インソース グループ営業統括室 特別顧問
株式会社インソースデジタルアカデミー 最高顧問
杉山晋一

地経学の視点で、企業幹部に必要とされるインテリジェンス能力とは~不確実な時代、生き残る為の経営判断の基盤

地経学の視点で、企業幹部に必要とされるインテリジェンス能力とは~不確実な時代、生き残る為の経営判断の基盤

国家間の覇権争いや地域紛争、サプライチェーンの断絶リスクなど、国際社会の不確実性はますます高まっています。従来の経済理論や経営戦略だけでは対処しきれない局面が増加するなか、企業幹部に今求められているのが「地経学」の視点と、それを経営に生かす「インテリジェンス能力」です。

本コラムでは、これからの激動の時代を勝ち抜くために企業幹部が備えるべきインテリジェンス能力と、生成AI時代における情報収集のポイントについて解説します。

今なぜ「地経学」なのか?~純粋な経済合理性だけでは生き残れない時代

「地経学」とは、「地政学」のシーパワー(海洋国家)・ランドパワー(大陸国家)に着目した軍事力基盤に加え、関税・サプライチェーン・技術流出・政府規制等の経済的影響力も踏まえ、総合的な観点で、進むべき道を決める考え方です。

これまでのように「コストが安い場所で作る」「成長市場へ無条件に進出する」といった純経済的な合理性だけで判断する経営は、もはや通用しない時代に入っています。ある日突然の輸出規制や合弁規制、経済制裁によって、これまで順調だったビジネスが一瞬で立ち行かなくなるリスクが現実化しているからです。現代の企業経営には、常にこの「地経学の視座」を組み込むことが不可欠となっています。

経営における「インテリジェンス」の本質〜意思決定の仕組み

こうした不確実で複雑なリスクに直面したとき、経営幹部に真に必要なのが「インテリジェンス能力」です。ビジネスにおけるインテリジェンスとは、単にニュースやデータを集める「情報」のことではありません。

【インテリジェンスとは】
企業存続や事業拡大に関する重要な問題に対する知識(情報)が、経営者の要求に基づいて収集・分析され、経営者に提供される「仕組み(プロセス/システム)」、および「その仕組みによって生産された成果物(プロダクト)」のこと。

多極化し混迷を極める地経学リスクの中で、純粋な経済合理性や前例踏襲の判断だけで生き残ることは困難です。無数に存在する情報の中から、自社の事業に「いつ・どのような影響があるのか」を精査し、複数のシナリオを描いた上で速やかに意思決定を下す。
この「不確実な環境下で経営判断を正しく下すための意思決定支援」こそが、現代の企業経営に求められるインテリジェンス機能の中核なのです。

企業幹部に求められる「6つのインテリジェンス能力」

地経学的リスクが混迷を極める現代において、経営幹部にはどのような能力が必要とされるのでしょうか。大きく分けて以下の6つの能力が挙げられます。

  1. 情勢把握力(国際情勢・ライバルの構造理解):
    「誰が、何を狙い、どんな行動を起こしているか」という世界勢力図や競合の意図を正しく見極める力。
  2. 影響理解(自社への波及を見抜く力):
    自社の売上・調達・投資・研究開発・人材・提携先に対して、「この社会変化がどう影響するか」を具体的に読み解く力。
  3. シナリオ力(複数の未来を想像し備える力):
    未来を一通りに決めつけず、複数のシナリオを描いて備える構想力。ここには歴史や社会常識といった基礎的なリベラルアーツの知見が不可欠です。
  4. 意思決定力(不確実な状況下でも決める力):
    情報が不完全であってもスピード感を持って決断する力。「仮説」をもとに即座に動き、状況変化に応じて見直し(修正)を続けるしなやかさが必要です。
  5. 組織統合力(情報を経営に生かす力):
    収集・分析したインテリジェンスを単なるレポートで終わらせず、経営層との強いパイプを通じてタイムリーに経営戦略へと統合していく力。
  6. 客観的に物事を見る力(リベラルアーツ・常識・倫理):
    自社の希望的観測やバイアスを排除し、健全な常識と倫理観をもって物事を俯瞰・評価するバランス感覚。

ビジネスで使われる情報収集手法

インテリジェンスの情報収集は、いくつかの手法に分類されます。

  • オシント(Open Source INT):公開情報(ニュース、官報、論文、Webサイト等)による収集
  • ヒューミント(Human INT):専門家や業界関係者など、人的ネットワークからの収集
  • シギント(Signals INT):通信・電波の傍受
  • ジオイント(Geospatial INT):人工衛星画像などの地理空間情報
  • マシント(Measurement & Signature INT):地震波や大気成分などの測定・符号情報

