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【エフェクチュエーション7】人事部門の戦略~目的思考と手段思考を戦略的に使い分ける具体例

このコラムシリーズの冒頭【エフェクチュエーション1】でも述べたように、コーゼーションとエフェクチュエーションはどちらが優れている、というものではありません。

これらのアプローチはそれぞれ補完関係にあり、たとえば自組織が企業のライフサイクルのどのステージにあるのかや周囲の環境・状況によって、意思決定の考え方を変えていくことが求められています。この考え方を組織全体に浸透させるのもまた、現代の人事部の使命です。

【コーゼーションの特徴】
目的ドリブン、予測重視、因果的アプローチ、バックキャスティング、軍師型

【エフェクチュエーションの特徴】
手段ドリブン、創発的アプローチ、コントロール重視、フォアキャスティング、起業家型

企業・事業ライフサイクルと意思決定

  1. 起業者段階
    創業初期/新規事業の立ち上げ期(0→1フェーズ)
    限りある資源をフル活用しながら、先導者が強力なリーダーシップを発揮してエフェクチュエーションで柔軟に方向を探り、創造性と革新性に富んだ商品サービス開発と販路開拓に邁進する。
  2. 共同体段階
    事業が軌道に乗る成長期(1→10フェーズ)
    再現性を高め、コーゼーションで拡大計画を練る時期。組織は次第に大きくなり、分業や職務分担、先導者からの権限移譲が進む。
  3. 公式化段階
    成長が鈍化し売上が頭打ちとなる成熟期
    拡大した組織を維持するために様々な規則が導入され、安定や統制が重視される。意思決定の遅れや官僚的な弊害が散見されるようになる時期。
  4. 精巧化段階
    硬直した状況を打破するために、コーゼーションからエフェクチュエーションへの転換を促す時期。戦略的な変革(撤退、新規事業への転換、メンバー刷新や部門分割、組織活性化)の実行によって柔軟性をとり戻す。ここで変革がうまくなされない場合は衰退に向かう。

実現可能な範囲で最大の効果を狙う~手中の鳥の原則

少し乱暴な言い方かもしれませんが、多くの組織で目標を達成できない人材は一定数存在します。あるいは、目標という言葉も好きではない、組織の目的なんて自分には関係がないというメンバーも、あなたの組織の中に一人や二人いるかもしれません。できる限り楽にやり過ごしたい・周りに気づかれないように手を抜くメンバーにも成果を出してもらうにはどうしたらいいのでしょうか。

こういった2-6-の人材に、手中の鳥の原則を用いることができます。

【コーゼーション・バックキャスティング例】
毎月5件の○○キャンペーン成約が必要←そのために20件の商談が必要←そのために100件のテレアポが必要

【エフェクチュエーション・フォアキャスティング例】
1日1時間テレアポに捻出できる→〇〇キャンペーンが始まる→10分間のトークスクリプトがチームに配布されている→週5時間、〇〇キャンペーン周知架電を30本実行する→月に120本の架電実績

適材適所をプロデュース。業務の分解・再編で新しいやり方を生み出す

「手段思考に溺れてはならない」というのは、ある意味で正しいです。とはいえ、組織の目的を重要視できない相手(上記の例では5件の成約を絶対的なものと実は思っていないメンバー)が部下が複数人存在しているのであれば、目的から個人の目標へ、そこからその達成のための行動へと落とし込ませようと努力しても、改善は中々に難しいです。それであれば、いっそどんなことなら彼・彼女はできるのか/得意なのかとスタートの視点を変えるのも悪くありません。

商談のようなかしこまった場がどうにも苦手なら得意な別のメンバーに任せ、自身は商談機会を得る営業活動にシフトするというように、明確に役割を分けてしまっても良いのです。エフェクチュエーション的な指示や方針で結果的に行動量が増え、チーム全体の成果も上がるかもしれないのであれば、試す価値があります。

失敗や逆境に耐えられるラインを明確にする~許容可能な損失の原則

デール・カーネギーの言葉にも「成功者は失敗を無駄にせず、別のやり方で再び挑戦する」とあるように、ただ1回の失敗で気に病む必要はありません。トーマス・エジソンも「私は失敗したことがない。ただちょうどうまくいかないぐらいの1万の方法を見つけている」と語っています。失敗は成功のもと、禍(わざわい)を転じて福と成すなど、同じようなことわざや名言は世界中に存在します。

逆説的ですが、これは失敗や逆境に簡単にくじけたり不満を漏らして前に進もうとしない人がいかに多いかを表しています。

失敗を許容できるかは「経験数」による

誰しもあの時の壁を乗り越えたことで視野が広がった、という経験はあるはずです。過去の失敗経験はその後の正解確率を上げる要素となり、次第に失敗を失敗と思わなくなります。「もう少しだった、おそらく〇〇すれば次はいけそうだ」と原因を特定し仮説を立て直すことができるようになります。数をこなすことで、ここを越えてしまったら手を引くというリスク許容の上限がはっきりと見えるのです。

経験が増えると「挑戦しないことによる損失」も考慮できる

挑戦が恒常化し、建設的に諦めることのセンスも磨かれてくると、同時に行動しないことの機会損失についても意識が高まります。危機的な状況も面白がれる、手持ちの手段を拡張させるチャンスかもしれないと思える人材を組織の中に増やしていくには、チャレンジマインドの醸成を土台に、個別具体的な支援制度が確立し機能していることが大切です。

