2026年10月07日
地域に根を張ってきた地場スーパーの経営環境が厳しさを増している。9月には山形県の地域スーパーが事業を停止した。地域密着で生き残ってきた地場スーパーも、大手との競合激化や物価高などの逆風を受けて、経営が厳しくなっており、再編の機運が高まっている。
9月1日に山形県山辺町の地域スーパー、サンエーが事業を停止した。1989年に開業し、2005年5月期には約29億9000万円の売上高を計上していたが、競合店の相次ぐ出店や不採算店の閉鎖などで売上高が縮小。2026年5月期には約6億3000万円まで落ち込み、負債は約11億500万円に達していた。
東京商工リサーチ(TSR)によると、2025年1~11月の「地場スーパー」の倒産は22件と、前年同期比46.6%増加。コロナ禍以降では最多だった2023年の25件に迫る水準となった。
倒産企業の86.3%に当たる19件が「販売不振」を原因としており、大手スーパーやコンビニなどとの競争激化が地場スーパーを直撃した格好だ。この流れは現在も変わらない。
地場スーパーが苦境に陥っている理由は三つある。
第1は競争の激化だ。地場スーパーは、かつては商圏内で一定の顧客を確保できたが、現在は大手スーパーだけでなく、食品の品ぞろえを増やしたドラッグストアやコンビニなどとの競争を迫られている。TSRは地場スーパーについて、資金力や商品開発力で優位に立つ大手や、多様化する競合への対応が難しくなっていると分析する。特に商品構成に明確な強みを持たないスーパーほど、価格競争に巻き込まれやすい。
地場スーパーは値下げをすれば客数を維持できても粗利益率が低下し、値上げすれば競合店に顧客を奪われる。帝国データバンク(TDB)の食品スーパー調査でも、「特売」「値下げ」の負担が重く、業績悪化が目立つことが指摘されている。
第2は物価高である。TDBによると、2026年上半期の「物価高倒産」は556件と、前年同期比23.8%増加し、上半期として過去最多を更新した。物価上昇分を販売価格に転嫁できなければ利益が削られ、資金余力の乏しい中小企業ほど経営継続が難しくなる構図だ。
スーパーも同様で、主力商品の食品原材料だけでなく、電気・ガス、物流、包装資材など店舗運営に必要なコストが幅広く上昇している。スーパーは前述のように価格競争が激しいため、コスト上昇分をそのまま転嫁しにくい。結果として、売上高が増えても利益が改善しない「増収減益」に陥りやすい。
第3は人手不足だ。スーパーは店舗、物流、惣菜、鮮魚などで多くの現場労働力を必要とする。人材確保のための賃上げは必要だが、売上高が伸びない企業にとって人件費の増加はそのまま収益圧迫要因となる。TSRによると、2026年7月の全業種での人手不足倒産は63件と前年同月比40.0%増で、月間として過去最多となった。当然ながら、スーパーも例外ではない。
こうした三つの要因が重なると、地場スーパーは「安く売るための体力」と「高コストを吸収する体力」の双方を失っていく。
こうした逆風下で、地場スーパーが生き残る手段としてM&Aが注目されている。典型例の一つが、北海道を地盤とするアークス<9948>による地域スーパーの取り込みだ。
同社は北海道内で地場スーパーを相次いで傘下に収め、2011年には青森・岩手・秋田の3県に展開するユニバース(青森県八戸市)を買収した。このほかにも東光ストア(札幌市、旧札幌東急ストア)やオータニ(宇都宮市)など、地域ごとの有力スーパーをグループに加えながら、商圏を広げてきた。
広島県を本拠地とするとするイズミ<8273>も2015年、同県を地盤とするユアーズ(広島市)を子会社化した。ユアーズは広島県、岡山県、山口県、福岡県などで64店舗を展開していたが、業績が低迷。イズミは規模の大きい自社店舗との補完関係を生かし、原価低減や商品調達力の強化を狙った。
バローホールディングス<9956>も公正屋(山梨県上野原市)、フタバヤ(滋賀県米原市)、三幸(富山県高岡市)など地域スーパーを相次いで子会社化。2018年にはアークスや、山口県と九州地方で丸久、マルミヤストアを展開するリテールパートナーズ(山口県防府市)と資本業務提携し、地域を越えた物流・商品・店舗運営のノウハウ共有も進めている。
このように地域スーパーを対象とするM&Aは、「地域で強い会社を、より規模の大きいスーパーが傘下に収め、仕入れや物流などのスケールメリットにより成長する」ことが基本だった。
ところが、最近では地場スーパーを対象にしたM&Aに変化が表れている。最大の変化は、同業に加えて、ドラッグストアが有力な買い手になったことだ。
その強力なプレーヤーがクスリのアオキホールディングス<3549>である。同社は2020年に食品スーパーのナルックス(石川県白山市)とフクヤ(京都府宮津市)を子会社化。2022年に一二三屋(福島県いわき市)やホーマス・キリンヤ(岩手県一関市)、フードパワーセンター・バリュー(同)、三崎ストアー(金沢市)を、2023年にサンエー(山形県山辺町)の食品スーパー事業やにしがき(京都府京丹後市)のスーパー事業を取得した。
