晴雨を繰り返すうちに、早や夏至も過ぎた。これより少しずつ日は短くなり、蒸し暑さは日に日に増してくる。涼しい所・冷たい飲み物がありがたい時季だが、過ぎれば体調を崩しやすい。ただでさえ凌ぎにくい季節、怠けず頑張り過ぎず声を荒げず、サッパリ過ごしたい。
今ある課題に鋭く切り込む姿勢を見せたいのか、または混乱の中でも機知に富んだ余裕を表したいのか、余計な例えや軽口を叩く・肝心の意図は不十分な説明ほか、聞くのも恥ずかしい失言が世の中にはよくある。どんなに立派な構えでも、端から見ると品性の乏しさが丸見えで、少しも胸に響かない。相手の主張をきちんと理解せずに、無暗に言い立てることが正義の立場であるかのような行儀の悪さは、あるべき議論を阻害する。
世の中にありがちな悪例の話ではない。調子に乗れば、文章でも同じことが起きる。
■油断は禁物
日本では多くの人が日本語を話し、日本語の読み書きをする。ほとんど誰にでもできることだから、難しくないと思っている人も多い。が、使い慣れた言葉やよく目にする文章だからこそ、意図通り正しく伝えることは難しい、と自戒を込めて私は思う。口から出た言葉・文字で残る文書は、当方の本音が透けて見えたりまたは間違って伝わることも多い。
特に仕事で使う文書は個人の意見表明ではなく、組織としての意思を伝える意味が大きいので、本意とズレれば組織の姿勢が不明確だと受け取られかねない。怖い、怖い。過不足なく誤解・曲解を招かないために、できれば第三者に読んでもらって受け手の印象・我の露出を確かめておきたい。
■不要な気遣い
現場では、ビジネス文書特有の堅苦しい言葉を使い過ぎて自分が伝えたいことが簡潔にまとまらない・つい同じ表現を使い「お願いいたします」の連呼になってしまう・正しく伝えようと説明が長く細かくなり過ぎて読みづらい文章になる・何回も書き直して時間がかかるので早く書けるようになりたい、などの声を聞く。
ビジネス文書は文芸作品や論評・個人の思索や発言とは違って、事実を正確に・誰にも分かりやすく・簡潔に伝える必要がある。丁寧に考えて端的に表現することは簡単ではないが、技巧的な名文も感動を呼ぶ技術も必要ないと思う。軽視されないための尊大な言い回し・気分を推し量っての過剰な敬語よりも、大事なのは事実に対する誠実な姿勢ではないか。
■必要な情報
旅に・出ます 何のために・どのような場所に・どんな時期に・誰と・どのようにして~~なぜなら・そうすれば・別案としては・もしかしたら.........
本当に必要な「旅に」と「出ます」(同じように例えば「新商品を」と「開発しました」)の間には多くの情報がある。同じ重さで考えずに、伝えたいこと・相手が知りたい情報に順位をつけて取捨選択すれば、何を言いたいのか見失うことはない。と言っても、自分が理解・整理できていないと迷子になることは多い。迷ったら必要最小限の事実に戻ってみると分かりやすいと思う。頭が散らかった時に、鈍才の私は実行している。
ビジネスパーソンの中にも、話すことは得意だが文章にするのは苦手、文章には自信があるが話すのは気が進まない、など得手不得手がある。仕事で避けて通れないビジネス文書は個性や才能ではなく、訓練可能なスキルとして様々なルールやコツを学び形にすることができる。が、気を付けたいのは調子に乗った間違いは、必ず得意分野で起きることだ。知らないうちに誰かの癇に障っていることに自分ではなかなか気付けない。文章が好きで得意な人ほど、陥りやすい落し穴かも知れない。
言い換えれば、文書が苦手だと思っている人は訓練次第で、余計な修飾を施さず相手が欲しい情報を誠実に的確に伝える文書が書けると思える。溢れ出る自分の才能が伝わるような格好いい文書を仕上げて、差別化したいなどと思わなければ。
2025年6月23日 (月) 銀子