
ENERGY vol.16(2025年秋号)掲載
PICKUP
ベテラン人材のリスキリング戦略~シニア人材のコンサル化に向けて
ベテランとしての矜持が感じられる仕事とは
長年、組織のために尽力してきたシニア世代にとって、もっともつらいのは、下の世代からの「もうあなたの役目は終わった」という冷めた視線ではないでしょうか。役職が外れること自体は、それは制度なので一向に構わない。けれど、あたかも「去る日を待つだけの人」のように扱われ、自分の存在意義が見えなくなってしまうと、どんなに強い人でもモチベーションは下がってしまうものです。
確かに、デジタルの進化や働き方の多様化の中で、現場に求められるスキルは大きく変化し、そのキャッチアップにシニア層が苦労していることは確かです。しかし、だからといって、長年の経験から得られたものの価値が全て失われたわけではありませんし、若手には持ち得ない視点、組織全体を俯瞰する力、従業員や顧客の本音を読み解く鋭い洞察力――、そうしたものは一朝一夕では身につかない、かけがえのない資産です。
こうしたビジネスパーソンとしての「プロスキル」と「尊厳」をもって、これからも組織に貢献していきたいと願うシニア人材は少なくありません。そして、その意欲と能力を最大限に活かせる役割が、「社内コンサルタント」なのです。
社内コンサルがシニア層にうってつけである理由
一般的にコンサルタントと呼ばれる人の仕事は、クライアントが抱える問題を分析し、自身の知見を加えて解決策を考案し、それを分かりやすく文書化することにあります。この一連のプロセスは、シニア人材が長年のキャリアの中で培ってきたスキルと非常に親和性が高いのです。
多くの仕事に携わってきたシニア人材にとって、問題のありかを嗅ぎつける力は鋭く、若手には真似できるものではありません。ここに、「論理性」や「データ分析力」といった、客観的に問題を説明する力が加わることで、コンサルタントに不可欠な「問題分析力」を身につけることができます。
また、自社内で数多くの成功と失敗を経験してきたシニア人材だからこそ、組織の暗黙のルールや人間関係における勘所といった、自社に固有の「知見」を活かし、効果的に問題解決にあたることもできるのです。これが、社内コンサルタントとして組織貢献するうえでの最大の武器となります。
「今さらシニアは勉強をしたがらない」は本当か
このように、もともとシニアが得意とする分野に、リスキリングを通してデジタルなどの新たな知識・技能を加えることで、コンサルタントとしてのスキル要件を高めていくことができると考えられるのですが、そういうと、恐らく次のような言葉が頭をよぎることでしょう。「でも、今さらシニアは勉強をしたがらないのではないか――」
シニア世代が若い世代と比べて新たな知識を習得するのに時間がかかるのは確かです。ただ、新たな学びに積極的に取り組めるかどうかのカギを握るのは、決して記憶力の問題だけではありません。重要なのは、学ぶことに対するモチベーションがあるかどうかです。目標が見えず、期待もされないというのであれば、シニアかどうかには関係なく、誰でも学ぶ意欲を低下させてしまいます。
しかし、「社内コンサルタント」という独立した職種を得て、これまで培ってきた経験を活かしながら組織に貢献できるのならば、デジタルでもデータ分析でも必要なスキルは積極的に習得しようと考えるものです。
投資対効果面でも合理性が高いシニア教育
もう一つの“誤解”に、「この先の勤続期間が限られるのに、シニアに教育投資をするのは合理的でない」というものがあります。しかし、例えば今50代の人材がこの先その会社に在籍する期間はざっと10年ほどありますが、その期間の生産性を高められるのであれば、教育投資は十分にペイするものと考えられます。人件費としては決して安くはないシニア人材だからこそ、その力を有効に活かすためにも「追加投資」を通して組織貢献度を高めることが必要なのです。
一方で、人材の流動化が進んだ現在は、若年層から中堅層に至るまで、正直どの世代に投じた教育投資も、一定の「無駄打ち」は発生します。人材を囲い込めない今の時代においては、年齢に関係なく、社会全体で人的資本投資をしていくことが大切なのです。
コンサル化には制度的なサポートも大事
シニア人材の能力を最大限に引き出し、社内コンサルタントとして活躍してもらうためには、教育研修といったスキル面のサポートだけでなく、制度的なサポートも重要です。
モチベーション管理は人材活用におけるもっとも重要なものの一つですが、多くの企業では、定年後の給与は一律で大幅に減らされてしまい、これがシニアのモチベーション低下に大きく影響しています。これを、貢献に応じて報酬が上下する制度に移行することで、シニア人材のコンサルタントたちに、独立自営業者としての自覚が生まれてきます。
評判の良いコンサルタントには次々と仕事が舞い込むこととなり、さらなる仕事の獲得のために、より専門的な知識を身につけようとする動機も生まれます。
長けたスキルを生かしてプロとして組織に貢献する
このように、「社内コンサルタント」という新たな役割を通じて、プロとしての矜持を再び呼び覚まし、組織の持続的な成長に貢献してもらう。それこそが、これからの企業にとって賢明な選択となるはずです。
さらに、コンサルタントが専門職として成り立つ要件として、成果を文書で表すことができるかという点でも、シニア人材には一日の長があります。長らく報告書や企画書作成に携わってきたシニア人材にとって、「文書化」する力だけは今でも若い世代に負けない、という人も少なくありません。ここに生成AIなどのツールを活用するスキルが加われば、まさに“鬼に金棒”です。
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