立てた襟に顔を埋める寒い日があるかと思えば、時に師走らしからぬ暖かな日もある。それでも暦は進み、年内最後の追い込みにかかる町は忙しない。今できること・するべきことを落ち着いて納め、次なる成長のステップに踏み出す自分を信じて新しい手帳を準備しよう。
子どもの頃、うちではさまざまな動物を飼っていた。犬・猫・チャボ・カナリア・紅雀・金魚などのほか、ウサギや鵞鳥がいた時もあった。短期間だったが、羊を預かっていたこともある(穏やかな顔なのに意外に力強く、押されると簡単に転ぶ)。これらの動物の多くは叔父が持ち込んだものだった。以来、長い間増減の変化はあっても、動物との交流は続いた。
■猫の交流
学生時代には猫を4匹飼っていた。今と違って猫用の出入り口から自由に内外を行き来していた。ある日、気が付くとソファに見知らぬ猫が寛いでいて、うちの猫とも仲が良いらしい。「どうしたの?だれ?」と母に聞くと、首をかしげながら「お隣の〇〇〇〇さんの猫らしい。よく来るけど夕方には塀を伝って帰っていく」とのこと。隣家は上品な高齢姉妹が住む家だった。首輪をつけた手入の良い長毛の白猫は、ごく自然に夕方までみんなと昼寝をしたり、ミルクを飲んだり遊んだりして帰って行った。呼び方に困って、ひそかに隣家の名字の上半分を愛称にして〇〇と呼んでいた。ある日、外の植え込みの中に潜った〇〇を母と一緒に小声で呼んで探していたら、隣人がニコニコと通りかかった。名字を呼び名にした失礼を詫び、先方も「お邪魔して」と恐縮して、めでたく猫の交流は公認された。
■人の交流
私たちの日常生活は穏やかな笑顔・柔らかな挨拶など、何となく共有する曖昧な感覚で平和が保たれる。緩やかな繋がりが可能なのは、個々が独立していて利害関係がないからだ。相手を尊重し否定しない・踏み込み過ぎない・本人に向かって言えないことは本人がいない所で言わない、意見は言うが強要しないなど気をつけていても、人間関係は何かとトラブルが起きやすい。
しかしビジネスでは明確に、社内外の上下左右の人間が利害をテーマに切磋琢磨、離合集散を繰り返すのが日常になる。例え同じ目標をもつ間柄でも、個々のもつリテラシーや経験・発想や視点が異なれば意見も表現も違い、見えない軋轢や格差が生まれても不思議ではない。それこそがビジネスの原動力になるともいえる。しかし、メンバー全員でより良い明日へ向かう時、できれば人間の礼節と柔軟な理解をもって納得できる協調が欲しい。
■水先案内人
座の雰囲気をコントロールして円滑な進行を促し、誰もが消化できる有意義な会議または会合にする役割がファシリテーターに期待されるが、簡単にはいかない。
思いの強い人・話術が得意な人により時間内に話がまとまらず会議が長引く。上位者の雑談などが入り、テーマの軌道に戻しにくい。議題に関して詳しくない人にも分かりやすい基礎の説明が難しい。全員の意見を聞き、意見を交換しやすい雰囲気にしたいが、皆が納得できる結論にまとめにくい。最終的に方向性を見出し、期限や担当を決めるのも神経をつかう。想定外のことや不案内な領域への質問に対して、一次回答が困難なこともある。
などなど、ファシリテーターが抱えるストレスは大きい。しかし、衝突を避け健全な議論へ誘導する役割も、完璧を目指さずに参加者にも状況を共有してもらおう。「困りましたね」そんな弱みを率直に見せることも、派手に表立たないファシリテーターの人間的な信頼に繋がるのではないか。ファシリテーター自身も同じ目的をもちながら、議題に対して意見や疑問をもつメンバーの1員なのだから。ギスギス・ガチガチ・イライラは座に感染しやすい。うまく運べないかも知れない自分も含めて「ここで逢う人みな美しき」と、柔らかな気持ちで、新しい年も穏やかに余裕をもって進めよう。
2025年12月12日 (金) 銀子





























