2019年2月04日
少子高齢化による労働力人口の減少で人材不足が慢性化する中、企業は働き方改革による生産性向上を迫られている。2019年の人材需要と採用の課題を、企業の人材採用を支援する主要人材コンサルティング会社のトップ・事業責任者に聞いた。
本誌が実施した人材コンサルティング会社への調査では、今年の日本の雇用情勢は「良くなる・やや良くなる」という回答が56%、「横ばい」が35%、「やや悪くなる・悪くなる」が9%となった。採用数の予測でも増加するとの回答が過半数を占め、活発な採用活動が継続する見通しだ。
少子高齢化による労働力人口の減少に加え、4月からは働き方改革関連法の施行で残業規制などが義務化されるため、労働生産性の向上が企業人事にとって最重要テーマとなっている。企業の生産性向上について、リクルートキャリアの佐藤学執行役員は「今まで以上に、採用した人材が定着し、その企業でいかにイキイキ働き活躍してもらえるかが重要」と強調する。
同時に、これまで人が時間と手間を掛けて行ってきた業務にAI(人工知能)やロボットの導入を検討する企業が増えており、今後は人材の質と量をより慎重に見極めて採用する時代になってくることが予想される。人材確保が難しい中で、自社の事業運営に本当に必要となる人材の採用、入社後の定着や育成を強化する企業の動きがより鮮明になる年になりそうだ。
●2019年 日本の雇用情勢・人材採用の増減(回答集計)
リクルートワークス研究所の20年大卒採用見通し調査によると、採用数が前年より「増える」と答えた企業は13.8%で、9年連続で「増える」が「減る」を上回っている。本誌の今回調査でも20年卒の採用活動は19年卒以上の求人増が見込まれている。
売り手市場の状況が続く新卒採用について、ワークス・ジャパンの清水信一郎社長は「質的転換を念頭に置いた採用改革の途上にあると言ってよいのではないか。働き方改革は企業の生産性向上が前提の取り組みであり、ひいては個人の生産性向上に他ならない。このことからすると人材には、変化への対応力、自ら課題を解決する主体性、チーム力を最大化するリーダーシップが求められるが、そうしたポテンシャル人材を企業がどのように見出して採用していくかが大きな課題。新しい取り組みにチャレンジする企業と踏み切れない企業の間で3年後の成果に大きな差が出てくることは間違いない」と指摘する。
経団連は採用指針の廃止を表明したが、20年卒の採用活動は19年卒と同様のスケジュールが継続される。インターンシップや業界・業種説明会など、3月の広報活動開始前の取り組みに注力する企業が増え、経営者や社員が様々な機会を通して自社の魅力を全社を挙げて伝えていくような採用活動ができなければ、ターゲットとする学生の採用は困難になる。
人材コンサルティング会社の約8割が今年の求人は増加すると回答しており、即戦力となる人材の争奪戦はさらに過熱する。
あらゆる業種・職種で人材を奪い合う状況にあり、「伝統的大手企業では『市場の拡大』的発想でM&A経験者、海外展開経験者、海外現地法人CxOなどのニーズが増加。一方、イノベーションこそが生き残りのための重要エレメントと考える革新的企業は、テクノロジーを梃子にした新規事業/新規サービス開発者、既存事業の変革者を採用」(A・ヒューマンの髙橋英樹社長)、「多国間のシビアな競争に勝って企業をさらに躍進へと導けるような、国際的に通用するスキル、経験、人間性、語学力をもつ人材のニーズが継続的に高い」(イーストウエストコンサルティング室松信子社長)など、海外事業や新しいテクノロジーを活用した新規事業を担える人材のニーズは拡大する一方だ。
優れたスキルと経験を持つ人材には複数企業のオファーが集中し、従来の採用手法では人材を確保できない企業が続出している。採用力を高めるためには、外部労働市場を意識した処遇の見直しが必要で、より早いキャリアアップの機会を与えることも候補者には魅力的な条件となる。人材紹介の成功報酬フィーの見直し、リテインド・サーチの活用、採用キャンペーンの実施などに着手する企業も年々増えている。また、全社を挙げたリファラル採用やダイレクト・ソーシングの推進なども必須となろう。
慢性的な人材不足に対応していくためには、これまで以上に多様な人材に活躍してもらうための働きやすい環境を整えていくことが急務であり、働き方改革の推進が採用力の強化につながっていく。
ヒューマンリソシアの御旅屋貢社長は「様々なバックグランドを持つ人材の活用、多様な働き方の採用、IT技術の利用による業務効率化など、人材確保に向けた積極的な取り組みがより一層必要とされる」と訴える。働く時間や場所に制約がある人を意識した業務内容の見直し、テクノロジーを活用してテレワークやモバイルワークなどの導入を本格的に検討していかなくてはならない。
パーソルキャリアの勝野大執行役員は「需給のアンバランスの中で、経験者採用だけでは採用計画が達成しにくい中、未経験や異業種転職などをいかに前向きに取り入れ、戦力化できるか。とりわけ、時短勤務やシニアの方々の活用においては、取り組みレベルに差が大きく、各社開発の余地が大きい」と見ており、的確な人事施策の実現が人材獲得につながると示唆する。
今年も人材採用が難しい状況は継続するが、MS-Japanの井川優介取締役は「18年の転職希望者の動向として、じっくりと転職先を吟味する傾向が見受けられた。それに伴い企業の採用計画が遅れる状況も発生した」と説明し、採用計画を達成していくためには「組織の状況を考慮して、採用対象の経歴、経験、年齢などを広げる対応」を勧める。
これまで以上に多様な求職者から応募してもらうために、例えば、場所と時間という制約を越えてスマートフォンから応募を受け付け、いつでも面接ができるツールを活用する企業も出てきている。
求職者の活動は多様化しているため、母集団形成に苦しむ企業では採用チャネルの多様化に取り組む必要もある。"待ち"から"攻め"の採用への転換で人材を積極的に発掘する企業が成果を上げるようになっており、これを実現するためには、採用担当者のスキルアップだけではなく、全社で採用に取り組む社内の協力関係を作り上げていくことが欠かせない。
また、ケンブリッジ・リサーチ研究所の荒木田誠社長は「『どうしても働いてみたい』と思わせる、誰が見ても分かりやすいインパクトを転職市場に提示できるかが、採用を勝ち抜くポイント」と助言する。
人材獲得競争が激しくなる中、働く人の創造性をかきたてるような魅力的な仕事を提示し、働き方改革によって生産性の高い職場環境を整えられる企業とそうではない企業の採用力格差はますます拡大していきそうだ。
配信元:日本人材ニュース
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