働き方改革元年 人事担当者の緊急5テーマ

2019年2月18日

働き方改革元年 人事担当者の緊急5テーマ

 働き方改革関連法が4月以降に順次施行され、2019年は「働き方改革元年」とも言うべき年になる。労務リスクを回避するための様々な対応が迫られる中、人事担当者が取り組むべき5つのテーマを解説する。(文・溝上憲文編集委員)

罰則付き時間外労働の上限規制

 労基法36条の改正によって残業時間の上限が法律で規制される。時間外労働の限度時間は原則として月45時間、年360時間。臨時的な特別の事情がある場合の上限について①年間の時間外労働は720時間以内、②休日労働を含んで、2カ月ないし6カ月平均は80時間以内、③休日労働を含んで単月は100時間未満、④原則の月45時間を超える時間外労働は年間6カ月まで――という制限を設けている。この限度時間を超えて働かせると刑事罰の対象になる。

 ただし、2カ月ないし6カ月平均は80時間以内、単月100時間未満は過労死認定基準に近く、国会の付帯決議でも限度時間にできるだけ近づけることとされた。そのため36協定を締結する際に歯止めになるような措置として新たに指針が設けられた。

 第3条1項で「使用者は、時間外・休日労働協定において定めた労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間の範囲内で労働させた場合であっても、労働契約法第五条の規定に基づく安全配慮義務を負う」と明記している。

 また2項では過労死の労災認定基準を示し、使用者は「発症前1カ月間におおむね100時間または発症前2カ月間から6カ月までにおいておおむね80時間を超える場合には業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価できるとされていることに留意しなければならない」と規定している。

 さらに5条では「労働時間の延長は原則として限度時間を超えないものとされていることに十分留意し、当該時間を限度時間にできるかぎり近づけるように努めなければならない」としている。労使はこの点を踏まえて労使協定を結ぶ必要がある。

 さらに36協定の記載様式も変わり、特別条項は「業務の都合上必要な場合、業務上やむを得ない場合等恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものを記入することは認められないことに留意する」とし、具体的な記載を義務づけている。臨時に限度時間を超えて労働させることができる場合の「業務の種類」と「労働者数」を明記し、1カ月内において「限度時間を超えて労働させることのできる回数」「延長することができる時間数」「限度時間を超えて労働に係る割増賃金率」などを定めることになっている。

 今後はどのような場合に労働時間を延長できるのかについて労使で突っ込んだ話し合いが必要になる。

 限度時間を超える労使協定を結んだ場合の実務上の課題も少なくない。とくに従業員個別の労働時間管理が重要になる。労働時間管理に詳しい社会保険労務士は「2カ月ないし6カ月平均80時間以内と単月100時間未満の規制には法定休日労働も含まれている。

 これまで別々に管理していた時間外労働と法定休日労働をどう管理していくのか。仮に特別条項で1カ月あたりの上限時間を99時間と定め、ある月の残業時間が90時間であれば翌月の早々には、今月は70時間までですというアラームを人事や上長が出さないといけない。2カ月だけではなく、6カ月まで規制が入るので常にデータを取って上限を超えさせない体制を確立していく必要がある」と指摘する。

 従業員の残業時間を月末に締めたら上限を超えていたではすまされない。勤怠管理システムが自動化されていない企業も多く、今まで以上に制度の高い労働時間の把握が求められる。

就業規則や人事制度の見直しを迫られる

働き方改革関連法の概要

●働き方改革関連法の概要
(出所)厚生労働省「『働き方改革』の実現に向けて 概要」

同一労働同一賃金

 パートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法によって裁判の際に判断基準となる「均衡待遇規定」と「均等待遇規定」が整備された。また16年12月に出された「同一労働同一賃金ガイドライン案」を整備した「不合理な待遇の禁止等に関する指針」が策定された。

 パートタイム・有期雇用労働法8条は、労働契約法20条を削除して統合したものだ。①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情を考慮して不合理な待遇差を禁止するという均衡規定だ。

 また基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練などのそれぞれの待遇ごとに、当該待遇の性質・当該待遇を行う目的に照らして適切と認められる事情を考慮して、判断されるべきとしている。

 9条の均等規定では①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は差別的取扱いを禁止している。均衡待遇とは考慮要素に違いがあっても、違いに応じてバランスをとって待遇差を解消することであり、均等待遇は考慮事項が同一であれば同一の待遇にしなさいということだ。

 また、事業主は有期雇用労働者に対し、本人の待遇内容および待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務を課し、本人が求めた場合は正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等の説明義務も課している。

 しかし、待遇差が存在する場合にどのような待遇差が不合理なものか、あるいは不合理ではないかがわかりづらい。「不合理な待遇の禁止等に関する指針」では「我が国から非正規という言葉を一掃することを目指す」としているが、法令の実効性は正規と非正規の同一労働同一賃金の実現とはほど遠いという冷ややかな見方も出ている。

 日本労働弁護団の弁護士は「今回の改正では短時間労働者のパートと有期雇用労働者を一体化させて行政指導の対象にしたこと、新法の8条で基本給、賞与、その他の待遇を明文化したことはよいことだ。しかし指針の法的拘束力はなく、どれぐらい効果があるのか疑問だ。労働契約法20条に関する裁判の判決が相次いで出されているが、最高裁や下級審の判断の傾向は一部の手当の待遇差については認めるが、基本給や賞与は認めないという司法消極主義であり、現在の正規と非正規の格差の是正にはつながりにくい」と指摘する。

