【エフェクチュエーション2】手中の鳥の原則~いま手元にあるものを正しく認識し、行動の質を高める

コラム【エフェクチュエーション1】では、エフェクチュエーションの概要と、なぜ、エフェクチュエーションという考え方に注目が集まってきたのか、その背景をご紹介しました。
さて、ここではエフェクチュエーションを構成する5つの原則の1つ目を深掘りしていきます。
原則➀手中の鳥の原則(Bird in Hand Principle)
「A bird in the hand is worth two in the bush.(藪の中にいる2羽の鳥よりも、いま手の中にいる1羽のほうが価値がある)」ということわざを引用した手中の鳥の原則は、エフェクチュエーションの5つの原則の中でも最も基礎となる考え方です。手に入れられるかどうか、わからないものを欲しがるよりも、自分がすでに持っているものを大事にしよう、大切に使おうという意味があります。
いまの自身のリソースを正確に把握し、それを起点に行動していくアプローチによって、不確実性が高い未来に立ち向おうというのが最初の原則です。エフェクチュエーションの考え方は、壮大な構想や大きな資源を前提とするものではなく、特別な準備をしなくても、誰もがすでに持っている資源を起点に未来を形づくっていく点が特徴です。
今持っている「3つの資源」を3つの視点で捉える
エフェクチュエーションを理解する第一歩として、自分が現在どのような資源を持っているのかを正しく把握することが欠かせません。サラスバシー教授は、この出発点となる資源を3つに整理しました。それが、自分が誰か、自分が何を知っているか、誰を知っているかという視点です。
これらは、いずれも特別な人だけが持つ能力ではなく、経験年数や職位に関係なくすべての人が持っている資源です。変化が激しく、数カ月先の状況もわからない環境では、足りないものを探したり、理想の状態に到達するための準備を整えたりするより、いま手元にあるものを正しく認識し、そこから始めるほうが現実的です。この「手元の資源を起点にする」という感覚がつかめると、エフェクチュエーションの実践は急に身近になります。
自分が誰かという視点(Who I am)~資源:自分という存在
最初の資源は、自分という存在そのものに目を向けることです。価値観、興味、強み、判断の癖、自然に努力できる領域など、いわゆる自分の軸といえる要素がこれにあたります。自分の軸がはっきりしていると、何を選び、どこに力を注ぐかの判断がぶれにくくなります。特に不確実な状況では、外部環境よりも自身の内側にある基準のほうが、行動の安定性を高めます。自分が何を大事にし、何に心が動くのかという理解は、次に進む方向を選ぶ際の拠り所となります。
自分が何を知っているかという視点(What I know)~資源:知識や経験
2つ目の資源は知識や経験です。ここには専門的なスキルだけでなく、過去の成功や失敗、仕事を通じて得た暗黙知、日常で蓄積してきた興味・情報のほか、対人調整能力、粘り強さ、問題発見の癖など、無意識のうちに発揮している能力も含まれます。知識や経験を「過去の産物」としてではなく、「未来をつくる材料」として扱うことがポイントです。
成功や成果だけではなく、失敗や挫折も含めて、過去に積み重ねてきたあらゆる出来事が重要な資源です。これまでどのような業務に携わり、何を学んできたのか。その全体を正しく捉えることが、次の行動の出発点となります。新しい挑戦をする際、最初からすべてを整えてから動くのではなく、すでに持っている経験をどう組み合わせられるかという視点を持つことで、行動が早くなり、挑戦のハードルが下がります。
この視点は、人材育成における「経験学習モデル」にもつながります。組織は、社員がこれまで積み上げてきた経験を活かしやすいよう、異動・越境機会・兼務などを通じて経験の再利用ができる環境を整えることで、予測不能な状況でも前に進む力を高めることができます。
誰を知っているかという視点(Whom I know)~資源:人とのつながり
3つ目の資源は、人とのつながりです。協力し合える関係、相談できる関係、情報を交換できる関係など、人的ネットワークは不確実な状況で大きな力となります。人との接続点が増えるほど、選択肢や機会が広がり、思いがけない展開が生まれます。これは組織におけるイノベーションの源泉ともいえます。環境の変化に強い人ほど、ネットワークのことを助けてくれる人たちではなく「未来を共に形づくる相手」として捉える傾向があります。
不確実性が高い状況では、情報も資源も自分ひとりでは揃いません。関係性から未来を共創していくこともエフェクチュエーションの考え方なのです。
自分や自分のまわりの状況を「正確に捉える」ことの難しさ
この原則は、単に能力や経験を棚卸しするというだけではなく、上振れや下振れを起こさない、冷静で客観的な自己理解と組織理解をすることが求められます。これらを正しく理解するのは簡単ではありません。自分を過大評価すると現実とのギャップが広がり、過小評価すると行動の可能性を狭めてしまいます。
人材育成においても、従業員が自分の強みと弱みを正確に理解し、現状を過大評価することも過小評価することもなく、ありのままを把握することが極めて重要なことは周知の事実でしょう。ここでは、この原則の本質を深く掘り下げながら、企業の人材育成の文脈においてどう活用できるかを具体的に見ていきます。
現状の正確把握が重要な理由~強みと可能性を客観視することが未来の選択肢を広げる
人材教育の場面で、従業員が自分の現状を正確に把握することは極めて重要なプロセスです。本人の認識と実際の能力にギャップが生じることで、育成がうまくいかなくなるというのは、よくあることです。この認識のズレは、行動の方向性を誤らせるだけでなく、本人の自信にも影響を与えます。
多くの組織では、スキルチェックや自己評価制度などが整備されていることが多いですが、これらは形式的に実施されると、実際の能力を的確に表しているものとはなり得ません。従業員が自分の強みや弱みを自分の言葉で語り、なぜそう思うのかを説明できる状態になって初めて、現状把握は成立します。
今の状況がわかれば、次のステップの歩幅と協力者を考えられるようになる
正しい現状把握ができると、挑戦のハードルが適切に設定されます。自分には何ができるのか、どこまでなら許容できるのかを理解しているからこそ、行動を小さく始めることが可能になるのです。これは次のコラムでご紹介する原則➁許容可能な損失の原則とも深く関わっており、原則➀手中の鳥の原則がエフェクチュエーションの土台とされる理由がここにあります。
加えて、強みが明確になれば、他者との協力も促進されます。人は、何が得意で何が苦手なのかが明確な相手の方が協力しやすいためです。協力を引き寄せられる人材は、エフェクチュエーション型の行動を自然にとれるようになります。
人事部が進めるべき取り組み:スキル棚卸し、強みの可視化、データの定性評価
人事部がこの原則を育成施策に落とし込むにあたっては、従業員が自分の資源を正確に把握できる仕組みを整えることです。例えば次のような仕組みを組織全体で整備することで、従業員が持つ資源を最大限に活用し、自ら機会をつくり出す行動へと自然に移行できる環境が整います。
- 定期的な個人スキルの棚卸し
社員が自身の経験や能力を振り返る機会を設定します。単なるチェックシートではなく、具体的な行動事例を記述させる形式が有効です。 - 強みの可視化
自己評価と他者評価を組み合わせた多面評価や、1対1面談などの深掘り対話によって、認識のブレを減らすことができます。これにより、従業員は自分の能力を過大・過小評価することを避けられ、正確な現状を把握できます。 - 定量データだけでなく定性データを活用する
業績評価のような数値データだけでは、個人の強みや成長の可能性を正確に捉えることはできません。行動の背景や思考の癖などを記録し、評価制度に反映することで、エフェクチュエーション型人材の育成につながります。
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