■逆輸入される「ikigai」
日本はこれから深刻な労働人口の減少が予想される中、本格的にシニアの働く場の整備や就業機会の確保が進められています。
2021年4月、「高年齢者雇用安定法」の一部が改正されました。
シニアの就労はもはや個人の問題ではなく、国や組織が見直しを迫られるテーマとなっています。
※参考:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html(最終アクセス:2024/05/09)
とはいえ、60歳定年を目指して頑張ってきたベテラン世代はこの事実をどのように考えているのでしょうか。
私の周りのビジネスパーソンには「元気なうちは働きたい!」と前向きに話す人が多くいます。しかし、「70歳まで働くことについて何か不安はありますか?」と尋ねるとこんな意見が出てきました。
●若いころの様に、無理がきかない。体力が続くか自信が無い
●再任用、異動などで、経験のない仕事を任され、これまでやってきたことが活かせないのではと不安
●介護と仕事の両立ができるかわからない
●年金が心配で、働き続けなければならないが能力の衰えも気になる......
このように、ベテラン世代は、健康上の衰えに加え、マインド、プライド、モチベーションの観点からも仕事以外の悩みを抱える人がいます。
この他にも、人生後半には様々なロス(地位・体力・お金・家族・友人・ペット......)との闘いがあり、いかにモチベーションを保ち働き続けられるかに関心が高まっています。
そんな中、「ikigai(生きがい)」という日本語が「仕事と人生の質を向上させるための日本の概念」として世界に広まっています。
日本で暮らした外国人著者の「ikigai」という本がベストセラーになり、BBCなど海外メディアで特集され、世界規模に広がりました。
下記の図をご覧ください。
こちらの図は、「ikigai」という概念を「必要とされる」「得意」「好き」「稼げる」の4つの構成要素で表したものです。
円が重なった部分に相乗効果が生まれ、4つの要素全体の集合部分が「ikigai」になります。
様々なロスを感じやすい人生後半において、元気や活力を見出す源となるものです。
本日はこの図を元に、人生100年時代を豊かに楽しく生きていくために何が必要か、ビジネスパーソンにとっての「ikigai」をお伝えします!
ビジネスパーソンにとって「必要とされる」とは、「話を聞きに来る部下や後進がいる」ということです。
業界をよく知っている・横のつながりがある・豊富な事例や経験談を知っているこんなベテランの意見を、部下や後進は聞きたいものです。
必要とされるためにできること例
♦後進の成長を考え、メンターとして活動する
♦リーダーを支援するフォロワーシップを発揮する
♦視野の広いコミュニケーションで組織の潤滑油となる
✿「ikigai」を持って働くベテラン
「相手の立場に立って、"相手のために何ができるか"を考え続ける先輩になりたい」
「教えるというより、何度でも穏やかに伝えたい」
「かつての部下に対しても、ひとりの人間として、謙虚にお互いの会話を楽しみたい」
●「ikigai」を持てずに働くベテラン
「以前の部下が上司になった。新人の頃は私がよく面倒をみてやったのに......」
「意見だけは聞かれるが、何かを決める会議に呼ばれない。どういうことだ」
ベテラン世代には、様々な課題を解決してきた経験者として、迷ったり悩んだりする若手社員を導く役割が求められます。
かつて管理職だったとしても、1プレーヤーとして意識を切り替えるようにしましょう。
現管理職の良き参謀として協働することがベテランには期待されています。
ビジネスパーソンにとって「得意」とは、「知識・経験など自身が培ってきたものを活かす」ということです。
得意なことの活かし方例
♦他部署や社内外の人脈を活かした調整ができる
♦経験則を活かした仮説をうちたて、企画書を作成することができる
♦業務に精通し、多目的に検討できるベテラン世代ならではの視点を活かし、データを分析することができる
✿「ikigai」を持って働くベテラン
「自分が培ってきたものをいかに後進に引継いでいくかが頑張りどころだ」
