランダで昼食をとった。 ライ麦パンにチーズや生ハムを乗せた簡単な食事だったが、出されたワインがおいしかった。
そう言うと、ドイツ人はたいそう喜んで「おいしいでしょう。これはお気に入りの日本のワイン。 甲府のワイナリーに買いに行くが、非常に安い。これで3000円(当時)」と言って一升瓶よりも大きな瓶(3リットル入り?)を見せてくれた。

ワインに詳しくない私にも安いのがわかったが、好きな味であることに変わりなく、ドイツ人家族とさまざま話が弾んだ。

私には薀蓄(うんちく)というものがほとんどなくて、聞いても覚えられないし、ついどうでもいい、と思ってしまう。 何につけても好きか嫌いかだけが選ぶ基準だった。
「それでいいよね」と思える楽しいひと時だった。

◆資格が必要な時間

ある時、知人のホームパーティに招かれた。料理も豪華でおいしかったが、コースに合せて出されたワインもおいしかった。

すると、ワインの愛好家である知人の夫が、ワインの薀蓄を語り始めた。 一同「はあ~」と感心するばかりだった。
中の一人が「でもワインって飲み過ぎると頭が痛くなるわよね」と言った。
みんながうなづきそうになった時、彼は突然立ち上がって、「どんな酒でも飲み過ぎれば、頭が痛くなる。君にはワインを飲む資格がない!」と指差して大声で叱った。
(資格?彼女にはワインを飲み過ぎて頭が痛くなる権利がある)

せっかくの楽しい食卓だったのに、一気に空気は凍りついてしまった。
その後、彼が言う冗談にも居心地が悪く、一同は礼儀正しく早々に引き揚げた。

何かについて詳しく知るには、非常な探究心が必要になる。
何かを勉強することは、素敵なことだ。
でも、多くの知識があることと人間の質とは、まったく関係がない気がする。

◆アウトプットは氷山の一角

私は最近、ビジネスにおける知識と情報の違いは、なんだろうと考えている。
知識は引き出しに入れて必要な時に取り出せばいい。
しかし、(情報にもいろいろあるが)変化し続ける今情報は、どんどん鮮度が落ちて、活用しなければデッドストックになってしまう。

私の知っているビジネスパーソンは、非常な勉強家だ。
彼はいつも何か(ハードカバーだけでなく、時には漫画)本を持っている。 いつも新しい情報や注目点をみんなに発信している。それなのに、少しも知識や薀蓄を語らない。

多分、得た知識を咀嚼して、自分の体験に基づき整理して、即座に活きた情報として行動に移しているのだろう。 私のようなオフィスの片隅にいる者にも、形だけの知識なのか、身についた分析からの情報なのかわかる。

情報を整理整頓して、取捨選択することの重要性はドラッガーも述べているが、思う程簡単なことではない。

多くはただの知識の収集、または情報の流れに踊らされることになる。

膨大な情報を慎重に迅速に整理選択して、行動に結び付けられる明晰なビジネスパーソンを、上司にもった部下は成長が大きいだろうと感じる。

情報整理の時間や技量が足りなくても、誤った方向に向かうのを防止できる。

◆良い研修と悪い研修

そこで今更、「あ~そういうことか」と気がついた。
今まで良い研修と悪い研修を考えたことがなかった。 良い研修とは、こうした得難い上司から、知識だけではない活きたコーチを受けるようなものだ。
一見スキルのノウハウ講座に見える研修も、経験による洞察から生み出された、理念とブレない現場視点に裏付けされた情報発信なのだ。

ほかの研修会社を知らないのに、私は手前味噌が過ぎているかもしれない。
ほかの企業に勤めたことがないのに、短絡な気もする。
しかし多分、この会社の研修は信頼できると思う。 なぜなら、この会社で、そうした上司を何人も見聞きしてきたから。 どうか中身の濃い研修が誰かの刺激になって役に立ちますように、と今更ながら願うようになった。

2021年 4月 28日 (水) 銀子

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