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ENERGY vol.16(2025年秋号)掲載

PICKUP

シニア人材の活用促進に向けて

シニア個人への深堀アンケートより

インソース総合研究所(2025年4月設立)では、インソースグループとして問題意識の高い「シニア人材の活用促進」に関するアンケートを実施し、全国の50歳以上の就労者の約千名の方々から回答を得ました。

このアンケートでは、シニア自身の意識やモチベーション、人材活用や知識継承、職場のコミュニケーション、IT適応の問題など、多方面な課題を調査しています。

今回は、一部をご紹介します。

65歳までの定年後継続雇用制度の実施は4割

まず、企業の制度面から見ますと、定年制度の実態については、「60歳定年」が半数ほどを占め、「65歳定年」が3割程度となっています。

また、定年後の継続雇用制度については「65歳までの継続雇用制度」が4割強あり、70歳までや、70歳超の継続雇用制度も3割近く認められ、多くの企業で高齢者雇用安定法に応じた雇用確保措置(定年後再雇用等)を講じていることがわかります。

中小企業はシニアが活躍

なお、当社の5千名を対象とした事前調査結果によると、3割近くの企業で定年制度がないまたは廃止という結果がありますが、この定年制度がないまたは廃止の企業、加えて定年が66歳以上の企業で、99名以下の企業が多くの割合を占めており、特に小規模企業において、シニアが重要な人材になっている実態がうかがえます。

研修受講希望者は既受講者の2~3倍

次に、シニアの研修受講の実態を確認した質問では、受講した人の実態については、「最近1~2年に受講した研修」は、一番高いITツール関連でも受講率8.5%で、その他の研修については3~4%程度受講にとどまっています。しかし、「今後受講したい研修」については、全種類(※1)の研修において、既受講者の2~3倍の希望があり、自己負担をしても外部受講したい人も少なからず認められます。加えて「受講したいが社内には準備されていない研修」は、各種研修の全てで2割を超えており、学習意欲の高いシニアの要望が満たされていないことが分かります。

一方で、「受講不要・受講していない」人が、各種研修の全て6割近くとなっており、シニア自身が研修に興味を示していない人が多いことも推定されます。

これらの状況に対して、企業側としては、まずは“やる気のあるシニア”に対して、能力やニーズに合わせた研修等の実施等により、より高いパフォーマンスを上げてもらうこと、一方で、“学習意欲が低いシニア”に対しても研修等により刺激促進をすることで、やる気を上げていく方向に持っていく可能性があることを示唆しています。

シニアの6割は処遇に課題を感じる

次に、シニア自身が感じている課題は何かを確認した結果概要です。

本問において、主な課題6項目を選択し、現在の状況を確認したところ、(1)「処遇に課題を感じる」人が6割近くとトップで、次に(2)「新たなスキル習得の課題」の割合が高く、(3)「モチベーション低下」も4割近い人が問題を感じていることから、処遇への対応や、新スキル確認、モチベーションキープ等、多面的な解決策が必要であると思われます。

ただ一方で「業務パフォーマンス低下」を感じる割合は3割と低いことから、シニアの自己評価は依然として高い傾向があることが推測でき、シニアの自己評価と、周囲の評価に乖離がある可能性も示されています。

シニアのポジションによって異なるモチベーション

本アンケートの特徴として、シニアの現在の企業におけるポジション(※2)を確認し、それぞれのポジションにおける意識変化等の違いや推移を深堀しています。

例えば、課題認識が高いトップ3にあげました「モチベーション低下」の認識の度合いについて、シニアの現在のポジションとの関係を見てみますと、「定年までに3年以上ある正社員」のモチベーションは、モチベーション低下を感じてないという前向き回答がかなり優勢ですが、「2~3年で役職定年を迎える正社員」では、前向きと後向きの意見が拮抗し、「2~3年で定年を迎える正社員」では、後向が優勢になり前向きと後向き認識が逆転します。これが、「フルタイムの再雇用者」では再び、前向きと後向きが同レベルと落ち着いているものの、「パートタイムの再雇用者」では、モチベーションが非常に悪化しています。他方、「定年がない正社員」は、安定した前向き回答になっています。これらの結果は、シニアがそれぞれに置かれたポジションの不安定さの度合いによって、モチベーションも影響をけていると推測され、シニアを有効活用したい企業側にとっても重要な気づきになるのではないかと思慮します。

専門性を活かした役割に魅力を感じる

最後に、シニア自身が魅力的に感じている役割・業務についての結果からです。

シニアが最も魅力を感じる業務は「専門分野のエキスパート業務」や、「社内コンサルタント」が高く出ており、これまで培った専門性、スキルや経験を活かせる役割への強い志向が確認できます。これらは、シニアを過去の人として扱うのでなく、専門性や経験が活かせる高付加価値業務に配置することが、シニアのモチベーション向上と企業の価値向上につながることを示唆していると思われます。

以上、紙面の都合上、一部の文章のみのご説明となりましたが、このアンケート分析のサマリー版レポート等は、インソース総合研究所のホームページに掲載していますので、是非ご確認ください。また並行して、人事部担当者の方々への同様のアンケートも実施予定です。シニア個人と企業側との認識ギャップ等を加味した上で、今後のシニア人材の活用促進に関するご提案に結び付けたいと考えております。

  • (※1)各種研修とは、ITツール関連以外に、OA基礎スキル、キャリアチェンジ、マインドチェンジ、コミュニケーションスキル、マーケティング、資料作成力、自己負担による外部研修等。
  • (※2)ポジションとは、シニアの現在の地位で、「定年等がない正社員」「定年等が3年以上先の正社員」「2~3年で定年・役職定年を迎える正社員」「再雇用(フルタイム)」「再雇用(パートタイム等)」等の分類です。

文/田渕 文美

株式会社インソース総合研究所
理事 プリンシパル
サンフランシスコ州立大学大学院(MBA コース)卒
都銀系シンクタンクの金融関連や消費者マーケット等の調査研究部門、コンサルティング部門において、主任研究員、チーフコンサルタントとして25年従事。官公庁・民間企業を顧客として、400件近の、調査案件、コンサルティング案件を担当。執筆では、「現代経営管理論」(共著、有斐閣)等。2014年12月から、株式会社インソースの常勤監査役を10年務め、2025年4月より現任

本コラム掲載号の記事一覧

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Vol.16 Z世代・シニアと向き合う

Vol.16は、「Z世代・シニア人材」がテーマです。価値観の多様化が進むZ世代の育成やシニア人材の活用に課題を抱える企業も少なくありません。 本誌では、人事アンケートから見るZ世代、シニア人材の現状をご紹介します。また、Z世代の特徴を踏まえた育成方法や シニア層へのアンケートを通してシニア人材のリスキリング戦略をお伝えします。

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Vol.17 企業課題を解決

Vol.17は、「企業課題解決」がテーマです。労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、 成長し続けるために経営戦略や人事戦略を改めて考えていくことが求められます。 本誌では、企業インタビューによるDX人財育成の事例や人的資本経営をサポートするソリューション事例をご紹介しております。

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