「自分が中心になって活躍するだけでなく、名脇役になっていきたい」
「独自の発想や他と違う視点を持ち、規制に縛られず、常に何が大事かを考えたい」
●「ikigai」を持てずに働くベテラン
「私たちの時代は自ら学んだもんだ。若いやつはガッツがない」
「自分には教えられることなんて何もないから......」
専門分野での知識・経験(ナレッジ)を継承していくことは、ベテラン世代に課せられた「使命」でもあります。
しかし、得意なことに固執しすぎると、新しい技術が入ってくることに適応できず自らの居場所を狭めることになります。
例えば、専門職として上位に立っていた方は、仕事が属人化しがちなので注意が必要です。
また、「得意なことが何もない」「専門性がない」と謙遜し自信を持てないでいると、働きがいを感じにくくなります。自分に期待されていることは何か、より活躍できる場所はどこか、強みを自ら見つけていくことも必要です。
ビジネスパーソンにとって「好き」とは、「好奇心をもって働き続ける」ということです。
新しい環境におかれても「好き」な分野を学びなおすことは喜びであり、常に好奇心を失わないことはモチベーションを高めます。「好き」を深め続け、社内外の情報に追いついていく姿は人に信頼され、新しい仕事を任されることにもつながります。
好奇心を失わないためにできること例
♦新しい技術をキャッチアップして常に学びなおす
♦新しい「何か」を探し、周囲にも積極的に情報を共有する
♦「好き」を掘り下げ深める
✿「ikigai」を持って働くベテラン
「面白いことを見つけて笑うようにしている」
「面白いと思って、無知を恥じずに勉強することを課している」
●「ikigai」を持てずに働くベテラン
「新たな技術や業務の革新についていけるか不安」
「部下は持ったことがないから後進指導なんてできない」
好奇心を失うと成長を止めてしまい、チームの足並みを乱します。
自分が「楽しい」と思える業務と組織への貢献が兼ね合う働き方を模索しましょう。
楽しめる仕事を意識的に創っていくことが大切です。
組織において「稼げる」とは、「組織の業績に貢献できる自分である」ということです。
チームのためにできること例
♦コストを考え業務を改善する
♦自身の業務に対して期待される成果が出せるよう自分を律する
♦相互補完をし合える若手メンバーと組んで仕事をし、生産性を向上させる
✿「ikigai」を持って働くベテラン
「お客さまを喜ばせ、社会に役立つ活動を続けたい」
「経験値を新たな業務などにも活かし、品質とそれを生み出す組織にプライドを持ちたい」
●「ikigai」を持てずに働くベテラン
「上司からの指示により長年これでやってきたから......」
「昔(好景気の頃)は良かった......」
今までのやり方や良かった時代に固執して、組織の成果向上を阻むことは、チームのモチベーションも下げ、悪影響をおよぼします。
ベテランになると任されることも多く、上司の細やかな育成や管理が減るケースも見受けられるものです。
そのため、結果や成果が組織の期待に見合うよう、仕事の品質や進捗に関して責任を持つことが求められます。ストレスやモチベーションに関しても自分で自分を律することが「稼げる(組織に貢献できる)」につながります。
■「ikigai」を持って働くために
ベテラン世代の「ikigai」は失われやすく、常に不安や環境の変化と隣り合わせです。しかし、働くうえでの「ikigai」を自ら見つけ、組織に貢献しようと主体的に行動する姿勢は、どんな世代にとっても目指すべき姿であるといえます。
「ikigai」は生き方でもあり、人の数だけ「ikigai」があります。
今回ご意見を聞いたベテラン世代の中に、「"Think globally, act locally."視野は広く、地域に役立つよう行動したい」と語った方がいました。自分はこう生きたい、こんなふうに働いていきたいとはっきり語れる人生の先輩が、私にはとても格好良く見えました。
人生100年時代は、今まで誰も経験してこなかった未来の訪れでもあります。
先達に学び、「ikigai」を探し続けながら進んでいきたいものですね。
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