株式会社インソースコンサルティング

「人材育成方針」を策定するために~経営戦略と人材戦略をつなぎ、自社らしい人材像を描く

経営と人事をつなぐ「人材育成方針」の重要性

人的資本経営が注目される今、「どのような人を育て、どのように成長を支援するか」を明確にすることが、企業価値を左右する要素となっています。

近年は、有価証券報告書でも「人材育成方針」や「多様性に関する方針」の開示が義務化され、企業が人材(人的資本)への投資についての考え方を社会に示すことが求められています。一方で、「研修や評価の仕組みはあるが、経営戦略と結びついていない」「現場の理解が進まず、形だけの方針になっている」といった声も聞かれます。

人材育成方針とは、単なる教育計画ではなく、経営が人を通じて何を実現したいのかを明文化する経営メッセージです。本記事では、経営戦略と人事戦略を連動させ、自社らしい人材像を描くための考え方と策定ステップを紹介します。

経営戦略と人事戦略の連動が第一条件

人材育成方針を策定する際、まず必要なのは経営戦略と人事戦略の連動です。たとえば、イノベーションを推進したい企業では「挑戦できる人材」、安定した事業運営を重視する企業では「着実に成果を積み上げる人材」が求められるように、戦略の方向性によって必要な人材像は異なります。

経営層と人事部門が対話を重ね、「戦略を人で実現する」という視点を共有することが、方針づくりの第一歩です。

人事戦略・経営戦略イメージ

自社の求める人材像を明確にする

人材育成方針の中心となるのが「求める人材像」です。これは、経営理念、経営戦略を、社員一人ひとりの姿勢や行動に落とし込むことを目的としています。

策定にあたっては、経営層だけでなく現場の意見を取り入れ、自社らしい価値観を反映させることが重要です。たとえば、「挑戦を恐れず前進できる人」「仲間と協働して成果を生み出す人」「社会や顧客に誠実に向き合う人」など、理念を具体的な行動に落とし込んでいくような言葉を選ぶことで、社員が「自分ごと」として受け止めやすくなります。

求める人材像はキャッチフレーズのようにシンプルな表現にすると、社内で共有・浸透しやすくなります。経営理念、経営戦略を体現する「人」を言語化することが、方針づくりの中核といえます。

有報における人材育成方針~企業の意志を社会に示す

2023年度から、有価証券報告書での人的資本情報開示が義務化されました。その中でも「人材育成方針」は、企業が「人をどう捉えているか」を最も端的に表す項目です。開示の目的は、単に取り組みを説明することではなく、経営戦略と人材戦略の整合性を示すことにあります。

開示にあたっては、以下のような要素を整理するとよいでしょう。

  • 育成の目的や背景(経営方針との関係)
  • 重点的に育成する領域(リーダー・専門職・デジタル人材など)
  • 具体的な成果や指標(研修受講率、女性管理職比率、エンゲージメントスコア等)

「人材育成方針」は、社会や投資家に向けた企業の信頼メッセージでもあります。方針を通じて、「人を通じて企業を成長させる意志」を語ることが求められています。

人材育成方針を策定する4ステップ

人材育成方針を策定するための手順を見ていきましょう。

STEP1:経営トップの想いを言語化する

人材育成の現場では、日々さまざまな課題が発生しています。それらへの対応ももちろん重要ですが、目先の課題にとらわれて中長期的な視点を見失ってしまうのは本末転倒です。

人材育成方針を策定するうえで、最初に行うべきは経営層(特に経営トップ)の考えや想いを丁寧にヒアリングし、言語化することです。最初に方向性を確認しておくことで、策定方針がぶれることなく、迷走することを防げます。

この段階では、経営戦略とそれを実現するための人材戦略の考え方、そして自社の従業員にどのような姿を期待しているのか、具体像を明確にしておきます。

STEP2:現状把握

「こうありたい」「こうすべきだ」といった理想だけでは、現場は動きません。現状の人事制度や育成環境に対する従業員の評価・意見を収集し、自社の人材育成体制にどのような課題があるのかを可視化することが重要です。