2024年にはスーパーよどばし(静岡県富士宮市)、ヒバリヤ(静岡市)、ママイ(愛媛県四国中央市)、ムーミー(高松市)、ハッピーテラダ(大津市)を子会社化。2025年に岩手・宮城・秋田・山形でスーパーを展開する4社の地場スーパーから46店舗のスーパー事業を取得したほか、スーパーヨシムラ(奈良市)、ハッスル(同)、スーパー「PiCASO」を展開するミワ商店(香川県三豊市)を取得して、地元の北陸から東北、関東、近畿、四国とM&Aによる全国進出を進めている。
2026年に入ってからも、1月に新潟県で食品スーパー「ピアレマート」や「良食生活館」などを展開するティックス(新潟県長岡市)と、その傘下企業を子会社化すると発表した。20店舗規模の食品スーパーを一括して取り込み、食品に加えて医薬品、化粧品、日用品、調剤を組み合わせた店舗づくりにつなげる狙いだ。
さらにクスリのアオキHDは、2026年5月期に買収店舗の転換を含めて111店舗を出店。地場食品スーパーのM&Aを成長エンジンとして位置づけ、食品スーパーのM&Aは合計21社に拡大した。
もう一つの変化は、買収そのものより「買収後に何をするか」が重視されるようになったことだ。ヤオコーによるせんどう(千葉県市原市)の子会社化は、それをよく示している。ヤオコーは2021年に43.18%を出資して持分法適用会社とし、2024年に66%へ引き上げて連結子会社化した。単純な店舗数の拡大による売上高の積み増しではなく、事業効率化や管理コスト削減、グループ全体の組織力強化を狙ったという。
イオンは、マックスバリュ関東(東京都江東区)やダイエー(大阪府茨木市)、光洋(大阪市)などの地域スーパー子会社を地域単位で再編し、2026年3月から首都圏と近畿で新たなスーパー運営体制をスタートさせた。首都圏では、マックスバリュ関東やダイエーの関東事業、イオンマーケットを統合してイオンフードスタイル(東京都江東区)に再編。
一方、近畿では同社傘下のダイエーとその子会社である光洋を合併し、新たな「ダイエー」としてイオンの近畿中核企業に位置づける。これらは新たな買収ではないが、傘下入りした企業を単純に並列で保有する段階から、地域単位で経営資源をまとめる段階へ移ったことを示す。
こうした背景には、地場スーパーを取り巻く経営環境と、買い手側の成長戦略の変化がある。従来、スーパーM&Aの主目的は「買い手による規模拡大」だった。しかし、人口減少によって新規出店だけで店舗網を拡大することが難しくなる一方、店舗運営に必要な人員、物流網、システム、商品開発などの固定的なコストは上昇している。
そこで買い手にとっては、新たに店舗開発して出店するより、すでに顧客と商圏を持つ地域スーパーを取得し、自社の仕組みを上乗せする方が成長速度を高めやすい。
クスリのアオキの戦略はその典型だ。食品スーパーを買収すれば、店舗網だけでなく、生鮮食品の仕入れ・加工・販売、人材、地域顧客を取得できる。そこにドラッグストアの商品や調剤機能を組み合わせれば、単なるスーパー買収以上の収益機会が生まれる。
一方、売り手となる地場スーパーにも「救済」以外でM&Aを選択する理由が強まった。自社だけでは人件費、物流費、システム投資、店舗改装費を負担しきれなくても、大手グループに入れば共同仕入れや物流網、IT、人材などを利用できるからだ。地場スーパーにとってのM&Aは、「倒産を避ける最後の手段」から、「倒産する前に経営資源を大手の仕組みに接続する手段」へと性格が変わりつつある。
今後、地場スーパーのM&Aはさらに二極化するとみられる。競合店の進出や人口減少によって売上高が縮小し、資金繰りに行き詰まった企業が退出する一方、一定の店舗数、顧客基盤、地域ブランドを維持している段階で大手・中堅企業の傘下に入る企業が増えるだろう。
買い手側も、単純に「スーパーの店舗数を増やす」だけではなくなる。食品スーパーなら生鮮・惣菜の強化、ドラッグストアなら食品と医薬品、日用品の融合、さらに物流やデータ、店舗システムの共通化まで含めて買収効果を考えるようになる。
したがって、今後の地場スーパーを対象にしたM&Aでは、「どのスーパーを買うか」以上に「買収した地域スーパーに、自社の何を組み合わせるか」が重要になる。
地場スーパーにとっても、M&Aのタイミングが変わる可能性が高い。業績が大幅に悪化してから買い手を探すのではなく、地域で一定の顧客基盤を維持しているうちに大手グループと資本関係を築き、物流・商品調達・人材・IT投資を共同化する方が、譲渡する際の企業価値を維持しやすい。
地場スーパーの淘汰は、店舗が消えるだけの問題ではない。地域に残った顧客、店舗、人材、商品調達網を誰が引き継ぐのか。その視点が、地場スーパーを対象にしたM&Aの大きなトレンドになりそうだ。
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