2025年12月12日

東京23区で過去最高値の戸建て住宅、タワマンとどちらがお買い得?−M&Aの視点で考える

不動産調査会社の東京カンテイがまとめた東京23区における2025年9月の新築小規模戸建て住宅の平均希望売り出し価格は8426万円と、2014年4月の調査開始以来の最高値を更新した。都心部のタワーマンションが土地価格を引き上げてきたが、ここに来て戸建て住宅が追いついてきた格好だ。そこで、マンションと戸建て住宅、そのどちらが「お買い得」なのか? M&Aの視点から考えてみた。

住宅の「のれん」とは?

不動産価格を「純資産」と「のれん」に分解してみると、都市の住宅市場の構造が浮かび上がる。企業会計で「のれん(Goodwill)」とは、買収価格が純資産価値を上回る部分を指す。企業のブランド力や将来収益力を示す指標だ。

この視点を住宅に当てはめると、「販売価格-土地価格=のれん的価値」として、建物やブランド、立地、共用施設などの無形的価値を測ることができる。ただし、会計上の厳密な「のれん」とは異なり、あくまでアナロジー(類比)であることに留意したい。

では、不動産の「純資産」をどう算定するのか? 純資産は、企業の解散価値の近似値とされる。解散価値とは、企業の解散後に残る金額を指す。これを不動産に当てはめると、建物を取り壊した後に残る土地価格が不動産の「純資産」と考えられる。

土地価格を「純資産」、販売価格から土地価格を差し引いた残りを「のれん」と見なせば、タワーマンションと戸建てには驚くほど大きな差がある。

都心タワマンの「のれん率」は400%超

今回の試算では、港区内の代表的なタワーマンションである虎ノ門ヒルズ、白金ザ・スカイ、パークコート赤坂檜町ザ タワー、GLOBAL FRONT TOWER(芝浦)の4物件を対象に平均モデルを作成した。六本木ヒルズのような敷地全体が複合街区になっている特殊例は除外している。

4物件を平均すると1戸の専有面積は84㎡だが、敷地面積は約8200㎡、総戸数は約750戸。これをもとに算出すると、1戸あたりの平均土地持分は8.7㎡(平均的な共用部・設備スペースを除く)となる。港区の2025年住宅地公示地価は1㎡あたり約400万円であるため、1戸あたりの土地価格、つまり純資産は約3480万円にとどまる。

一方で、4物件の販売価格は平均で1億8000万円。土地価格との差額1億4520万円が、いわば「のれん」的な価値である。販売価格に占めるのれんの割合(のれん率)は417%。支払額の8割以上が、土地という実物資産ではなく「無形の評価」となるのれんで構成されている計算だ。

地面に支えられた価格の戸建て

では、戸建て住宅はどうか? 世田谷区と杉並区の戸建て住宅を同様に試算した。土地面積を100㎡と仮定し、土地単価は世田谷区が83.5万円/㎡、杉並区が80万円/㎡。販売価格はそれぞれ9500万円、8800万円とした。いずれも実勢価格に準拠した。

その結果、のれん率は世田谷区で+13.8%、杉並区で+10.0%。つまり、販売価格の約9割が土地価値そのものであり、残り1割程度が建物や利便性などのプレミアムに相当する。同じ住宅でも、港区のタワーマンションと郊外の戸建てでは、のれん率に30倍以上の開きがある。

居住用不動産の「のれん」比較

のれんに支えられる都心ブランド

では、タワーマンションの高い「のれん」はどこから生まれるのか。そこには企業会計でいうブランドや顧客資産に相当する要素が詰まっている。

具体的には高層階の眺望やホテルのような共用施設、デベロッパーのブランド、ジムやカフェ、ラウンジのような付帯設備、玄関でのコンシェルジェサービスなどだ。これらが複合的に作用し、購入者は「土地」ではなく「体験価値そのもの」に対して高額を支払っている。

ただし、ブランド価値は永続しない。企業会計では、のれんは毎期「減損テスト」にかけられ、収益力が落ちれば評価額を減らす。住宅市場も同じ構造を持つ。

タワーマンションの価格は、築10年で新築時の85%、築30年で65%にまで下がるとの見方もある。老朽化とともに共用施設の維持費は上昇し、眺望や希少性のプレミアムは薄れていく。言い換えれば、タワーマンションの「のれん」は、時間とともに減損していく資産なのだ。

「のれん」を買うか、「地面」を買うか

戸建て住宅の構造は、これと対照的だ。販売価格の大半が土地価値で構成されるため、建物が老朽化しても、土地が「純資産」として残る。地価が下がらない限り、評価損は限定的だ。

のれん率が10〜15%と低いのは、ブランドや共用施設といった「無形の価値」に依存していない証拠でもある。

住宅を会計的に分析すれば、タワーマンションは「高のれん・低純資産型」、戸建ては「低のれん・高純資産型」となる。

タワーマンションは、ブランド企業の株を買うようなものだ。成長性や希少性が魅力だが、収益力が落ちれば価値は急落する。一方、戸建て住宅は、土地付き国債に似ている。短期的な上昇は乏しくとも、土地という確実な担保が残るからだ。

「のれん」を買うのか、「土地」を買うのか。同じ住宅でも、資産の性質はまるで違う。人口減少が続き、住宅の選別が進むなかで「のれんの減損リスク」を意識した住宅選択が、資産防衛の新たな視点になりそうだ。

配信元:文:M&A Online


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