銀子の一筆

オールドノーマルも良いものだ

晴天の夜は、外に出て星を見るのが心地よい季節になってきた。
5月26日は今年最大の満月(スーパームーン)で、しかも皆既月食だった。 宇宙は、常に大小の星が誕生したり消滅して代謝を続けている。 宇宙時間では一瞬に過ぎないが、人類は長い感染危機からまだ脱していない。

1年以上も続くコロナ禍で、時間の流れが変化しているように感じる。
働き方やデジタル化など、ずいぶん前からいわれながら遅々として進まなかったことが、 必要に迫られ急進展してニューノーマル(新しい常態)と呼ばれるようになった。

昼夜を分かたず活動していた街から人影が減り店舗の明かりが消えて、 以前の活気はオールドノーマル(コロナ以前の常態)と呼ばれる風景になった。
「以前の常態」への復活を願う人は少なくないが、多分、コロナが治まるまでと 人間がステイしている間に、時代はもう既に変化したのかもしれない。

◆捨てがたい常態

コロナを起点にした以前・以降ではなく、もっと大きなノーマルの変化もある。
私にとっての望ましいノーマル(常態)とは何だろう。

昔、ほんの60年ほど前まで、夜は暗かったし、冬は寒かった。
暗闇や寒さには、人智が及ばぬ怖さがあった。
その代わりに、朝の晴れやかな空、春の喜びがもたらされた。

夏は打ち水や簾で凉をとり、蚊取り線香や蚊帳、蝿帳などで害虫を避ける工夫をした。
どこの家でも障子や衣類など少し物が傷むと、修理したりツギを当てて使った。
炭起こしや炬燵などの季節ものから、梯子やノコギリなど大工仕事の修理用具、 その道具を手入れする道具など、家内には生活を裏で支える道具類が多かった。

衣食は手作りが主流だったので、おやつは母のクッキーやプリン、祖母の草餅や白玉だったし、幼い私の洋服も下着も手袋も母が作った。 何事につけ「もったいない」といって物を大事にすることを厳しくしつけられた。

季節の歳時風物に応じて少しでも快適に暮らすために、祖母や母は一年中忙しそうに動いていた。 風情はあったが、気が遠くなるような手間暇だったと思う。
愛情と献身がなければ成り立たない暮らしだった。豊かでも貧しくても、それが当時のノーマルだった。 私の記憶に残る、知恵と工夫が詰まった美しい風景でもある。

◆変わりゆく常態

今では手作りや修理をするより、使い捨てて買いなおす方が安く上がるし、手間仕事をするプロに頼んだ方が簡単だ。 何より電化製品の普及から電子技術の進歩で、生活は一変し町は明るくきれいになって、暮らしも合理的になっていった。

さらにIT技術の進歩によって、仕事も暮らしも格段に効率的になった。
その他の科学的進歩で清潔・快適・便利な生活になった。
日々の家事に追われていた女性も自分の選んだ勉強や仕事に時間が使えるようになったし、 今までの性別に対する考え方自体が旧弊なことを、社会も少しずつ認識しだした。

私は高齢者だが、必ずしも60年以上前の常態を(懐古的に)ベストだとは思っていない。 趣ある風情を犠牲にしても時間を得て、好きな勉強や仕事に向かえるのは素敵だし、 多少は季節や自然の流れに逆らっても、便利で快適・清潔で健康的な暮らしは確かに快い。

しかし、世の中が便利で快適になったら個人の時間や気持ちに余裕が生まれて、 世の中が思いやりに満ちて、ゆったり穏やかになると思ったのは勘違いだった。 今よりももっと早く・賢く・強くを競って、社会はさらに高度な世界を目指しているのだ。

快適な暮らしを手に入れたというのに、天邪鬼な私は時々機械的な過剰サービスにウンザリする。 勝手に火を止めるガス器具、熱湯を注意する音声、ミスをする前にエラーを起こすPC(本当に賢いこと)。

この上、カーテンの開閉や照明の点滅まで、頼むつもりはない。
差し出がましい人工知能に管理されているようだ。

だが、これらのサービスを恩恵とする人がいることも忘れてはいけない。
かつて脚を病んで1m歩くのも辛かった頃を思い出した。
そして、(内心AIに懐疑的な私だったが)過日テレビでAI利用による外科手術を見て気持ちが一転した。

なんて素晴らしい!

過激な最先端、古き良き時代の手仕事、ともに割り切りがたくて頭が散らかり混乱する。

◆次の常態

私は一体何を望んでいるのだろう。ただのわがままで、程よい手間暇と便利・快適を同時に 得て、豊かな自然を楽しみつつ必要な時だけ科学を味方につけたいのか。

と欲深く思っていたら、上司が言った。
「新しいことを得ることは、別の何かを失うことでもありますよね」(......あぁ本当に。そうですね)。

リニアモーターカーの出現で移動は高速化できるが、車窓の風景や駅弁など旅の情緒はなくなる。 火を使わない電化は安全で便利だが、停電すれば食事も入浴もかなわない。 なるほど、何かを得たら何かを失うのだ。なんだか混乱が納まった。

納まってしまえば、簡単なことだ。 ニューかオールドかを固定的に決めて極端に走るのではなく、暮らしの多様化に沿った 選択肢を、時に応じて必要に応じて柔軟に選べば、ストレスは軽減する。
多分近いうちに、一律だった働き方や学び方や暮らし方などが、 今よりもっと個人の事情や意思で自由に「選べる常態」の社会になるのだ、と思えてきた。既になっているのか?

2021年 6月 9日 (水) 銀子

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