新人育成と管理職強化のどちらが先かを見極める~限られた予算で最大効果を生む優先順位づけ3つの視点
「限られた教育予算の中で、どの階層の研修を優先すべきか」。多くの人事部門が直面する難題です。
全社教育改革を掲げても、すべての階層に同時に投資するのは現実的ではありません。新人教育から始めて現場力を底上げするか、管理職教育から着手して組織の方向性を整えるかを、判断するには戦略的視点が欠かせません。
本コラムでは、「ボトムアップ方式(新人層から)」と「ミドルアップ方式(管理職層から)」の両面から、そのメリット・デメリットを分析します。さらに、どのような観点で優先順位を決めるべきか、人事がおさえるべき働きかけのポイントを紹介します。
新人教育から始めるボトムアップ方式の戦略と効果
現場力を育てる第一歩としての新人教育~当たり前のレベルをそろえる
ここでいうボトムアップ方式とは、新入社員や若手層など、現場の最前線で働く層から教育をスタートさせるアプローチのことを示しています。基礎的なビジネスマナーやホウ・レン・ソウ、主体的な行動姿勢などを身につけさせることで、現場の「当たり前のレベル」をそろえることができます。
この方式の最大のメリットは、現場に新しい風を吹き込めることです。新しい価値観や行動基準を持つ新人が増えることで、既存の現場メンバーにも刺激が生まれます。特に、これまでなんとなく仕事を進めることが常態化している組織ほど、若手の意識変化が全体に波及する効果が期待できます。また、教育を通じて新人の早期離職を防ぐ効果もあります。会社として「あなたを育てたい」というメッセージを発信できるため、エンゲージメントが高まりやすいのです。
ボトムアップ方式がもたらす「上層への刺激」~このままではよくないかも、という意識醸成
新人教育を強化すると、現場上席者や先輩社員の危機感を醸成できるという副次的な効果もあります。「新人がこんなにしっかりしているのに、自分たちはどうか」といった内省を促すことができ、結果的に現場全体の成長意欲を高められます。
とくに近年では、年功序列よりも実力重視の風土づくりを目指す企業が増えています。下の世代が力を発揮する構図は、こうした文化変革の第一歩となるでしょう。
デメリット~先輩社員が後ろ向きだと効果が定着しない
ボトムアップ方式には落とし穴もあります。新人が研修で学んだスキルや姿勢を現場で発揮しようとしても、受け入れ側である先輩社員や上司が後ろ向きである場合、効果が定着しにくいのです。
たとえば、新人が「ホウ・レン・ソウをこまめにしたい」と意欲を見せても、上司が「そんなのいちいち言わなくていい」と冷たく返してしまえば、せっかくの学びは無意味になります。教育の成果を現場に根づかせるには、やはり指導側の意識改革も並行して行う必要があります。
管理職から始めるミドルアップ方式の戦略と効果
影響力の大きい層に投資する合理的アプローチ~最大効果とスピード
ここでいうミドルアップ方式とは、管理職層やリーダー層など、組織の中核を担う層から教育を始める方法のことを表現しています。限られた予算の中で、最も組織全体に効果をもたらす層に先に投資するという発想に基づいたアプローチです。
管理職は上下どちらにも影響を与える立場にあります。研修で学んだ内容がすぐに部下指導やチーム運営に反映されるため、変化のスピードが早いというのが大きな利点です。特に、企業変革期や事業転換期など「方針の浸透」が求められるタイミングでは、管理職層の教育から始める方が効果的です。リーダー層が一枚岩になることで、組織の方向性が明確になります。
デメリット~参加意欲や時間確保の難しさ
しかし、管理職層からの教育改革は、本人たちの参加意欲や時間の制約という大きな課題を抱えます。多忙な中で研修に時間を割くのが難しく、「管理している現場を離れてまで学ぶ必要があるのか」と抵抗を示すケースも少なくありません。
また、すでに一定の経験や成功体験を持つ層であるため、学びの必要性を実感しにくい傾向もあります。教育効果を引き出すには、「これは自分に関係がある、今悩んでいる業務に使えそうだ」と感じてもらえるよう、実務直結型のプログラムを設計することが欠かせません。
どちらから始めるべきかを判断するための3つの視点
教育をどの層から始めるかは、単純にどちらが良いか、正しいかという話ではありません。人事部門が意思決定をする際には、次の3つの視点から戦略的に判断することが望まれます。
1.現場の停滞要因はどこにあるかを見極める
まず確認すべきは、教育改革の必要性の発端、たとえば現場の生産性やモチベーションが低下している要因が、どの層に起因しているかです。
新人が伸び悩んでいるのか、管理職が指示を出せていないのか、それによって優先順位は変わります。若手の意欲が低くクレームが頻発する、指示待ちが多いなどの場合は、ボトムアップのほうが効果的です。逆に教育文化がなく離職者が後をたたないといった場合は、管理職層へのアプローチが先です。
2.組織文化を変えたいのか、スキルを底上げしたいのか
教育の目的が文化変革であるなら、ミドルアップ方式が向いています。管理職が意識と行動を変えることで、組織全体の空気を動かせるためです。
一方、「現場の基本行動を整えたい」「顧客対応の質を上げたい」といった具体的なスキル改善を目的とする場合は、ボトムアップ方式が適している、と考えられます。教育の目的と期待する成果を明確にすることで、適切な優先順位づけができます。
3.教育の受け皿が整っているかを確認する
教育の効果を定着させるには、研修後のフォロー体制が必要です。新人教育を先に行う場合は、先輩社員がその成果を受け止められるような環境づくりが不可欠です。一方で管理職教育を先に行う場合は、部下との面談や指導を通して学びを実践できる場を設けましょう。
教育そのものよりも、「学びを現場に還元できる仕組み」を整えることが、改革の成否を分ける要素となります。
全社教育改革を成功させる「経営と現場の橋渡し」3つのポイント
全社教育改革を進めるうえで、人事部門は単なる研修実施部門ではなく、経営と現場の橋渡し役としての機能が求められます。
とくに意識すべき働きかけのポイントは以下の3つです。
- 経営層に対しては、「教育投資の効果」を数値や事例で可視化し、理解を得ること
- 現場に対しては、「研修は現場を支えるためのもの」というメッセージを発信し、参加意欲を引き出すこと
- 管理職層に対しては、「教える側としての覚悟」を促し、教育文化の定着を担ってもらうこと
これらを同時並行で進めることで、限られた予算でも高い効果を発揮する教育改革が実現します。
「どちらか一方」ではなく、連動で教育の好循環を生み出す
新人教育を先に行うか、管理職教育を先に行うかは、どちらも一長一短があります。重要なのは、「どちらか一方を選ぶ」ことではなく、双方を連動させて教育の循環を生み出すことです。
新人教育で生まれた意欲を、先輩社員が育てる。管理職教育で培った指導力を、次世代育成に活かす。このような連動こそが、全社教育改革の本質です。
教育体系・研修体系見直しサービス
教育・研修体系は、対象者全員が学んでよかった・役に立ったと実感できなければ意味がありません。このことから「現場社員が参加するワークショップ」を活用してスキルマップを作成することからご支援を始めます。
見直し初年度以降も、その効果がどの程度出ているかを検証し、必要な調整や新たなご提案をいたします。
セットでおすすめの研修・サービス
階層別テスト|ビジネスで必要な「知識」と「活用力」を測定するテスト
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組織を継続的に成長させるには、将来のリスク(好機、脅威)に応じた、継続的な改革・改善が必要です。


