2026年10月07日
ノジマ<7419>のM&A戦略が大きく変わり始めている。販売や通信、ネットメディアを中心に事業領域を広げてきた。2024年以降は、パソコン(PC)や家電といったプロダクト(製造)事業の取得を進めている。ノジマはなぜ、家電量販店からメーカー機能を持つ企業グループへと軸足を移そうとしているのか。そして、その効果は?
ノジマのM&Aをたどると、その戦略には明確な段階がある。2006年にCDチェーンのWAVEを買収した後、2014年には携帯電話販売のアイ・ティー・エックス、2017年にはインターネットサービスのニフティ、2022年には携帯電話販売大手のコネクシオをTOB(株式公開買い付け)で傘下に収めるなど、販売・通信・ネットを中心に事業領域を広げてきた。
ところが、2025年1月にソニーから独立したPCメーカーのVAIOを子会社化する。2026年4月には、日立製作所系の日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が家電事業を移管して設立する新会社株の80.1%を約1101億円で取得する契約を締結。「川上」に向かうM&A戦略が明確になった。
VAIOはPCの企画・設計・開発・製造・販売、アフターサービスまでを一気通貫で手がけるメーカーだ。近年は法人向け事業に注力しており、ノジマの2025年3月期決算説明資料では、VAIOのBtoB(企業向け販売)比率は約9割と説明されている。
ノジマにとってVAIO買収の意味は、単純なPC販売量の拡大ではない。これまでメーカーから商品を仕入れて消費者に販売する「川下」の立場だったノジマが、メーカーそのものを傘下に収めることで、商品企画から製造、販売、アフターサービスまでのバリューチェーンを持つことになる。
しかもノジマはVAIOの経営方針を尊重しつつ、自社店舗や法人部門でVAIO製品を販売する方針を示した。2026年4月には全店舗への「VAIOマイスター制度」導入を開始し、販売現場との連携を強めている。つまり、VAIOは単にメーカーを買うだけではなく、メーカー機能とノジマの販売網を組み合わせるM&Aだった。
VAIOがPCという「情報機器」のメーカー機能だったのに対し、日立家電では冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど生活に密着した幅広い「白物家電」の製品開発・製造機能を取り込む。
ここにノジマの川上戦略の全体像が見えてくる。家電販売から通信サービス、コンテンツ、PCメーカー、白物家電メーカーへとグループを拡大。これにより顧客接点だけでなく、その顧客接点に供給する「商品そのもの」をグループ内に取り込み始めたのである。
VAIOは2025年1月から連結対象となった。2025年3月期は3カ月しか寄与していないため、2025年3月期と2026年3月期を比較すると、その影響をある程度読み取ることができる。
2026年3月期の連結売上高は9828億円、営業利益は580億円。ともに過去最高を更新した。VAIOを中心とする製造機能を持つ「プロダクト事業」は、売上高669億円、経常利益49億円に拡大した。前年同期は売上高177億円、経常利益8.5億円だった。
単純比較では、プロダクト事業の売上高は約3.8倍、経常利益は約5.8倍になった。2026年3月期の同事業は、連結売上高の6.8%を占める。同事業利益(経常利益)の49億円は、連結経常利益623億円の約7.9%に相当する。
2025年3月期はVAIOが3カ月しか連結されていないが、同社を取り込んだプロダクト事業が、わずか1年でノジマの売上高と利益の双方に無視できない規模になった。
株式市場も好感している。VAIO買収発表日の終値は2330円と前日比103円、率にして約4.6%上昇した。翌12日も33円高の2363円となり、年初来高値を更新。高値は2409円まで上昇した。買収価格の妥当性やノジマの販売網を活用したVAIOの販売拡大などが市場で材料視されたと報じられている。
日立家電の買収では、さらに反応が大きかった。2026年4月21日、日立家電買収の報道を受け、ノジマ株は前日終値1121円から1280円まで上昇し、14.2%高で取引を終えた。高値は1296円だった。翌22日は1197円まで反落したものの、21日の終値からは6.5%安にとどまった。
背景にあるのは、家電小売業を取り巻く競争環境の変化だ。最大の変化はネット通販などEC(電子商取引)の拡大である。
経済産業省によると、2024年の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」のBtoC(一般顧客向け販売)EC市場規模は2兆7443億円、EC化率は43.03%に達した。家電とPCは、物販分野のなかでも特にEC化率の高いカテゴリーとなっている。