 その指針にしても基本給については①職業経験・能力、②業績・評価、③勤続年数について、それぞれが同一であれば同一の賃金を支給するとしているが、賃金体系は企業ごとに多様である。

 社会保険労務士は「そもそも各社の基本給がどういう思想や設計によってできていることを断言できる企業は少ないのではないか。日本の伝統的企業の基本給にはいろんな要素が入っている。賞与についても会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、貢献に応じて同じ賞与を払いなさい、貢献に一定の違いがあればその相違に応じて払いなさいと言っている。しかし、企業ごとに本人の貢献だけではなく会社業績や職務等級などの支給の基準が異なるし、何をもって均衡といえるのか判断が難しい」と指摘する。

 多くの企業の正社員は職能資格賃金など独自の制度に基づく月給制であるのに対し、非正規社員は職務ベースの時給であり、賃金制度は分断されている。実際にどのように均衡を図ればいいのか極めてわかりにくいものになっている。

 社会保険労務士は「まず手をつけるべきは手当だろう。非正規社員から見ても顕在化しやすい職務関連手当、賞与、生活関連給付について優先順位をつけて確認する。手当が支給されていなければ、合理的理由が言えるかどうかを検証し、言えないとすれば施行までに検討しておく必要がある」とアドバイスする。

 一方、諸手当を巡る労使交渉において正規社員の手当をなくして待遇を下げることで格差を是正しようとする企業が増えることが懸念されている。今回の指針ではそれを踏まえ、事業主が正社員と非正規社員の不合理な待遇差の相違の解消を行う際は「基本的に労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえない」と釘を刺している。

客観的かつ具体的な実態から合理的かを判断

同一労働同一賃金対応による見直し対象となる待遇

●同一労働同一賃金対応による見直し対象となる待遇
(特定社会保険労務士 小宮弘子氏作成)

高度プロフェッショナル制度

 高度プロフェッショナル制度の対象者は1075万円という年収要件に加え、対象業務として①金融商品の開発、②金融商品のディーリング、③アナリスト、④コンサルタント、⑤研究開発――の5つが列挙されている。導入に当たっては過半数労働組合がある場合はその半数を占める労使委員会で委員の5分の4以上の多数の決議が必要とされている。

 さらに労使委員会の決議事項には出勤時間、業務量、会議の出席などの「業務に従事する時間に関し使用者から具体的指示を受けて行うものではないこと」「職務内容が明確であること」などの条件もある。また、健康確保措置として「年間104日以上、かつ4週間に4日以上の休日を与える」などの厳しい要件が付いている。高度プロフェッショナル制度に反対する連合は導入を認めない方針であり、労組の賛同が得られなければそもそも導入は難しい。

 また、年収要件に加え、いわゆるジョブ型の業務であり、企業の中には対象となる労働者がいないとの声も少なくない。一連の法改正を受けて自社にどのように導入していくのか今後は労使の検討にかかっている。

 働き方改革関連法制は基本的には大きな枠組みを整備したものにすぎない。それを企業の実状や中・長期的な企業ビジョンに基づいて、働く人が幸せや豊かさを感じながら意欲的に働ける環境を作るために労使が互いに知恵を絞り出していくことが求められている。

外国人労働者の受け入れ

 働き方改革関連法以外のテーマだが、外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が国会で成立し、4月に施行されることになった。

 これまで「専門的・技術的分野」の高度人材しか受け入れてこなかったが、深刻な人手不足に対応するために単純労働者にも門戸を開くことになる。新たな在留資格は通算5年滞在できる「特定技能1号」と在留資格が更新できる専門技術的な労働者の「特定技能2号」の2つだ。

 1号の対象者は農業、介護、建設など人手不足が深刻な14業種。政府は19年度から5年間の累計で最大34万5000人を受け入れる見込みであるが、そのうち現行の「技能実習生」からの移行が45%と見込んでいる。

 だが、特定技能2号は高度専門職と同様に家族帯同も可能で転職も自由だが、1号は家族帯同は許されない。また、政府は国会答弁で「転職の自由や一時帰国も認める」と発言しているが、生活支援策や日本語教育を含めてその実効性をどう担保するのか、具体的な制度の中身は明らかにされておらず、今後検討することになる。

 「技能実習制度」は途上国への技術移転を目的に創設されたが、企業の人手不足解消策の労働力として利用されているのが実態だ。また、悪質なブローカーの介在、受け入れ事業者が最低賃金以下で働かせる法違反、人権侵害、失踪などのトラブルが後を絶たず、現行の技能実習制度の問題点が改善されないままに新制度を導入することに反対の声も根強く、新制度の具体的内容を注視していく必要がある。

ハラスメント防止対策

 職場のハラスメント防止対策に関して厚生労働省は事業主に対して社員がパワーハラスメント(パワハラ)を受けることを防止するための雇用管理上の措置を義務づける法改正案を19年の通常国会に提出することを決めた。

 同時に職場のパワハラに関する紛争解決のための調停制度や、助言・指導等の措置が法律で規定されることになる。対策を取らない企業は是正勧告や企業名公表などの行政指導を受けることになる。

 すでにセクシュアルハラスメントについては法律で事業主の防止措置が義務づけられているが、新たに自社の社員が社外の社員や顧客などからセクハラを受けた場合も雇用管理上の措置義務の対象とすることにしている。

 小売、飲食、医療・介護の現場の顧客・患者からのハラスメントが増加している実態を踏まえたものだ。19年は法律改正を含めてハラスメントに対する世の中の視線が一層厳しくなるだろう。

配信元:日本人材ニュース

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