銀子の一筆

それって想定外?

テレワークになって電車に乗る機会が少なくなったが、かつては新人らしき姿が多く見られ車内も初々しい空気だった。 新しい環境に懸命な時なのだろう、と微笑ましく眺めていた。 が、すでに時は新緑の候、五月の病に襲われてはいないか。気を緩めて当初の我を忘れませんように。

干し野菜を作ろうと、平ザルに野菜の薄切りを並べてベランダに出した。
しばらく時間をおいて見てみると、妙に少なくなっている。 (あれ?)カラス(かな?)がもって行ったようだ。 不測の事態にちょっと残念だったが、腹ペコの生類を憐んで、腹は立たなかった。

◆便利な言葉

落語の演目に、ご禁制の池で鯉を釣っている与太郎に、役人が「知ってやったか、知らないでやったか」と問い詰める場面がある。
「知らなかったのなら、仕方ない」と許されるのだが......

落語は落語として。
日々のニュースなどで、私は内心「(禁じられていると)知らなければ、何をしてもいいのか。思いの外だったら、どうなってもいいのか」と、 するりと罪を軽くしようとする卑怯を悲しく思う。

10年程前からだろうか、「想定外」という言葉がよく使われるようになった。
「想定外」と言われてしまえば、何も言い返せない。

例えば、火星人の襲来は本当に想定外かもしれないが、人工物に起因する事故の多くは、想像力の欠如、 またはリスク管理の甘さではないかと思う。

私たちの生活には、簡単な想定外は付きものだ。
カラスのつまみ食い、にわか雨、入浴中の停電。プリントアウトの段階でプリンターの故障。良かれと思った提案のボツなどなど。

自分がもっと注意深くきちんとリスク管理していれば、避けられたことかも知れない、 または軽く済んだことかも知れない、と反省して気を取り直すのが普通だ。
通常、被害は自分にとどまることが多いのだから。

◆競争社会の命取り

しかし、世の中の流れの一歩先を読んで動く企画力や、先見の明による投資で 成長していくはずの企業だったらどうだろう。

良い時には調子に乗らないように自戒するだけでいいが、万が一の失策は千里を走って、 眼に見えるステークホルダーにとどまらず、眼に見えない世の中という広域に届き及んでしまう。

失言・虚言・ハラスメントやら、違法・不正やら、事実だったかよりも、 そのように見えるだけでも取り返しがつかない。

だから企業は躍起になって勉強して、想定外と思われる万が一の場合にも備える努力をしている。 何事もなくて当たり前、絶対に安全なことなど何もないし、十分すぎる危機管理もない。 と思って努めるのが企業のモラル・誠意なのだろう。

企業が一生懸命なのは、多分、競争社会だから。競争のない世界では、 「想定外」だから(または想定内でも)「ごめん」で済むのかも知れない。

私自身は、防災準備も生活習慣も不用心でまったくなっていないのだが。
会社勤めを経験して、企業がなぜ不祥事や失策に神経質になって、リスク管理をするのか多少は分った気がする。

◆全社の想像力

何かあっても(本当は不可抗力のことでも)、あんまり簡単に「想定外」を理由にしない方がいいかも知れない。 いかに甘かったか、いかに不実だったか、いかに無能かを露呈する結果になりかねない。

有能な企業は、言い訳よりも先にあらゆる想像をするものだ。謝ればいい訳ではない。 謝らなければいけない場面を作らないことを考えるのが企業のリスク管理だ、と思う。

それでも、過ちは起きる時には起きる。トップだけが用心することではない。
誰もが自分の事として、蟻の一穴に注意しなくてはいけない。 自社のトップが深々と頭を下げるのを見る、部下の気持ちを想像するだけで胸が痛む。

昔、仕事の先輩に言われた。「申し訳ありません、だけじゃだめだよ。だったら、どうするのか代案を言わなきゃ、 誠意は伝わらないよ」企業にとっては、謝り倒して終わるものなど何もない。

より成長して高みを目指すのは素敵なことだが、それなりの努力を重ねて成長 してきたものを、一瞬で失わない努力をすることも大事だと思う。
現代の君子は危うきに近寄らないだけではダメなのだ。危うきを近づけない。 危うきことに出会った時に、どうするのかの想定管理までが必要なのだ。 よぼよぼの新人のくせに、分り切ったことを偉そうに言って「すみません」と、予め謝っておくことにする。

2021年 5月 12日 (水) 銀子

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