銀子の一筆

毎日が木曜日

窓の外はピカピカの晴天だが、エアコンを点けても外から押し寄せる熱気で頭はどんより曇りがちだ。暑さか疲れかストレスか、平日の朝目覚めて土曜日のような気がしたり、逆に休日に月曜日かと思って慌てることもある。心持ちと現実が揃わないのは勤め人の性か。

1週を7日と考えたのは古代バビロニアかららしい。日本では平安時代に空海が中国の『宿曜経』によって7曜を伝えたが、日常の基準になったのは明治初期からだ。昭和期、ロシア民謡「一週間」は子供たちにも親しまれた。今ではすっかりビジネスパーソン中心の社会になって、国民生活の基準は曜日になっている。定着すれば各曜日の質に、個人の気持ちも沿うようになる。休日前夜の金曜や個人的な時間である土曜・日曜を楽しみにする気持ちが生まれ、仕事に戻る月曜には気分が落ちる「ブルーマンデー」になるという。

管理され拘束される生活を自ら望んで選択していても、人間にとってはやはりストレスになるのだろう。であれば、どんなにか気持ちが安らぐ日曜日だろう。土日も仕事と離れられない、または離れない人も少なくないが。(そういえば、あのプレミアムフライデーはどこへ行ってしまったのだろう)

◆毎日が日曜日

久しぶりの知人から暑中見舞いをもらった。数年前、彼は定年後の悩みを抱えていた。

在職中は昼夜なく懸命に働き、管理職を経てめでたく定年退職を迎えた。これからは待ち望んだ一家団欒の日々、のはずだった。しかし、あまりに長く家庭を顧みず正面から家族と関わらなかったため、接し方も会話もうまく運ばず、温かな交流とは程遠かった。あげく「人の話を聞かない」「自分だけが正しいと思っている」「偉そうに周囲を部下のように扱う」など総スカンにあって孤立している、と嘆いていた。ドラマではよくある話だが、現実にあることなのだ。

ハガキには「その後、ボランティアで動物園の案内係や福祉関連の活動をしています。弱音も感謝も何でも率直に話すようにして、家族とも何とかうまくやっています」とあって、ホッとした。(よかった、よかった。気持ちは素直に口に出さなければ通じないのよ)

『毎日が日曜日』(1979年刊 城山三郎 )という、日本の高度経済成長期を支えて定年をむかえた男性主人公のビジネス小説があり、今でも書店に並んでいる。毎日が日曜日だったら、どんなにいいだろう、仕事に追われる現役時代には誰もが一度は思う。しかし手に入れてみると...。

40年以上たった今では、当社の研修はもちろん、人生100年時代構想、高齢者継続雇用、働き方改革、一億総活躍社会など、定年退職者に対する認識はだいぶ変わってきた。しかし定年に際して揺れ動く個人の心情に変わりはないのではないか。遠く思えても必ず来る定年。さすがロングセラー作品、時代設定はともかく、今読んでもその心象に違和感はないだろうと思う。

人間が歳をとるのは自然の理で、国も社会も企業も存続のためには代謝を続けなければならない。組織を離れたその後を悠々自適に過ごす人も、新たな仕事に就く人もいる。いずれにしても各々の人生観で選ぶ新たな生活が、さらにより良いものになることを祈りたい。

生涯現役を目指して70歳で就活した私も、多分扱いにくい高齢就業者になっているのだろう。しかし社会に席が欲しければ、理解されることを求めるより毎日を初出勤の気持ちで精進する他はない。思う通りに過ごせるか否かは別として、やはり覚悟と計画は必要に思える。

◆毎日が木曜日

長い間フリーランスだった私は、公的な週単位の労働日数や時間の基準より、取引先の納期に合わせて、休日も時間も不規則になりがちな流動的な労働生活を送ってきた。高度経済成長期のビジネスパーソンは、企業戦士だのモーレツ社員だのと呼ばれ、不夜城であるオフィスで24時間働けることを自負していたらしい。過酷な平日の疲労を回復すべく「日曜日は寝て曜日」という言葉が流行って、父親は寝ていて子供の入学式や運動会、お出かけなどに参加しない家庭が少なくなかった。同時代の外注の私は日曜日がなかったので、寝て曜日もなかったのだが。

多くの社会人の流れに逆行して遅まきながら組織に勤め、一般社会の週単位の労働サイクルを初めて経験した。で、私は規則正しくやってくる一週間のうち、さしたる理由はないが、週の山(水曜日)をちょっと越した木曜日が好きになった。

仕事でも勉強でも山登りでも、立ち上がりに緊張が伴うのは当たり前だが、新人にもベテランにも、中盤を越して目途が立つ頃が最も危険だと思っている。そこまで来た安堵感、残りが見えている安心感から不注意になりやすい。本来が命を懸ける情熱や、石に齧り付く根性とは無縁な私はなおさらのことだ。気を緩めて足を踏み外さないよう。力んで踏み込み過ぎないよう。ここで気を入れ替えて、力を抜いて再出発するのが快い。するべきことがハッキリしていて、なお未完の緊張感が嬉しい。もちろん、上手くいかずに失敗や挫折に凹むことも多い。でも、だから仕事は面白い。ごく個人的に勝手ながら、私には木曜日はそんな「気を入れ替えるポイント」の象徴として、好きな曜日にしてしまっただけなのだ。本当は木曜日に限らず、毎日そうあるべきだが。

もちろん、さまざまな柵(しがらみ)から解放される休日は心から嬉しい。
どんな形でも、ストレスの平日と自在の休日を自分なりに調整して楽しむ他はない。

2022年8月24日 (水) 銀子

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