銀子の一筆

一人でも一緒でも自律

日に日に葉桜の緑が広がってきた。新社会人は、仕事とともに新生活もスタートして何かと緊張が続くが、今できることは功を急ぐより、自分なりの健康な心身と脳を保つ努力をすること。
社会人として基本の任務であり、最後まで続く終わりのない任務だ。

年頭から続く不安定な社会状況が、次第に明日の見えない世界情勢に変わった。
そうした背景から『働き方改革』の「多様な働き方の実現」の内の一つ、テレワーク(リモートワーク)が急に現実化した。
オフィスのなかの執務しか経験がない人には戸惑いがあるかもしれないが、私は50年以上前からフリーランスだったので、まったく違和感がない。 気分的には、100万年前から経験してきたことのように感じる。 どちらも一人でする仕事のため、考え方には多くの共通点がある。

フリーランスはテレワークより自由度は高いが、仕事の継続性の保障では各段にシビアだ。 1本契約が多いため、仕事はいつも幾つかを掛け持っている。 自由の高さといった得難い特権はあれど、OKを取り続けなければ仕事が継続しないしんどい暮らしだ。

ある時、知人の代打として契約で数か月間、広告デザインプロダクションに出向したことがあった。
その会社の社長は長くフリーランスで過ごしてから、法人化した元デザイナーだった。それゆえフリーと組織の仕事の、それぞれ違った難しさに「時々悩んじゃうんですよ」と言っていた。 会社は、私以外はみな正規雇用の社員だった。
ある日、社長が社員に向かって訓示した。

「皆さん全員、一度自分がフリーランスになったつもりで仕事をしてみてほしい。
仕事のクオリティによってギャラに差が出るフリーだったら、今の自分の仕事はいくらくらいの外注金額を得られるのか、 それで自分の生活を成り立たせられるか、振り返ってみてほしい。 毎月の給与に甘えていないか、会社に"借り" はないか、記録してみて考える経験をしてほしい。僕たちは制作者なんだから、良いものを作ってOKを取れば、当然ギャラも高くなる。 会社に"貸し" を作るくらい良い仕事をするように頑張ってほしい」

なるほど面白そうな試みだと思った。
社内にはキャリアの浅い社員や、モチベーションが下がったベテランなど、会社から外に出たら採算が取れそうにない人もいた。
しかし社長は社員の優劣の選別のために提案したのではない。 社長は、組織の中にいても厳しく自律する姿勢が、緊張感のある仕事を生み出す、と自己啓発を望んだのだ。
私も成果とギャラを計算してみたところ、幸いなことに会社に"貸し" ができていてホッとしたが、フリーランスは端から見るほど暢気な身分ではないのだ。

フリーランスは原則、自分の仕事場(事務所や自宅)で仕事をするが、上司はもちろん、仕事仲間はいないしタイムカードも終業ベルもない。 パジャマのまま仕事しても、別のことをしていてもわからない。
当時知り合いだったデザイナーの事務所は、資料という名の収集物が崩れそうに積み上げられ、辛うじてお酒のテーブルと絵を描く机が生き残り、 他は一面のゴミ事務所、おじさんの秘密基地化していた。 今でも、そういう仕事ぶりで成り立っている人がいるのかもしれない。
だが、私は自分が誘惑に弱い怠け者なのを承知しているので、自分が決めたルールを崩さなかった。
人間は一つどうでもいいと思ったら、すべてどうでもよくなるのではないか。
私は原則的に大体同じ時間に起きて、大まかなタイムスケジュールに沿って日常の決め事をこなしながら暮らした。 ジーンズではあるが、すぐに電車に乗れる仕事着で過ごし、締め切りより早めの納品に心がけて信用を積んでいった。

テレワークだったらどうだろう。継続的な雇用関係などフリーランスとは自由度やルールは大きく違うが、一人で仕事をすることに変わりはない。 一人だから日々の矛盾がなくて平和だが、一人ゆえの孤独や迷いもある。
他愛無い一言二言の交流で気持ちがほぐれる組織内の環境に比べて、人間関係の希薄さが際立つかもしれない。
しかし面白いことに、少し顔を見ないと懐かしさ混じりの新たな連帯感が湧くものだ。 もちろん定期的なミーティングは欠かせないが、毎日会うより新鮮さが増すことも多い。

社会に問題が起きているからではなく、「仕事内容や個人的事情によって、その時の働き方を相談して決める」ことが普通のことになれば、仕事はずいぶん風通しが良くなる。 組織や仲間へ感謝の気持ちが大きくなる。 余計なストレスや無駄な時間、不要な経費が少しずつ軽減していく。 通勤ラッシュが減れば、空は青いし空気もおいしい。 私だってもう100万年は軽く働けるはずだ。

2020年 4月 8日 (水) 銀子

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