2025年8月25日
米アップルで最高執行責任者(COO)を務めるジェフ・ウィリアムズ氏が2025年末をもって退社する。それに先立ち7月中にCOOを退任する予定で、後任には同社のオペレーション担当シニアバイスプレジデント、サビ・カーン氏が昇格する。アップルは「長期的な継承計画の一環」と説明しているが、人工知能(AI)を巡る競争環境が激しさを増す中、体制刷新に対する市場の視線は厳しい。
退任するウィリアムズ氏は1998年にアップルに入社し、iPodやiPhoneの製造体制の構築に尽力した。ティム・クック最高経営責任者(CEO)の片腕として知られ、創業者のスティーブ・ジョブズ氏の死後はApple Watchを含むヘルスケア戦略を主導。2019年にはデザイン部門の統括も担うなど、業務全般に精通する「オールラウンダー」として後継CEOの有力候補とも目されていた。
新たにCOOに就くカーン氏は、30年近くにわたりアップルの調達や品質管理部門を歴任。現CEOのクック氏も、かつては調達部門の責任者として頭角を現しており、自身に近い経歴を持つ人材の登用となる。
一方で、今回の幹部人事が次世代戦略の柱となるAI開発の遅れにつながるのではないかとの懸念も出ている。アップルは近年、AI関連のスタートアップの買収を進めるなど、自前での開発に力を入れてきた。
| 年 | 月 | 買収企業名 | 事業内容 | 買収額 | 買収目的 |
| 2023 | 3 | WaveOne | 映像圧縮技術AI | 非公開 | 効率的な映像圧縮技術の獲得、AI技術強化 |
| 2023 | 5 | Mira Labs | クラウドインフラ | 非公開 | クラウドサービス強化、サーバーインフラの改善 |
| 2024 | 2 | DarwinAI | AI効率化技術 | 推定1億ドル以上 | オンデバイスAI処理の効率化、Apple Intelligence強化 |
| 2024 | 4 | Heidelberg.AI | AI研究 | 非公開 | 基礎AI研究の強化、欧州でのAI開発拠点確立 |
| 2025 | 2 | Pixelmator Team | 画像編集アプリ | 推定3億ドル | クリエイティブツールの強化、プロ向けソフトウェア拡充 |
| 2025 | 4 | Humane | ウェアラブルAI | 1億5000万ドル(部分投資) | 次世代ウェアラブル技術へのアクセス、AIハードウェア開発の加速 |
しかし、アップルで大規模言語モデル(LLM)の開発を率いてきたルオミン・パン氏が、7月に米メタ(旧フェイスブック)へ移籍することが判明。
パン氏は2021年にグーグルから転じ、AI基盤チーム「アップル・ファウンデーションモデル(AFM)」の責任者を務めていた。AFMの中核を担っていたトム・ガンター氏も退社しており、人材流出が続く可能性がある。
メタはパン氏に最大1億ドル(約146億円)の報酬を提示したとされるが、アップル社内でのAI開発に対する社内の温度差も背景にあるとされる。
アップルは音声アシスタント「Siri」に外部のAIモデルを組み込む選択肢も検討しており、自社開発志向が後退してきた。調達畑出身のクック氏のコスト重視の姿勢が、研究開発投資の抑制につながっているとの指摘もある。
さらにトランプ政権が仕掛ける「関税戦争」により、米国外での製造に特化しているアップルに対する政治的な圧力が高まっている。
これに危機感を抱いたクックCEOが、サプライチェーンの見直しを急ぐためにCOOを調達畑のカーン氏へ交代させたとの見方が根強い。そうなると、AI開発が二の次となるリスクが高まる。AI関連のスタートアップを対象にしたM&Aにもブレーキがかかる可能性がありそうだ。
アップルは6月の年次開発者会議「WWDC2025」で新たなAI機能を発表したが、内容はサムスン電子やグーグルといった競合他社に比べ、後追いの色が濃いとの評価が多い。
米調査会社ライトシェッド・パートナーズのアナリストは「アップルはAI分野で全く進展がなく、ほとんど何も変わっていない」と指摘。CEO交代にまで言及した。
AI分野での巻き返しが求められる中、調達主導の経営体制で、イノベーションをけん引できるのか。アップルのM&A戦略にもかかわるだけに、新経営体制の進路を不安視する声が高まっている。
配信元:文:M&A Online
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