2023年5月17日
年度当初こそ、職場環境の変化に対応すべく気を張りつめていた従業員も、4月のうちに緊張と疲労が蓄積され、ゴールデンウィークを境に突如心身の不調に見舞われるケースは少なくありません。 いわゆる「五月病」の発症に注意すべき大型連休明け、五月病の実態を知り、メンタルヘルス不調者への適切な職場対応に目を向けましょう。(文・丸山博美社会保険労務士)
「五月病」という言葉自体は既にごく一般的なものとなっていますが、発症の原因や症状については未だ理解が進んでいないようです。「単なる怠け癖」と考える方も少なくありませんが、周囲の無理解が辛い症状をさらに深刻化させることもあります。
五月病とは、環境の変化によるストレスによって生じる、倦怠感や疲労感、無気力、悲観的な思考、不眠、食欲減退等の諸症状を指します。
今春、入社や異動等で大きな変化を経験した従業員であれば、個人差こそあれ誰もが、これまでとは違ったストレスを感じながら年度初めを乗り切ってきたことでしょう。もちろん、こうしたストレス自体が絶対悪というわけではなく、ストレスという適度な負荷がやる気やパフォーマンスを向上させることもあります。
ところが一方で、過度のストレスが重圧となり、心身に支障をきたすようになることも珍しくありません。
五月病とはまさに後者の事例であり、職場の人間関係や業務内容といった新しい環境に対する「適応障害」と言い換えることができます。
ヘルスケアテクノロジーズが、全国の20~50代の会社員や公務員として働く男女1200人を対象に、2023年3月に実施した「五月病に関する意識調査」によると、「あなたは五月病になったことがありますか」という質問に対して、22.8%が「確かにある」32.8%が「あると思う」と回答し、実に5割以上の人が五月病になったことがあると自覚していることが分かりました。
また、五月病の自覚があった人のうち約3割が、五月病が原因で休職や退職に至っていたことが判明し、五月病が及ぼす影響の大きさを物語る結果となっています。
五月病は、しばしば「気の持ちよう」「時間が経てば治る」等と軽く考えられがちです。
しかしながら、これまでお話ししてきた通り、五月病が適応障害という病気に該当すること、さらに、働く人の多くが経験しており、場合によっては休職・退職につながるほど深刻化する可能性があることを踏まえれば、企業としては従業員の健康確保措置の一環として適切な対応を講じる必要があると言えます。 まずは、今すぐに取り組めることを考えてみましょう。
大型連休明けのこの時期、従業員の皆さんの表情や言動に、気になる変化はないでしょうか。
連休前と変わらず出社している人の中にも、実は五月病の辛い症状を抱えている方がいるかもしれません。
特に今春、新しく入社した、異動等で職場環境が変わった、育児休業から復帰した等の目立った変化を経験した従業員については、勤怠の状況や仕事の進捗、職場での様子に注視する必要があります。
一人きりで抱えている悩みも、人に話すことで不安が和らぎ、解決の糸口を見いだせるようになるものです。
連休明け、欠勤が続く従業員や、「元気がないな」「少し様子がおかしいな」と感じられる従業員に対して、会社としてできることのひとつに「相談窓口の提供」が挙げられます。
職場においては日頃から上司や部下、同僚と気軽にコミュニケーションできる雰囲気作りに努める他、人事担当者や社会保険労務士、産業医等の専門的な対応が可能な相談窓口の創設も有効です。
ただし、人と関わること自体に負担を感じているケースもありますから、相談窓口の活用は強制せず、あくまで従業員の意思に任せるようにすることが肝心です。
ひとたび五月病を発症してしまうと、なかなかすぐに本調子というわけにはいきません。
会社としてすぐに支援できることには限りがありますが、可能な限り本人に寄り添い、都度対応を検討することになります。
五月病を始めとするメンタルヘルス不調者への対応には、事前の体制整備が不可欠です。ここからは、長期的な観点から企業が取り組むべきことに目を向けてみましょう。
一般的に、五月病を発症しやすい従業員の特徴として、几帳面でまじめな性格、嫌と言えずに物事を何でも引き受けてしまうタイプが挙げられます。
新しい環境や仕事に慣れようと、春先に頑張り過ぎてしまった従業員であれば、ちょうど5月中旬から6月にかけて疲れが出てくる時期ですから、必要な時にしっかり休ませる配慮が必要です。
そのためには、休みやすい職場風土の醸成の他、ワークフローの可視化やマニュアル化による仕事の属人化の防止、余裕をもたせた業務スケジュールの立案等、管理側による体制整備が不可欠です。
併せて、有給休暇取得奨励や休職制度の構築といった、労務管理面での対応も欠かすことはできません。
休職制度を設けるかどうかは任意ですが、企業にとっては人材確保や離職防止の観点から、前向きに検討できると良いでしょう。
従業員にとっては長く働く上で、一定期間心身の療養に専念できる環境があることは、万が一の時の心強い要素となるでしょう。
休職制度の創設に際して検討すべき事項は多岐に渡りますが、中でも特に盲点になりがちなのが「同一労働同一賃金」の視点です。
現状、制度があっても「正社員しか利用できない」とする規程が多く見受けられますが、雇用形態の別による一律の格差は是正しなければなりません。
政府のガイドラインによると、病気休職については「無期雇用の短時間労働者には正社員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行わなければならない」と明記されています。
非正規労働者に対しても、労働契約に見合った範囲で休職制度を適用する方向で検討しましょう。
参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
ストレスチェック義務化の影響等もあり、近年ではメンタルヘルス対策関連の制度設計が各社で進められています。
ところが実態として、制度があっても形骸化している、対応する側の理解不足により十分に機能していない現場は多々見受けられます。
個人の見解ですが、こうした状況の根底には「職場の無理解」が根底にあるように感じざるを得ません。
万が一の際にしっかりと活きる制度を作り上げるために、まず大前提として、職場全体でメンタルヘルス不調に関わる理解を深めることから始める必要があるのではないでしょうか。
配信元:日本人材ニュース
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