そのデザイン、「なんとなく」で決めていませんか?~感覚に頼らないUI設計力の判断軸

「このボタン、なんか違う気がする」「ここ、もう少し使いやすくして」
システム開発やUI設計の現場では、こうした言葉が飛び交うことが珍しくありません。しかし、「なんか違う」の「なんか」が何を指すのか、誰も明確に説明できないことも多いのです。
その結果、デザインレビューが「好みの話」に終始し、修正を重ねても使いやすさが向上しない。あなたもそんな堂々巡りに陥った経験はないでしょうか。
ビジネスにおけるUI設計に必要なのは、個人の「センス」ではなく、誰もが納得できる「判断軸(ロジック)」です。この記事では、「使いやすさ」を理屈で語り、手戻りを防ぐためのUI設計思考を解き明かします。
感覚頼みUIの罠~レビューが主観で終わる3つの弊害
UIデザインを「なんとなく」や「見た目の好み」だけで決めてしまうと、プロジェクトには次のような弊害が生まれます。
1.フィードバックが主観的になり、合意できない
「私は青より緑が好き」「こっちの方が今っぽい」など、議論が感覚に偏ります。根拠がないためチーム内での合意形成が難しく、声の大きい人の意見が通ってしまうことさえあります。
2.使う人が置き去りになる(自分本位な設計)
「自分が使いやすいから大丈夫だろう」という作り手の思い込みが先行してしまいます。実際の利用者のITリテラシーや、操作する環境(騒がしい場所、急いでいる状況など)が考慮されず、現場で使われないシステムになりがちです。
3.修正の方向性が見えず、手戻りが続く
「もっと良くして」と言われても、何をどう改善すればゴールなのかが定義されていないため、修正のたびに新たな指摘が生まれ、開発工数ばかりが膨らんでいきます。
感覚は大切ですが、それを裏付ける「考え方の軸」がないと、デザインは迷子になります。
UI設計で迷わないための3つの判断軸
UI設計力を磨くには、「どんな基準で判断するか」を明確にすることが不可欠です。ここでは、人間中心設計(HCD)や認知心理学の観点から重要な3つの軸を紹介します。
1.ユーザーの目的達成を最短化できているか
UI設計の本質は「見た目の装飾」ではなく、「目的達成のしやすさ(ユーザビリティ)」です。「利用者がこの画面で何をしたいのか(情報の閲覧か、登録か、承認か)」を起点に、迷わず最短でゴールに到達できる導線になっているかを検証しましょう。
2.「脳のメモリ」を無駄遣いさせていないか
人は一度に処理できる情報量(短期記憶)に限界があります。メニューが多すぎる、画面遷移しても前の情報を覚えておく必要がある、といったUIは、利用者に高い思考負荷を与えます。「直感的にわかる(考えさせない)」状態を作ることが重要です。
3.予測可能で、一貫性があるか
デザインのルールが場面ごとに変わると、ユーザーは次に何が起こるか予測できず、使い方を毎回学習し直さなければなりません。ボタン配置、色、ラベル表記などの一貫性を保つことで、ユーザーは安心して操作に集中できます。
判断軸を実践に変えるUIデザインの3原則
判断軸が定まったら、それを具体的なデザインに落とし込みましょう。ここでは、人の認知特性に基づいた、使いやすさを実現するための3つの基本原則をご紹介します。
原則1:情報を「グループ化」し、思考負荷を減らす
関連性の高い情報や機能は、近くに配置したり、線で囲ったりすることで、ユーザーはそれらをひとつの「塊」として認識します(近接の法則)。これにより、画面上の情報量が整理され、どこに何があるか瞬時に理解できるようになります。
原則2:操作に「手応え」を与え、安心させる
ボタンをクリックしたら色が反転する、データの送信中にローディング画面が表示されるなど、システムの状態変化を視覚的に伝えることを「フィードバック」と呼びます。適切なフィードバックは、ユーザーに「操作が受け付けられた」という安心感を与え、次の行動を促します。
原則3:ルールを「一貫」させ、学習コストを下げる
「決定」ボタンは常に右下に配置する、「エラー」メッセージは赤色で表示するなど、UI全体のデザインルールを一貫させることが重要です。一度覚えた操作方法が他の画面でも通用するため、ユーザーは使い方を何度も学習する必要がなくなり、ストレスなく目的を達成できます。
まとめ:感覚から「ロジック」で語れる設計者へ
優れたUIは、作り手のセンスだけで生まれるものではありません。なぜそのデザインなのかを、ユーザーの行動や心理に基づいて論理的に説明できることが、ビジネスの現場では不可欠です。
感覚的な「なんか違う」から脱却し、「ユーザーの目的達成を最短化するために、ここのボタン配置はこうあるべきだ」と語れるようになること。それが、手戻りをなくし、プロジェクトを成功に導くUI設計者の第一歩と言えるでしょう。
本記事で紹介した判断軸や原則は、そのための入り口に過ぎません。これらの知識を体系的に学び、実践的なスキルとして定着させたい方には、専門の研修で学ぶことをお勧めします。
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