2018年1月10日
2017年は良い意味でも悪い意味でも人事部が振り回された1年だったのかもしれない。本記事で2017年の人事まわりの動きを振り返る。(文・溝上憲文編集委員)
2018年卒採用でも売り手市場の中で選考活動が大きく変わった。経団連の指針では3月1日広報活動、6月1日選考活動解禁となっているが、実質的に会社説明会と変わらない「1dayインターンシップ」を含む「採用直結型インターンシップ」が流行し、経団連のルールも完全に形骸化してしまった。
大学3年生の8月の夏休みに始まるインターンシップを皮切りに就活が始まり、運良く翌年6月に内定を取れればよいが、取れない学生は1年以上も続けることになる。就活の長期化は企業も同じだ。
大手食品会社の採用担当者はこう嘆く。
「当社だけではなく同業他社も前年の6月1日に始まる就職情報会社のインターンシップサイトのオープンでエントリーを受付し、その後面接して可否を判断する。インターンシップ終了後は参加者のフォロー活動として工場見学や職場見学会の開催や大学訪問による学内セミナーの開催もある。翌年3月には企業説明会が始まるが、インターンシップ選考と並行して一般選考も始まり、終わるのは6月末。その後は来期のインターンシップの準備が始まり、ほぼ一年中採用活動に費やしている」
それでも大手企業はまだいいほうだ。中小企業の場合は大手と同じように前年の夏にインターンシップを開始しても、採用活動が終わるのは翌年の12月どころか越年するところも珍しくない。費やす人手も資金もばかにならない。
マイナビの調査では、採用費の中で就職サイトなどの広告費のウエイトが40%を超えている。中小企業を中心に就活サイト離れも進行しており、就活戦線が長期化する中で、大企業、中小企業に限らず、今後の採用戦略が大きく見直されてくる可能性もある。
政府主導の「働き方改革」にも振り回された。
前年の2016年12月末に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出され、今年の臨時国会で法案審議の予定が組まれていた。そのため慌てて、正社員と非正社員の処遇格差の検証や見直しに着手する企業もあった。ところが政府与党の突然の解散で法案審議は越年になった。
もう1つの「時間外労働の罰則付き上限規制」も驚きをもって迎えられた。
時間外労働時間年間720時間(月平均60時間)を上回る特別条項付き36協定を結んでいた大手企業も多い。加えて電通の女性新入社員の過労自殺が明るみになり、電通に対する厳しい捜査が連日のように報じられた。さらに労働基準監督署も大手企業を中心に臨検の枠を拡大し、有名企業も是正勧告を受ける事態になった。各社の人事担当者は、いかに残業時間を減らしていくのか、今まで以上に必死の対策に追われた。
政府主導のイベントも実施された。強制力はないが、今年2月に始まったプレミアムフライデー(PF)もその1つだ。
経団連と経済産業省の旗振りで始まった月末最終金曜日の午後3時の早帰りを促すイベントは、商機にあやかりたいロゴマーク使用申請企業は8000社を超えた(2017年10月20日現在)。だが、肝心の早帰りを実施している企業や社員は、各種調査を見ても非常に少なく、実質的に失敗に終わったといえるだろう。
失敗の最大の原因は消費喚起策と働き方改革を一緒にしたことではないか。企業にとって忙しい月末金曜日を主導したのは経産省と商品・サービスの供給側である流通・サービス業界であり、給料日後の金曜日が売上げも大きいという都合で決まった。
しかし、政府の働き方改革や休み方改革の一環として取り組むとなると、労働者に公正・公平に休みが享受されることが原則だ。しかし、消費イベントに関係のない需要サイドの労働者が早帰りできたとしても、供給サイドの労働者はPFイベントに合わせて仕事が忙しくなり、早帰りどころか残業せざるをえない。仮にサービス業の会社でPFを実施するとしても、早帰りできるのは一部の社員であり、社員間に不公平が発生する。
食品加工販売業の人事部長は「当社は工場と小売店舗を展開していますが、工場は金曜日を含めてフル稼働なので難しい。また逆に小売店舗はPFに合わせて販売が忙しくなる。やろうと思えば本社などの事務方の社員は早帰りできるでしょうが、営業や販売部門から『早帰りするなんてふざけている』という批判が飛び出すのは必至。それこそ3時に帰るなら店舗の手伝いに来いといわれかねない。社員の公平性の観点からやらないことにしました」と語る。
経団連や業界団体の同調圧力に弱い経営者の中には「うちもやれ」と指示した人もいたが、人事部長の説得で断念した企業もある。
働き方の本質を理解しないままに、消費喚起策にかこつけてキャンペーンを張る政府の姿勢は逆に企業を混乱させることになりかねない。
