2025年11月21日
M&A市場でソフトバンクグループ(SBG)の存在感が際立っている。3月に1兆円近くで米国半導体設計企業、10月初めには8000億円超でスイス企業からロボット事業の買収を発表。それぞれ日本企業関連のM&Aで今年の金額2位、3位を占めるが、SBGは1兆円あるいはこれに迫る「メガ級」のM&Aを過去にも連発している。
SBGは10月8日、スイス重電大手ABBのロボット事業を買収すると発表した。買収総額は53億7500万ドル(約8187億円)。2026年中の買収完了を見込む。SBGはAI(人工知能)を活用したロボット事業を成長領域の一つに位置付けており、その展開を加速する狙いだ。
ABBは産業用ロボットでファナック、安川電機、ドイツKUKAと並ぶ世界的大手。ロボット事業の2024年12月期売上高は約23億ドルで、ABBグループ全体の約7%を占める。
SBGは人間の知性を超える未来AI技術とされるASI(人工超知能)の実現を掲げる。構想実現に向けてAI半導体、AIロボット、AIデータセンター、電力の4分野で積極的な投資を進める方針を打ち出している。
今年3月には、65億ドル(約9730億円)を投じてAI向け半導体設計の米国アンペア・コンピューティングを買収すると発表。こちらもASI構想をにらんでの布石だ。
SBGは1月、米オープンAIや米オラクルなどと共同で、データセンターや発電施設などのAIインフラに4年間で最大5000億ドル(約78兆円)を投資する「スターゲート・プロジェクト」を立ち上げた。SBIが繰り出した一連の大型買収もこうした動きとも軌を一にする。
日本企業関連で今年最も大きいM&Aはトヨタ自動車の源流企業である豊田自動織機をめぐる4.7兆円規模の買収・非公開化(6月に発表)。金額に開きはあるものの、これに続くのがSBGが手がける米アンペアとスイスABBからのロボット事業の買収だ。
豊田織機に対するトヨタグループのTOB(株式公開買い付け)は2026年2月にも始まる。豊田織機による自己株式取得(約1兆円)を含めた買収総額4.7兆円は国内企業がかかわるM&Aとして歴代2位。武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの6.2兆円買収(2018年発表)に次ぐ。
歴代3位はどこかというと、他ならぬSBGだ。2016年に英国半導体設計大手のアームを約3.3兆円買収した。JTが2007年に約2.18兆円を投じた英たばこ大手ギャラハーの買収を抜き、当時、日本企業のM&Aでトップに立った。
今年3月に買収を決めた米アンペアにはアームの設計力を補完する役割が期待されている。
SBGはほかにも過去、1兆円超のメガ案件を手がけている。英ボーダフォン日本支社(現ソフトバンク)を約1.9兆円で買収し、携帯電話事業に参入したのは2006年ことだ。2013年には米通信大手のスプリント・ネクステル(現Tモバイル、2000年に保有株式を売却)を1.8兆円で傘下に収めた。
大型M&Aの"三羽烏"といえば、SBG、武田薬品、JT(日本たばこ産業)だ。SBGは歴代トップ10の3位、9位、10位にランクインする。武田は首位、JTは5位とトップ10入りは1件だけだが、"次点"クラスの案件を複数手がけている。
武田は2011年にスイス製薬大手のナイコメッドを約1.1兆円、2008年に米ミレニアム・ファーマシューティカルズを約9000億円で買収した。
一方、JTは1999年に米RJRナビスコから米国外のたばこ事業を約9400億円、2016年に米レイノルズ・アメリカンから米国外のたばこ事業を約6000億円で買収。エチオピア、フィリピン、バングラデシュなどでも現地有力たばこ会社を次々に傘下に収め、JTの海外売上比率は今や8割に迫る。
SBGがヤフーの第三者割当増資を約4500億円で引き受け、子会社化したのは2019年。その後、LINEとの経営統合を通じて日本最大のインターネット企業「LINEヤフー」の発足につなげた。
SBGの歩みをたどると節目節目で巨大M&Aを仕掛け、飛躍的な成長の原動力としてきた。AI全盛期が到来する中、どんなM&Aが出番を待っているのか。
◎日本企業関連の大型M&A(1兆円超) HDはホールディングスの略
| 買い手企業 | 対象企業・事業 | 金額 | 発表年 | |
| 1 | 武田薬品工業 | シャイアー(アイルランド) | 6.2兆円 | 2018年 |
| 2 | トヨタグループ | 豊田自動織機 | 4.7兆円 | ※2025年 |
| 3 | ソフトバンクグループ | 英アーム | 3.3兆円 | 2016年 |
| 4 | セブン&アイ・HD | 米スピードウェイ | 2.32兆円 | 2020年 |
| 5 | JT | 英ギャラハー | 2.18兆円 | 2006年 |
| 6 | 日本製鉄 | 米USスチール | 2兆円 | 2023年 |
| 〃 | 日本産業パートナーズ | 東芝 | 2兆円 | 2023年 |
| 〃 | 米ベインキャピタル | 東芝メモリ | 2兆円 | 2017年 |
| 9 | ソフトバンク | 英ボーダフォン日本支社 | 1.9兆円 | 2006年 |
| 10 | ソフトバンク | 米スプリント・ネクステル | 1.69兆円 | 2012年 |
| 11 | サントリーHD | 米ビーム | 1.65兆円 | 2014年 |
| 12 | 日本生命保険 | 米レゾリューションライフ | 1.2兆円 | 2024年 |
| 13 | ウットラム・グループ(シンガポール) | 日本ペイントHD | 1.18兆円 | 2020年 |
| 14 | アサヒグループHD | 豪カールトン&ユナイテッドブリュワーズ | 1.14兆円 | 2019年 |
| 15 | 武田薬品工業 | ナイコメッド(スイス) | 1.1兆円 | 2012年 |
| 16 | 日立製作所 | 米グローバルロジック | 1.04兆円 | 2021年 |
※発表段階。まだ買収は完了していない
配信元:文:M&A Online
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