これは家電量販店にとって、店舗を構えて商品を並べるだけでは差別化が難しいことを意味する。価格比較も容易になり、ネット通販と店舗をまたいで最安値を比較できる環境では、単純な商品の仕入れ・販売だけでは利益率を高めにくい。業界内での差別化が重要だ。
ノジマは従来からメーカー販売員を置かず、自社のコンサルティングセールスを強みとしてきた。そこにVAIOや日立家電の製造・商品企画機能を加えれば、「売り方」だけでなく「売る商品」の側でも独自性を出せる可能性がある。
加えて、メーカー側にも事情がある。日立製作所は家電事業についてノジマとの戦略的パートナーシップに移行し、日立GLSは新会社の19.9%を保有する。日立は事業から完全撤退するのではなく、ノジマの販売力を取り込む形で家電事業の成長を目指す構造だ。
つまりノジマにとっては「メーカー機能の取得」、日立にとっては「販売力を持つパートナーへの経営資源の移管」という、双方の思惑が一致したM&Aといえる。
ノジマ、ヤマダホールディングス、ビックカメラを比較すると、ノジマの収益性には特徴がある。
ノジマは売上高ではヤマダHDに及ばないものの、営業利益率は5.9%と、ヤマダHDの1.0%、ビックカメラの3.1%を上回る。なぜノジマの営業利益率は高いのか。
ノジマは家電専門店だけでなく、キャリアショップ、インターネット、海外、金融、メディア、プロダクトなどに事業を分散している。
2026年3月期にはキャリアショップの売上高3970億円、経常利益269億円、デジタル家電専門店の売上高3399億円、経常利益205億円を稼いだ。さらにVAIOを加えたプロダクト事業が売上669億円、経常利益49億円を生み出した。
この利益構造は、「家電を大量に売って薄利を積み上げる」モデルとは異なる。高い販売効率を持つ小売事業を核に、通信、ネット、メディア、製造など利益率の異なる事業を組み合わせる。これがノジマの営業利益、そしてROEとROAを押し上げてきた一因と考えられる。
では、日立家電という大型案件を終えたノジマは、今後どのようなM&Aを進めるのか。最も注目されるのは、VAIO、日立家電に続く「川上」のM&Aだ。
ノジマが自社ブランドや製品企画の力を高めるのであれば、PCや白物家電に続いて、オーディオ、映像機器、生活家電、IT周辺機器などの中堅メーカーを取り込む余地がある。
今後はVAIOのような100億円から数百億円規模の中堅メーカーを複数取り込む戦略と、日立家電のような1000億円級の大型案件を選別する戦略が併存する可能性がある。
家電販売は商品を売った時点で終わるわけではない。ローンや決済、保証、修理、保守、買い替え、リユースなど、顧客との接点を販売後にも広げられる。ノジマが今後も「顧客生涯価値」を高める方向でM&Aを進めるなら、この領域は候補になりやすい。2026年5月にはヤマトホールディングス傘下のヤマトクレジットファイナンスを子会社化すると発表した。
ノジマは2026年3月期末に現金及び現金同等物963億円、営業キャッシュ・フロー576億円を確保している。自己資本比率も40.8%まで上昇した。ただし、日立家電の取得価額だけで1100億円。VAIOの112億円と比べると桁が一つ違う。
そのため、今後も1000億円級のM&Aを続ける場合には、借入金や資産売却、キャッシュフローなどを組み合わせた資金調達が前提となるだろう。一方で、100億~300億円程度の案件であれば、これまでのM&A実績や現在の財務体力からみても、比較的機動的に検討できる余地がある。
家電量販業界の競争は、ますます激しくなっている。売上高で業界トップのヤマダデンキを中核とするヤマダホールディングス(HD)ですら、「くらしまるごと」戦略を旗印に家電量販店の枠にとどまらず、家具・インテリア、キッチン・バス、戸建住宅、リフォームなど住関連に事業領域を広げてきた。主力の家電販売事業でも2027年10月には同業5位のエディオンとの経営統合を控えている。
オンライン化が進む家電市場では、単純な販売網だけで差別化することが難しくなっている。ノジマとしては、業界上位企業と正面からぶつかるのでは勝機はない。メーカー機能と販売機能を組み合わせることで、商品企画から販売、アフターサービスまでを一体化できれば、価格以外の競争軸をつくれる可能性がある。
2026年3月期のプロダクト事業は、まだ売上高の6.8%にすぎない。しかし、日立家電の買収が完了すれば、ノジマは「家電を売る会社」から、自ら商品を企画・開発・製造し、それを自らの販売網で消費者に届ける会社へと、一段と姿を変えることになる。
ノジマのM&Aの次の焦点は、単純な売上規模の拡大ではない。川下で築いた販売力を、川上の製造力と結び付けることで、どれだけ高い収益力を持つ企業グループへ転換できるかが、今後のノジマを読み解く最大のポイントになる。
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