じつはそれと似たようなイベントもあった。7月24日に実施された「テレワーク・デイ」である。本来は働き方改革の一環であるが、実際の目的は2020年の東京オリンピックの開会式当日の交通機関の混雑緩和を図ることにある。しかも来年以降も実施する予定だ。
当日は922の企業・団体が参加し、事務局はテレワーク・デイについてオリンピックを契機に全国的にテレワークの普及と働き方改革のレガシーにすると謳う。だが、参加企業を見ると情報通信会社やサテライトオフィスを提供する不動産関連会社などテレワーク関連サービス業が目立った。このイベントも失敗したプレミアムフライデーの印象と重なる。
働き方改革の推進自体は結構なのだが、政府主導の玉石混淆の政策はちゃんと吟味して実施してほしいものだ。
配信元:日本人材ニュース
■関連記事一覧
更新
【人事評価制度への不満3】評価面談が苦手はただの言い訳。イケてない上司を脱却するマインドセットと準備
上司が評価面談から逃げようとしている様子は残念ながら部下にも伝わり、「自分は正当に見てもらえていない」「こんな人に評価されたくない」「こんな人を昇格させている組織に長く居てはいけない」とエンゲージメントを下げる要因になり得ます。
更新
【人事評価制度への不満2】通常業務ができないくらい面倒!真面目になんてやってられない
評価記録は何を使ってまわしていけばいいの?表計算ソフト、クラウド型評価システム、日報等のコメントフィードバックツール...それぞれを用いた場合のメリット・デメリットを解説します。
更新
「やる気が出ない」とはもう言わせない~部下のモチベーションを高める目標管理術
数値化した目標を部下が自分で立てられるように導きます。明日から使える目標管理スキルが身につきます。
更新
評価のブレを防ぎ信頼を築く!期末に押さえるべき人事評価6つのポイント
期末評価で陥りがちな心理的エラーを避け、公正で納得感のある評価を行うための6つのポイントと、評価の質を高める実践的な方法を解説します。
更新
評価の不満を解消する3つの解決策~人事評価制度の本当の役割は「人材育成」
人事評価に対する上司・部下からの不満には、主に3つの原因があります。これらを解消し、納得感のある公正な評価の仕方を学ぶ「評価者研修~公正な評価のポイントを学び、納得感のある評価を行う」を紹介します。
更新
360度評価
350度評価とは、アメリカにおいて能力開発のツールとして開発された考え方です。
更新
無理して働く疾病就業「プレゼンティーイズム」とは?〜疲弊する現場のケアで休職連鎖を防ぐ
職場内で相次ぐメンタルヘルス不調者の発症を防ぎ、人員不足や職場の士気低下を起こさないための人員管理術、職場環境の改善施策について解説していきます。
更新
KPIはノルマじゃない~KSFと組織目標から逆算する、KPI設計法
KPIとはあくまで「指標」であり、目標ではありません。本コラムでは、KPIの設定方法と、有効にするための改善サイクルの回し方を解説します。組織目標と連動したKPIを決め、必要に応じて見直しながら運用することが大切です。
更新
人材評価を語る
インソースでは「人材評価」について、適正な人事評価によって社員・職員の能力・資質を向上させることを目的にしている、と基本的に考えています。その「人材評価」の効果、特徴、内容等について、弊社代表・舟橋がインタビュー形式で語るページです。
■関連研修シリーズ
■関連商品・サービス一覧
更新
(半日研修)コンピテンシー基礎研修~成果につながる行動特性の理解と実践
更新
実践!評価者研修~目標設定・面談編(半日間)
更新
働く高齢者のための安全と健康管理
更新
喫煙防止講座~今吸っていないあなたにも
更新
メンタルヘルス(セルフケア)研修~自身のストレスへの対処法を学ぶ(冊子教材・テスト付き)
更新
レジリエンス研修~しなやかにストレスと向き合い、回復力を身につける(冊子教材・テスト付き)
更新
アクティブモチベーション講座~ポジティブな考え方で意欲をセルフコントロールする(スライド付き)
更新
評価者研修~下位評価の伝え方(半日間)
更新
コンピテンシー基礎研修~成果につながる行動特性の理解と実践(半日間)
下記情報を無料でGET!!
無料セミナー、新作研修、他社事例、公開講座割引、資料プレゼント、研修運営のコツ
※配信予定は、予告なく配信月や研修テーマを変更する場合がございます。ご了承ください。
配信をご希望の方は、個人情報保護の取り扱いをご覧ください。
無料セミナー、新作研修、他社事例、公開講座割引、資料プレゼント、研修運営のコツ

登録は左記QRコードから!
※配信予定は、予告なく配信月や研修テーマを変更する場合がございます。ご了承ください。
配信をご希望の方は、個人情報保護の取り扱いをご覧ください。
人事のお役立ちニュース