ただし、不満点だけを集めても方針づくりにはつながりません。STEP1で確認した経営トップの想いを踏まえ、「組織の未来」、たとえば「〇〇年に〇〇を達成するためには、どんな人材が必要か」を念頭に置いて、従業員の声やデータを収集していきます。

情報収集の主な手法としては、アンケート調査が有効です。定量と定性の両面から現状を把握することで、次のステップでの議論に説得力が生まれます。

STEP3:自社らしい「求める人材像」を定義する

集まった意見やデータをもとに、経営層・管理職層・一般従業員層・人事部門のキーパーソンを交えて、「求める人材像」について議論します。抽象的なテーマであるため、できるだけ対話の時間を長く取り、じっくりと具体的な人物像を洗い出していくことが大切です。

このプロセスでは、従業員の合意形成が何より重要です。「自分たちが関わり、共に作り上げた方針である」という実感が、完成後の社内浸透やエンゲージメントの向上につながります。

対話のフェーズでは、単なる意見交換にとどめず、可視化と構造化を促す対話ツールの活用が効果的です。たとえば、LEGO® SERIOUS PLAY®のメソッド(>外部サイトへ)を用いて、レゴ®ブロックで構想を立体的に表現しながら言語化していく手法は、思考を深め、互いの考えを共有する上で非常に有効です。

STEP4:求める人物像を実現するための具体的な施策を検討する

STEP3で定義した「求める人材像」は、あくまで理想の方向性です。ここから先は、その理想をどのように実現するのか、現場で動くための仕組みを具体化する段階に入ります。人材育成方針を実行に移すためには、研修やOJTなど個別の施策を単発で考えるのではなく、採用・配置・育成・評価・キャリア支援といった人材マネジメント全体の流れの中で位置づけることが大切です。

たとえば、「挑戦できる人材」を育てたいなら、失敗を恐れず行動できる評価制度やフィードバック文化が必要になります。

また、ここでは数値目標や成果指標(KPI)を設定することも重要です。たとえば、研修受講率・管理職候補者の比率・スキル習得度合い・エンゲージメントスコアなど、「どの程度、方針の方向性が実現できているか」を定量的に測る指標をあらかじめ決めておくことで、施策の優先順位が明確になり、進捗管理がしやすくなります。

施策を検討する際は、以下の3つの視点を持つと効果的です。

  1. 教育体系の設計
    求める人材像に基づき、必要なスキル・知識・マインドを整理し、階層別・職種別に研修体系を再構築します。集合研修に限らず、OJT、メンター制度、1対1面談、自己啓発支援など、学びの機会を多層的に設計します。
  2. 環境整備と制度の連動
    学びを促進するには、制度面での支援も欠かせません。評価・報酬制度やキャリア支援制度を見直し、学びや成長行動が正しく評価される仕組みを整えます。
  3. 浸透と定着の仕組み
    どんなに優れた施策でも、現場に根づかなければ意味がありません。管理職を巻き込み、方針の意図を伝える説明会やミーティングを実施し、職場内での実践をサポートします。

こうした施策を全社的に展開させていくことで、「求める人材像」が単なるスローガンではなく、実際に社員一人ひとりの行動に反映される方針へと変わっていきます。

まとめ:どんな人を育て、どんな未来を描くのか

人材育成方針は、経営の想いを言葉にし、従業員と共有することで初めて力を持ちます。「どんな人を育て、どんな未来を描くのか」を明確にすることが、組織の一体感と成長の原動力になります。

方針づくりは、制度を整える作業ではなく、経営と現場が同じ方向を見つめ直す機会です。まずは、自社の理念やビジョンを「人」の視点から言語化することが重要なのではないでしょうか。

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