いま物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)が注目されている理由~物流2024年問題のその先へ
「物流は現場や専任業者の問題である」。これまで多くの企業では、そのように考えられてきたのではないだろうか。配送コストの削減や在庫管理の効率化、輸送手段の見直しなど、物流は主としてオペレーション改善の領域として扱われてきた。
しかし、物流2024年問題を契機として、その認識は大きく変わりつつある。ドライバー不足や輸送能力の低下が顕在化する中で、物流問題はもはや現場だけの課題ではなく、企業経営そのものを揺るがすテーマとなった。
こうした背景から、いま注目を集めているのが物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)である。CLOは単なる物流部門の責任者ではない。企業全体のバリューチェーンを俯瞰し、物流を経営戦略の一部として最適化する役割を担う存在として期待されている。

出典:図表「物流統括管理者(CLO)の責任」
国土交通省「物流統括管理者(CLO)のあるべき姿に関するワークショップ」提言 「物流統括管理者(CLO)に期待される姿」令和8年2月https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001992614.pdf(最終アクセス:2026/6/19)
なぜ物流は経営課題になったのか~活動を支えるインフラ機能低下=企業価値の低下
物流業界では以前から人手不足が指摘されてきたが、2024年4月からの時間外労働規制の適用によって、その課題は一気に顕在化した。トラックドライバーの労働時間が制限されることで、輸送能力不足が懸念されるようになったのである。これは物流事業者だけの問題ではない。
- メーカーは完成製品を運べなくなるかもしれない
- EC事業を含む小売業では欠品リスクが高まったり、配送スピードを維持できなくなるかもしれない
- 土木工事現場では資材遅延のために竣工納期を守れなくなるかもしれない
つまり物流は多くの企業活動の根幹を支えるインフラであり、その機能低下は企業価値そのものに影響する。こうした背景から、経済産業省や国土交通省は物流改革を重要政策として位置づけている。政策のポイントは単純で、「物流事業者だけに改善を求めても限界がある」ということだ。発注方法、生産計画、在庫方針、販売施策など物流に影響を与える要素は企業活動のあらゆる場所に存在している。だからこそ、物流を企業全体の問題として捉える必要がある。
物流危機の本質は「運べない」ことではない
物流2024年問題という言葉から、多くの人はトラックドライバー不足を連想する。確かに重要な問題ではあるが、一歩踏み込んで「物流を前提とした経営が成立しなくなる可能性があること」にまで思いを巡らせなければならない。
現場の犠牲によって実現されていた高いサービス水準
これまで日本企業は、高品質な物流インフラを当然のものとして活用してきた。翌日配送、2時間区切りの時間指定配送、多頻度小口配送など、世界的に見ても極めて高いサービス水準が実現されてきた。その仕組みは多くの現場の努力によって支えられていたことは明白だ。
ラストワンマイルを担う小口ドライバーは、昼食もとらずに汗だくで走り回っていた。24時間照明の消えない物流センターでは、無理な荷受けが続いてフォークリフトとの接触事故が起きていた。
物流問題は、経営判断そのものを見直すレベルへ
人手不足が進んで輸送能力が限られる中では、従来と同じサービスレベルを維持することは難しくなり、企業は次のようなことを考えざるを得なくなる。
- 本当に翌日配送が必要なのか
- 在庫配置は適切なのか
- 発注方法は合理的なのか
- 生産計画は物流を考慮しているのか
つまり物流問題は、経営判断そのものを見直すレベルへと変化しているということだ。物流部門だけで解決できない理由もここにある。企業活動のあらゆる意思決定が物流に影響を与えている以上、物流改革は全社改革でなければならない。
海外企業ではすでに経営機能として位置づけられている
CLOという考え方は、日本独自のものではない。欧米企業では以前から、サプライチェーン全体を統括する責任者が経営層の一員として活動してきた。背景にはグローバル競争の激化がある。企業が成長するためには、調達・生産・在庫・物流・販売を個別に最適化するだけでは不十分で、全社視点で利益を最大化する仕組みが必要になる。そこで重要視されてきたのがサプライチェーンマネジメントであり、その推進役としてCLOやCSCO(Chief Supply Chain Officer)が置かれてきた。
一方、日本企業では、先述のとおり長らく現場力が競争優位の源泉だった。現場の改善活動によって高い品質と効率を実現してきたのである。しかし近年は環境変化が加速している。日本という1国を切り取ってみても、人手不足という長期トレンドに加え、2026年夏の現時点では台湾有事などの地政学リスクが高まっている。
全世界共通の課題である地球温暖化によって起こる自然災害もますます増えるだろうし、ホルムズ海峡の封鎖によって原材料価格はいよいよ高騰し始めた。こうした変化に対応するためには、個別最適ではなく全体最適の視点が欠かせない。政府がCLO機能の強化を推進している背景には、国際競争力への危機感もある。
【主要な機能CxO比較】
| CLO (物流統括管理者*) |
CFO (最高財務責任者) |
CTO (最高技術責任者) |
CIO (最高情報責任者) |
|
|---|---|---|---|---|
| 役割 | バリューチェーン全体最適と止まらない仕組みの設計責任者 | 企業価値最大化のための資本・資金マネジメント責任者 | 技術による競争優位の創出責任者 | 情報・データ・IT基盤の統合責任者 |