多様なメンバーの知識・発想・行動を獲得する~クレイジーキルトの原則

イノベーションの種は、社内リソースやお客さまのご要望の中だけにあるわけではありません。競合他社のすばらしい商品の登場や自社商品の不具合の発生といった、組織にとっては一見ネガティブに作用するようなものからも学びやヒントは得られます。何となく苦手だと思っていたメンバーが、プロジェクトの素晴らしいスパイスになることも少なくないのです。対立・拒絶してしまいそうな相手こそ、自分が持ち得ない手中の鳥を持っている可能性があります。

自分と違う誰かを巻き込みたい時は、サーバント・リーダーシップの考え方で

協力者を募る呼びかけは、協力できるかできないかのクローズドクエスチョンではなく、どういったことなら協力できるか、どうすれば協力してもらえるかという問いにするのがポイントです。このように尋ねることで、もはや協力してもらうことは前提で、関わり方(踏み込んでもらう歩幅)や関わることを阻害する要因の排除についての前向きな議論が展開されていきます。

「〇〇せよ」の一方的な命令ではなく、相手をすでにプロジェクトメンバーの一部とみなして「本人の力が発揮できるように○○してもらう」ように促していく。これはサーバント・リーダーシップのあり方と一致します。

>【コラム】サーバント・リーダーシップとは

巻き込みたいなら、巻き込まれることにも前向きで

また、誰かに助けてもらいたい・協力してもらいたいと思うのなら、普段から自分が「まきこまれ上手」であることも大事です。○○といえばあの人!■■については彼が適任と認知され、しばしば様々なプロジェクトに出入りして組織に貢献しているメンバーは、返報性の法則によって多くのメンバーからも助けを得やすくなります。

配られたカードで戦う~レモネードの原則

そもそも不確実な時代の只中に生きているのですから、自分の手元に材料が揃わない・不良なものが含まれることももはや想定しておく。過剰な期待をせずに、手中の鳥の現状をまっすぐに捉えることは、やはりここでも生きてきます。予期しない事態や困難をどうにかして避けるということにコストを割くのではなく、それらが起こったとしても成果物の形を変えるなどして別の価値をつくれないか、その可能性を探ります。

転んでもただでは起きないしぶとさや楽観性をもつ

コップに水が半分入っている状況を、「もうこれしかない」から「まだこれだけある」と感じられるか――やり方を変えれば手元にあるものをまだ使うことができるのに、自ら無効化しているのは非常にもったいないことです。不足しているからこそ工夫を考えられ、そこからエッジの効いたSomething Newが生じます。ピンチをチャンスに変えるブレイクスルーは、粘り強く、でも楽観的に考え続けた先に浮かぶものです。

>【コラム】飽きるまでやり込み、あえて寝かす

いまやるべきことを理解させ、明示する~飛行機の中のパイロットの原則

思いではなく行動によってコントロールするとは?

自分がどうにも動かせない事象にとらわれ過ぎている方も少なくないように見受けられます。特に情報過多な割に経験値が少ない若手メンバーや、保守的な姿勢を貫くベテラン勢は、良くも悪くも机上の空論に陥りがちです。一般職クラスは自身が精いっぱい行動することで変えられることに全力投球させましょう。

一方、リーダー・管理職層はチームの成果を最大化させる工程や人員計画をつくり、進捗が遅れないように細やかにチェック・是正をすることに集中するなど、それぞれが役割を全うすることが重要です。この計画も状況が変わればそれに合わせて変えていく「許容可能な範囲」にブラッシュアップさせます。

よい判断がメンタル不調から従業員を守る

従業員全員が各人に求められる「いまやるべきこと」に力を注がせるためには、相手によってはあれもこれもと欲張らず、情報を意図的に絞ることも必要です。飲み込める、少し努力すれば対応できる上限は人によって様々。業務範囲をここまでと定めることは、メンタル不調から従業員を守ることにもつながります。

人事部門の果たす役割は拡大する一方ですが、誰もが活躍できる、やりがいのある楽しい職場をつくる、エフェクチュエーション理論を取り入れた改善を、是非検討いただきたいと思います。

参考文献

  • 『エフェクチュエーション』サラス・サラスバシー著、加護野忠男監訳、高瀬進・吉田満梨翻訳 2015年碩学舎(碩学叢書)
  • 『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』吉田満梨・中村龍太著 2023年ダイヤモンド社
  • 『組織の経営学 戦略と意思決定を支える』リチャード・L・ダフト著、髙木晴夫訳 2002年ダイヤモンド社

(中堅社員向け)巻き込み力向上研修~受け身の姿勢から脱却し、周囲に働きかける

中堅社員はプレイヤーとして自身の業務に取り組むだけでなく、現場の中心メンバーとして、主体的にチームに関わる姿勢が求められます。

また、上司やチームのメンバー、他部署の人と積極的に関係性を築き、巻き込みながら仕事をする必要があります。巻き込み力を発揮するために、①信頼感 ②段取り力 ③人を動かす力の3つの力を学びます。

よくあるお悩み・ニーズ

  • 自分の業務に取り組むだけでなく、視座を上げてチームに関わってほしい
  • 現場の中心メンバーとして、リーダーシップを発揮して活躍してほしい

本研修のゴール

  1. 巻き込み力を発揮するための土台となる「信頼感」を高める
  2. ステークホルダーを動かすために必要な段取り力を鍛える
  3. 上司・チームのメンバー・他部署のメンバーと関係性を築き、上手に巻き込めるようになる

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内気(内向型)を自認する方に向けたプログラム。「自分の意見を人前に出すことやアドリブの発言が苦手」「相手に委縮してしまいいつも不安」などの特徴は、仕事を進めるうえで弱点だと見られがちです。

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