国家レベルではあらゆる手法が駆使されますが、民間企業レベルで中心となるのは「オシント(公開情報)」と「ヒューミント(人的ネットワーク)」の2つです。

生成AI時代のオシント(公開情報活用)の留意点

現在、オシントの強力なツールとして「生成AI」が急速に普及しています。しかし、インテリジェンスの現場で生成AIを活用する際には、その強みと弱みを正しく理解しておく必要があります。

生成AI活用における「強み」と「弱み」

強み:表層的・全般的な知見のスピード整理
事象に関する一般的・表層的な全体像を迅速に把握・要約できる。分析者自身がすでに相応の知見を持ち、AIの回答の妥当性を瞬時に判断できる(=回答のイメージを事前に持っている)場合には極めて有効です。

弱み:断定表現・誤採用リスクと人間の最終責任
生成AIの回答は独自のフィルタや加工を経て出力されるため、過去の古い情報を誤って採用したり、ファクトチェックが不十分な不確かな情報であっても断定的に言い切ってしまう傾向があります。生成AIは「優秀で手が早い部下」のような存在ですが、最終的な意思決定の責任を負うのは上司である人間(リーダー)であることを忘れてはなりません。重要な経営判断の材料として、生成AIだけに依存することは極めて危険です。

効率的な情報収集の「ハイブリッド手法」

現時点において、情報の「一次情報(出典となるWebサイトや公的データ)」へ直接アクセスする確実性を重視する場合、インテリジェンスのプロの間では「検索エンジンによる逐次検索のほうが依然として効率的かつ有用である」という見方が主流です。

しかし、生成AIの進化スピードは目覚ましいものがあります。実務においては、「まず生成AIを活用して対象事象の全体像や論点をざっくりと把握・整理し、その上で個別の一次情報や最新ニュースを検索エンジンで深掘り・検証する」という2段階のハイブリッド手法が、スピードと確実性を両立するベストなアプローチと言えるでしょう。

AI時代のトリプルスキル研修~問いを立て、評価し、決断を下す力を磨く

AI時代のトリプルスキル研修

AIが急速に発達し、情報収集や下調べといった「作業」をAIが担えるようになった現代だからこそ、HI(人間の知能)の重要性は増しています。

AIを効果的なパートナーとして使いこなしてビジネス成果に結びつけるために、今後も人が担い続けるべき重要な能力が以下の「トリプルスキル」です。

  1. 問いを立てる力:AIのアウトプットの質を左右する問題設定
  2. 妥当性を評価する力:AIの回答を鵜呑みにせず、ファクトや倫理観で検証する批判的思考
  3. 決断を下す力:不確実性とリスクを引き受け、最終的な意思決定を行う覚悟

本研修では、生成AIの実習も交えながら、これら3つの力を一連の思考プロセスとして連動させ、実務の現場で成果を生み出すための視点とアプローチを体系的に学びます。

AI時代のビジネス環境下において、自社の意思決定プロセスを高度化し、リーダーシップを発揮したい企業幹部・マネージャーの皆様は、ぜひ受講をご検討ください。

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役員・部長研修~経営幹部に求められる資質・行動・判断軸

本研修は、役員・部長クラスが「経営幹部に相応しい人材となる」ために、身に付けるべき企業経営の知識、経営者としての資質・判断軸などを体系的に学ぶプログラムです。経営幹部は管理職の延長ではなく、組織の未来を方向づける「経営の代行者」と言われます。その際に必要な知識やスキルは、従来のマネジメントスキルの延長線上ではなく、未来を創る力です。

また、本研修は、単なる知識習得の場ではなく、「経営幹部としての覚悟」を固める場でもあります。自身が目指すビジョンを考えながら、短・中・長期で「稼ぐ」ことをどうつくるか、多様なステークホルダーの要請にどう応えていくか、そして、自身が強化すべき資質や行動を具体化し、「明日から何を変えるか」を明確にしていただきます。組織の未来を担う経営幹部の方におすすめの研修です。

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「AIと働く」研修シリーズ

本シリーズでは、普遍的なビジネススキルの習得をベースとし、業務の効率と成果をさらに高めるための実践的な手法としてAI活用のポイントを組み込んでいます。

既存の知見に生成AIという新たな視点を加えることで、現代のビジネス環境に適したスキルの習得と、生産性の向上を目指します。

>「AIと働く」研修シリーズの詳細はこちら

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