銀子の一筆

無数の異論

「正月」とは、1月の1日から7日あるいは15日までをいうことが多いが、一般には仕事始めの数日を過ぎればビジネスモードの平日に戻る。
親類縁者知人などが集まって親睦する機会が多いことから、古称では1月を「睦月(むつき)」と呼ぶ。
イベントごとの多い今年は、さらにグローバルに新たな親睦も生まれるだろう。

世の中には変わり者と呼ばれる人がいる。
変人が天才とは限らないが、天才には奇人変人が多い。平賀源内、司馬江漢、南方熊楠など、友人だったら楽しそうだが、家族だったら苦労が絶えないだろう。
周囲を気にせず、自分の興味が向くところに一心に集中する人に私は好意的だが、今日ただ今の実利を評価する現代の世の中には受け入れられにくい。

企業では効率・生産性が最優先され「みんなと同じ」が扱いやすい労働者と認められるのかもしれない。しかし企業のアイデンティティを支えるのは人間、様々な人間を許容できないと独創性は生まれにくい。
「みんなと同じでなくてもいい」はダイバーシティの基本と同時に、アイディアの基盤でもある。

昔はよく実施したものだが、今でも制作現場ではブレスト(ブレーンストーミング)が行われているのだろうか。
ブレストは文字通り、仲間が集まって刺激し合い脳に嵐を起こして、一人では限界のある「アイディア出し」を活発にするために行われる。最小限のルールは否定や評価をしないこと、結論を出さないこと、できるだけ多くのアイディアを出し合うこと。

通常は制作スタッフ間で行われるブレストだが、約40年以上前、時々企業の制作室から呼ばれて参加することがあった。
広告業界の最盛期、若くて仕事が面白くてならなかった私は尖っていた。

ある企業での活気がなかったブレストからの帰り道、仲良しの先輩デザイナーに私が言った。「自分の仕事に意見がないなんて、悪い意見よりも良くない反応だと思う。興味がないのかなぁ」 すると、彼は「ずいぶん恐ろしいことを言うね......」と言った。(えっ? 私?)「昔、僕が勉強した『一般意味論』、君も読んでみると良いかもしれない。僕はその中に「正しい」と共感できることを見つけて大事にしている」と前置きして説明してくれた。

大雑把に言うと、『一般意味論』は、白か黒かの二値的二元論を否定する思考法だといっていい。 さっき君は意見を言う人と言わない人を分けたけど、その間には「言えない人」「言わない人」「言いたくない人」「言い過ぎてしまった人」「言わされた人」「言い直したい人」など、二極以外に個別の沢山の「意見」があるんじゃないか?
......もちろん「意見を言わない人に言わせる」とか「聞きただす」とかは論外。 ただ、「目に見えない多くの意見がある」「表現されない様々な思いがある」と認識したうえでブレストするのと、期待通りの意見を言わない人を「意見がない人」として切り捨てるのとでは、大きく違ってくる。 どちらでも仕事の進行や成果に直接は影響ないだろうけど、君のこれからの人間的な成長にとっては非常に大事なことだと思う......。

私のバカ! なんたる無知! なんという思い上がり! 頭の上にハンマーを振り落とされたような衝撃を受けた。

そして私は、『一般意味論』の代表的な学者であるA・コージブスキーとS・I・ハヤカワの著作を噛むようにじっくり読んだ。
信奉するほど詳しく研究したわけではないが、以降の私の思考に大きく影響した。誰もが陥りやすい「正義は一つ」という無邪気な二値的発想は派閥を作り、敵を作り、争いを生む。
世の中のニュースで分かってはいても、私は時に思いもかけぬ異論や曲解に怒りを覚えることもある。 が、それでも私は、見えても見えなくても答えは人数分だけあると信じ、どんな意見でもなるべく感情的にならずに受け止めようと努めている。

一般意味論の発表から80年以上、科学技術の発展は著しく、間もなく月旅行も夢ではなくなる。比べて、人間の内面の進歩のなんと遅いことか。
家庭で職場で、社会で世界で、未だに二値的な紛争が絶えないとは。そして未だに世間から弾き出されてしまう「みんなと同じじゃない人」が多くいるとは。

古めかしい対立や固執の上に、2025年問題・シンギュラリティ・労働力不足・温暖化など押し寄せる変化は膨大。何とか力を合わせて何万通りの意見を出し合って、「今後マネジメント」をしていかなきゃね。

2020年 1月 15日 (水) 銀子

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