誰もが共通の感覚でとらえていた春夏秋冬が乱れ、走りも盛りも曖昧になってきた。自然の変化が日々の生活に及ぶことも増えた。本来、この時季に降る雨を二十四節気では穀雨といい、穏やかに田畑を潤し作物を育んできた。忘れていた天への感謝を思い出し豊作を祈ろう。

人は万能ではないので、他人から物事の手ほどきや具体的な手助けを受けることが多い。見えることはもちろん、見えない心遣いや励ましに感謝の気持ちで応えたい。個人的な関わりのない社会の行きずりでもそうだ。まして日常的に関わりのある集団の中では、ともすれば雑事に紛れて疎かになりがちな感謝を、ことさら明確に自覚することが大事なのかも知れない。同じ目的に向かって力を合わせるために「感謝の心が人を育て、感謝の心が自分を磨く」ことを銘記して実践する必要がある。「ありがとう」には上も下も無いし、一瞬でも互いが幸福な気持ちになり信頼が生まれる。感謝と信頼は一体だ。
相手を見下して「感謝が足りない」「もっと感謝しろ」などと威嚇する振舞いは、同じ言葉でも幸福とは正反対の暴力だ。そこからは本当の感謝は湧き上がらないし、損得がらみの粗暴な品性は信頼を得難い。

■学ぶ側

春は様々景色が変わる。ビジネスでも昨日までは新人・若手として、社会のルールや業務の手順を覚えてスムーズに仕事の流れに乗ることが使命だった。が、それなりに頑張って２～３年経ちクリアすると、いよいよ考えて判断する・意見をもって行動する・社内外の上下左右と協働するなど、ビジネスパーソンとして一歩進んだ使命が課せられる。「誰でも最初は初めて」とは言え、新参は先輩ばかりの周囲に対する気後れから行動のタイミングが計れず失敗も多い。挫折から自身の適性を疑い転職する人もいるし、失敗を乗り越えて成長のステップにする人もいる。今が大事、ビジネスライフ最初の大事な山なのかもしれない。

質問や相談があっても上司、先輩に声をかけるのを躊躇してしまう・提案したいが自信が持てず消極的になる・仕事に関して気づくこともあるが、報告すべきか迷う・細かい点を確認し始めるときりがない・疑問があっても誰かの不快感に配慮して、自分の意見を言い出しにくい

誰も同じ、スマートに業務をさばく上司も先輩も同じ悩みと挫折を味わってきた。自分には失敗して成長する権利と義務がある、と思おう。生まれつき秀でたビジネスパーソンなどいないのだ。

■学んだ側

昔、自分はどうだっただろうか？当時は上司や先輩に付いていくのがやっとで、よく覚えていない。指導してもらったことも可愛がってもらったこともあっただろうが、情けない反省や悔しい思いも沢山した。自分が後輩や部下をもって初めて見えることもある。

２～３年経てば組織にも業務にも慣れただろうに、作業ミスなどヒューマンエラーが多く、まだまだ仕事の質が低い・報告や連絡や相談が遅いことが、もどかしい・業務についてどう説明すればうまく伝わるか難しい・仲良くなりたいと思うが業務外の関わりは嫌なのではないかと距離の判断に迷う

誰も同じ。自分も同様に未熟で、当時の上司や先輩に心配され助けてもらってきた。私には君を育てる権利と義務がある、と思おう。生まれながらに優秀なビジネスパーソンなどいないのだ。

どちらも同じように多少の不満と不安や躊躇を抱えている。後に続く２～３年生も、先を行く上司や先輩も、より良いビジネスパーソンになるために学んでいる途上の人だ。
福沢諭吉が『学問のすすめ』の冒頭で「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず......平等なはずだが実はそうではない、だから人は学ぶべきなのだ」と言ったのは１８７２年、今から１５３年前だった。
不注意や手際の悪さを指摘してくださって、ありがとう。迷いながらも成長しようと努めてくれて、ありがとう。長い間、学ぶ機会を渡し継いできてくれて、ありがとう。