| 責任 | 1.調達~製造~物流~販売の統合最適化 2.需給調整(需要予測・在庫・供給能力) 3.物流・SCM戦略(輸送・拠点配置) 4.サプライチェーンリスク管理(分断対応) 5.外部パートナー統合(サプライヤー・物流会社) |
1.資金調達・資本構造最適化(Debt/Equity) 2.キャッシュフロー管理(運転資金・投資) 3.投資判断(設備投資・M&A) 4.財務リスク管理(為替・金利・信用) 5.IR・投資家対応(企業価値の説明責任) |
1.技術戦略 (製品・サービスの技術方向性) 2.研究開発 (R&D) 3.技術差別化 (特許・独自技術) 4. 新技術導入 (AI、IoTなど) 5.技術人材育成 |
1.IT戦略・システム統合 2.データ基盤整備 (DWH・BI) 3.DX推進 4.セキュリティ・ガバナンス 5.業務効率化(ERP等) |
| KPI例 | ・在庫回転率 ・リードタイム ・物流コスト比率 ・欠品率 ・サプライチェーン途絶リスク指数 など |
・ROIC/ROE ・フリーキャッシュフロー ・D/Eレシオ ・EBITDA ・投資回収期間 など |
・R&D投資対効果 ・新製品売上比率 ・特許数・技術優位性指標 ・技術開発リードタイム など |
・ITコスト比率 ・システム稼働率 ・DXによる効率改善率データ活用度 など |
物流統括管理者を置く本当の意味~部門間の利害を調整し全体最適を探る
近年の制度改正では、一定規模以上の事業者に対して物流管理体制の強化が求められているが、もちろんCLO設置の本質は法令対応でも物流部門を強くすることでもない。本質は「全社最適を実現すること」にある。
営業部門は売上拡大を目指すことが至上命題だろうし、製造部門は生産効率を追求する。購買部門は調達コストを下げることに一所懸命になる。それぞれは合理的な判断だ。だがそれらが積み重なることで物流現場に過度な負荷がかかることも少なくない。結果しばしば発生するのが、緊急配送や小口配送、在庫過多のほか、配送品質低下といった問題で、企業全体の生産性を落としてしまっている。
CLOはこうした部門間の利害を調整しながら、分断を乗り越えて企業全体の最適解を探る役割を担う。物流責任者というよりも、全社横断の経営人材に近い存在といえる。
物流担当役員ではなく、「経営変革責任者」
ここで誤解してはいけないのは、CLOは物流担当役員の呼び名を変えたものではないということである。国が期待しているのは、物流改革を起点に企業変革を推進する人材だ。例えば、営業が求める短納期と、物流が求める効率性はしばしば対立する。製造が求める生産効率と、物流が求める平準化も一致しないことがある。その中で企業全体として最適な判断を下すのは、まさに経営者の仕事。CLOとは物流の専門家ではなく、物流を切り口に経営を変革する責任者である。
物流はコストではなく価値を生む
海外では、サプライチェーン責任者やロジスティクス責任者が経営会議に参加し、経営戦略と物流戦略を一体的に進めるケースが珍しくない。一方、物流部門が間接部門として扱われることも多く、経営との距離があった。
現在ではもはや物流そのものが顧客を満足させているといっても間違いではない。「いま欲しい、いまこの悩みを解消したい」を叶える正確な納品、配送スピード、在庫情報の透明性......これらはすべて顧客満足度に直結する。物流品質が競争優位になる時代だからこそ、物流を単なるコスト削減の対象としてではなく、企業価値を高める戦略機能として捉える必要がある。
部門最適から全体最適へ
物流2024年問題をきっかけとして、多くの企業が改めて問われている。
自社は本当に全体最適で動いているのか?
物流は企業活動の結果として発生する。つまり物流に問題が生じているなら、その原因は物流部門以外に存在する可能性も高い。だからこそCLOには、物流知識だけではなく経営視点が求められる。物流改革とは、企業改革そのものなのである。
上級管理職研修~10の成功事例から学ぶ構想力と変革力
様々なビジネス環境の変化を乗り越え、企業が存続するためには、新たな事業戦略や革新的な取り組みが必要です。
まずは変革者としてビジネス環境の変化を乗り越えるための「経営者マインド」を理解し、小林一三氏、小倉昌男氏、江副浩正氏の成功事例から、変革に必要な「構想力」を学びます。また、最強の軍隊といわれる米国海兵隊や、優れたリーダーの金言など7つの事例から、「変化に強い組織」の特徴を捉えます。章ごとに得た学びや気づきを整理し、自組織への落とし込みを図ります。
よくあるお悩み・ニーズ
- 経営環境の変化に対応するための方針や具体的な取り組み方法がわからない
- 業績向上と社会課題解決を両立できるような構想の立て方を知りたい
- 事業変革や組織変革に必要な考え方やスキル、事例を知りたい
本研修の目標
- 危機に対するリーダーシップの在り方や変革の時代に持っているべき7つの経営者マインドを理解する
- 経営者として必要な判断軸や、変革を行うために必要となる組織デザインなどの求められる行動を理解する
- 先人の事例を交え、大きな視点でビジネス創出する構想の立て方を習得する
- ミッションの立て方・浸透の仕方、組織カルチャーの作り方などの組織デザインや変化に対応できる人材育成について理解する
- 研修の最後に自社・自部署の組織変革や自己変革の計画を具体化する
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さらに、問題発見から現状分析、課題選択、真因追究、解決策策定、行動計画の実行、効果確認まで、8つのステップに沿った実践的な問題解決プロセスを解説します。仮説思考を持ちながら、チームを巻き込み、周囲の協力を得て問題解決を推進するリーダーシップの習得も目指します。





