STEAM教育の社会人育成への生かし方~人事が取り組む学びの横断設計

近年、学校教育で注目されているSTEAM教育が、企業の人材開発の世界でも話題になっています。
創造性や論理的思考を重視したこの教育アプローチは、変化が激しく予測の難しいビジネス環境において、社会人に求められる能力とも強く重なります。しかし、具体的に何を学ばせればよいのか、従来の研修とどのように違うのかは、まだ整理しきれていない企業も多いのが現状です。
本記事では、STEAM教育の本質を社会人教育に落とし込み、実務と結びついた形で活用するためのポイントを解説します。記事を読み終える頃には、自社の育成体系にどのように組み込めるかが明確になり、一歩先の教育戦略を描けるようになります。
STEAMの本質を理解することが企業の育成に直結する理由
STEAMが重視するのは知識ではなく創造的な問題解決プロセス
STEAMとは、科学、技術、工学、芸術、数学の頭文字を取った教育概念です。
文部科学省ではSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進しています。
出展:文部科学省「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」(最終アクセス:2025/11/26)
分野の多様性に目が向きがちですが、本質は領域の知識そのものではなく、知識を組み合わせながら課題を発見し、仮説を立て、試行錯誤し、改善につなげる一連の学びのプロセスにあります。これはビジネスにおけるプロジェクトマネジメントや業務改善のプロセスと重なり、企画立案から施策推進までの一連の流れに応用できます。
不確実性の時代だからこそ求められる思考の枠組み
市場や技術の変化が早く、正解が一つではない環境では、専門知識だけでは対応が難しくなっています。必要なのは複数の視点から物事を見る力、データや根拠を踏まえた判断力、発想を組み替える柔軟性といった、状況を前に進めるための思考の枠組みです。STEAM教育はそれらを体験的に身につけることを目的としており、いわば社会人が備えるべき基盤能力に直結しています。
社会人教育としてSTEAM的学びを導入する具体的なポイント
答えのないテーマで考え抜く場を設定する
社会人教育に転用する際は、正解のある知識インプット型の研修とは異なる設計が求められます。例えば、自社の業務に関連しながらも解のないテーマを扱い、参加者が課題の構造を整理し、自分たちで仮説を立て、プロトタイプとなる案を作成していくプロセスを重視します。このような体験により、状況を見立てながら前に進める能力が磨かれていきます。
実データや現場課題を扱うことで訓練効果を高める
抽象論だけでは実務に結びつかず、受講効果も限定的になります。そこで自社の顧客データや業務フローを使い、業務改善案の検討を行うなど、現場に近い素材を扱うことが効果的です。実課題を題材とすることで、思考スキルが現場視点に変換され、組織全体の課題解決能力の強化につながります。
多職種・多世代での協働を前提とした学習環境をつくる
STEAM教育は多様性の組み合わせから新しい発想が生まれることを前提としています。そのため、参加者の属性を意図的に混ぜることが重要です。例えば、技術部門と営業部門、中堅層と若手、あるいは管理職と担当者など、異なる視点を持つ人の協働を支援することで、発想の幅が広がり、実務でも活かされる思考の柔軟性が培われます。
STEAM的思考を事業成長へ接続する人事部の実務戦略
経営課題と人材開発テーマをひもづける設計に転換する
企業がSTEAM的学びを導入する目的は、創造性の向上ではなく、最終的には事業成長につながる行動を増やすことにあります。そのため、人事部がまず着手すべきは、研修テーマを経営アジェンダと連動させることです。例えば、新規事業の立ち上げ、コスト構造改革、営業の生産性向上、サプライチェーンの最適化など、組織が現在取り組む重点課題を起点に設計します。これにより、学びが抽象的な思考スキルではなく、事業を前進させる実践的な能力として機能します。
多様な専門性を組み合わせることで競争優位の源泉を生む
STEAM的アプローチの価値は、異なる専門性の掛け合わせにあります。ビジネスに置き換えると、技術、営業、企画、バックオフィスなどの機能が連携し、新しい価値をつくる構造に近いといえます。人事部は、職種横断のプロジェクト型育成や、部門同士が共通課題に取り組む仕組みを設計することで、専門性の融合を促進できます。これにより、事業の付加価値向上につながるアイデアが生まれやすくなり、組織全体の競争力強化に寄与します。
仮説検証型の働き方を標準プロセスとして定着させる
多くの企業において、意思決定や業務改善が個人の経験や属人的な判断に依存している状況が見られます。STEAM的学びを活かすには、仮説構築と検証を標準プロセスとして定着させることが不可欠です。人事部は、各部門が小規模な検証を高速で回すための時間確保、評価基準の見直し、データ共有の仕組みなどを整えることで、組織の意思決定プロセスをアップデートできます。これにより、変化の激しい市場に迅速に対応できる組織へと進化します。
STEAM的学びは組織の競争力を高める実践的な経営戦略である
STEAM教育の思想は、単なる教育手法ではなく、企業が持続的に成長するための基本構造と位置づけることができます。多様な知見の統合による創造性、データに基づく判断力、仮説検証による変化対応力は、いずれも事業成長の根幹を支える要素です。人事部が育成を経営課題と連動させ、現場に定着する仕組みまで整えることで、組織は環境変化に強い学習する集団へと変わります。今後の企業成長を見据えたとき、自社の育成体系にSTEAM的なアプローチを組み込む意義は非常に大きくなっています。
【共催:東京藝術大学 美術学部】アートやデザインの視点をビジネスに取り入れる
昨今、多くの企業やビジネスパーソンが、日々の仕事の中で既成概念や固定観念に囚われ、自由な発想や行動ができなくなり、新しい価値を生み出しづらくなっています。
インソースは藝大美術学部と共催で、アートやデザインの力をビジネスに活かすビジネスパーソン向けのプログラムを開発しています。相手にとって具体的に役に立ったり満足度を高めたりすることや、解のない課題を可視化し道筋を描き導くことも、広義の意味でのデザインであることを実感いただけます。
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前例踏襲や自組織なりのセオリー通りのやり方だけでは解決できない問題に直面することが増えてきたのではないでしょうか。
本研修では、正解のない問題に取り組む際の考え方、問題に取り組むうえでの具体的なアプローチ法、新たな解を選択する際のリスクとその見積り方を解説します。
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デザイン思考研修~イノベーション実現のプロセスを学ぶ
デザイン思考は、デザイナーが実践してきた手法を基に考え出されたイノベーション実現のプロセスのことです。
多様な顧客ニーズに応える新しい商品・サービスを生み出したり、不連続な成長に資するアイデアを出すための思想、プロセスとして注目されています。


