立冬を過ぎて、さすがに朝夕の水を冷たく感じるようになった。さまざま波立った今年も気が付けば残り少なくなっていて、何だかやり残したことがあるような焦りに似た気分に駆られる。が落ち着いて、まだある今年に今年の力を尽くして努め、より良い明日に備えよう。
かつて行政機関発行の会報誌の仕事をしていた時、大手印刷会社の中に制作ルームがあった。社内には、社員を鼓舞するスローガンがいろいろ貼ってあった。「納期は印刷の命」「聞き間違いの撲滅!」「~だろう判断はやめよう!」など。果たして見込み違いから赤字を出し、役員たちが神社でお祓いを受けたこともあったらしい。会社が大きければ、利益も損失も大きくなる。私たちのルームには関係のないミスだったが「聞き間違いから刷り直しまで一貫制作」などと密かに笑えない冗談にした。
当時、大手百貨店のセール広告で、金のネックレスの商品価格のケタを間違えて安値で告知するという出来事があった。百貨店は押し寄せた客に(仕方なく)表示通りの価格で販売し、大損害を被ったと新聞に載った。他人事ながら制作側が負うペナルティはお金に換算できない問題だろうと胸が痛み、改めて他人事ではないと気を引き締めた。
■顔色が見えない
充分注意していても間違いは起きる。間違いが無くてもクレームは出る。クレームは企業にとって改善のための貴重な資料ではあるが、クレームをつけることで自己満足する過激なクレーマーも少なくない。東京都は2025年4月1日から、顧客による著しい迷惑行為の防止を目的とした「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行し、カスハラを一律禁止した。罰則規定はないがカスハラ被害の減少・抑制につながることを期待している。
対面販売など見える相手へのカスハラは分かりやすいが、見えない相手からの場合はどうだろう。コールセンターなどでは、多くが正当な苦情・真面目な相談だろうが、時には威圧的な暴言によって衝撃を受けるスタッフは多いと思う。録音はされていても見えないことで、常識を超えた発言に歯止めがかかりにくいことも想像できる。
■電話の世界
コールセンターでは、顧客からの問い合わせ・苦情・相談などの受電(インバウンド)業務と、顧客への商品紹介・販売促進・アポイントメント取得など営業活動の架電(アウトバウンド)業務が行われる。いずれもある意味「電話」という密室空間での仕事は、それぞれのストレスからスタッフだけでなく管理者のメンタルケアも重要に思える。
スタッフとして、トークスプリクト(会話の台本・マニュアル)はあっても、多様な顧客との対応に正解はなく、話の構成を考えつつ臨機応変に対応するのは難しい。
スーパーバイザーとして、ストレスの大きい業務につくスタッフのモチベーション維持・フォローやケアが大事なのに忙しくて時間が確保しにくい。
アウトバウンドでは、どうしても顧客目線に立つため最後まで商材を売り込めない。また電話営業の実績が高い部下への指導・対応に戸惑うことが多い、など。
人間対人間のやり取りが直接表れてしまう電話ならではの悩みも、立場によって多様だ。
■準備と気遣い
対応が丁寧過ぎても、投げやりに聞こえても顧客の信頼は得難いだろう。やる気や根性だけでは乗り切れない繊細な仕事だと思う。これこそ、経験豊富な先人の話や実務的なスキル・ビジネスルールなど、基本をしっかり学んでおく必要があるかも知れない。
ちなみに電話で「もしもし」というのはビジネスシーンではNGだと最近になって知った。「もしもし」は、「申します。申します」の略語「申す、申す」が訛ったもの。略語を使うのは失礼とのことらしい。そうかな?お客様が神様ではないなら、ちょっと気を遣い過ぎな気もするが、対立要素を極力排して冷静な商関係を保つために必要なら仕方ない。
2025年11月19日 (水) 銀子





























