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人権デューデリジェンスの推進担当に任命されたら~必須タスクを4つのプロセスで解説

人権デューデリジェンス(Due Diligence)とは、人権への負の影響とリスクを特定し、リスクを分析・評価して適切な対策を策定・実行するプロセスのことをいいます。

簡単に言えば「自社のビジネスが誰かの人権をうっかり傷つけていないか、先回りしてチェックし、問題があれば改善し続ける仕組み」のことです。ビジネスにおける人権尊重の徹底が「当然すべきもの」と見なされている中で、企業には適切な人権デューデリジェンスの取り組みが要請されています。一方で、担当者の中には、このような思いを抱かれている方も多いのではないでしょうか。

  • 人権デューデリジェンスを担当する部署に配属されたが、どこから着手すべきかわからない
  • 現在進めている対応、形式的なものになっているのではないか

企業の担当者としては、実際に何をしていけばよいのでしょうか。本コラムでは、人権デューデリジェンスの概要と、推進に向けて押さえておきたいポイントを解説します。

人権デューデリジェンスの重要性~「人権」は現代の経営課題である

人権デューデリジェンスは、単なるコンプライアンス遵守の一要素に留まらず、企業全体のリスクマネジメント企業価値向上を両立させる仕組みです。推進しないことによるデメリットは、サプライチェーンの信頼喪失やブランド毀損、投資撤退など経営基盤への打撃にあります。人権リスクを放置した結果、取引先の撤退や消費者の買い控えなど、社会から多大な制裁を受けた企業の例は、少なくありません。

さらに注意すべきは、海外での法規制の動きです。 近年、欧州を中心に人権デューデリジェンスの義務化が進んでおり、違反企業には売上高に応じた巨額の罰金が科されるケースも出てきています。日本国内では2025年12月現在は依然として「努力義務」の段階ですが、グローバルに展開する企業にとって、法的リスクはもはや無視できない経営課題となっています。

一方で、人権デューデリジェンスを適切に進めることで、企業の透明性・信頼性を高め、取引・投資・採用の好循環を生むことができます。名実ともに「人権を尊重している」企業になることは、経営の視点からも目指すべき姿であるといえます。実務レベルで適切な取組みを進めるための指針として、2011年に国連で制定された「ビジネスと人権に関する指導原則」を紹介します。この原則に基づく4つのプロセスに沿ってタスクを整理していきます。

参考:国際連合広報センター『ビジネスと人権に関する指導原則』https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/(最終アクセス:2025/12/25)

プロセス①「方針の策定」~経営層のコミットメントを明文化する

最初のステップは、経営層の意思を「方針」として明確化・公表することです。いわば「わが社は人権侵害を絶対に許さない」という決意表明を、会社の公式ルールとして宣言する作業です。

推進担当のタスク例

  • 経営トップに人権デューデリジェンスの意義とリスクを説明し、承認を得る
  • 「人権方針」文書を作成し、経営理念・サステナビリティ方針との整合を取る
  • 社内イントラやウェブサイトで公開し、従業員・取引先・投資家に共有する

ポイント

経営層が署名した文書」として発信することが信頼性を高めます。経営トップの明確なメッセージがあれば、社内推進も格段に進めやすくなります。

プロセス②「リスクの特定・評価」~サプライチェーン全体の実態を可視化する

次のステップは、自社および、サプライチェーン全体での人権リスクを把握・分析することです。「取引先の工場で無理な働かせ方がないか?」「差別的な扱いはないか?」など、見えていないリスクを洗い出します。

推進担当のタスク例

  • 自社・取引先・委託先などの人権リスクを棚卸する
  • 部門横断でのヒアリング(調達・法務・人事・海外拠点など)を実施
  • 優先順位をつけ、重大リスク(強制労働・過重労働・差別など)を特定
  • 必要に応じて外部専門家・NGO・監査機関と連携

ポイント

安易にアンケートを実施するだけでは完璧とは言えません。現場の声と外部視点を組み合わせてリスクを把握することで、形式的でない実践的な評価が可能になります。

プロセス③「対応・是正」~問題発生時は排除でなく対話による改善を

例えば取引先にリスクが見つかった場合、早々に契約解除などを検討するケースも見られますが、それはあくまで最終手段と考えましょう。人権デューデリジェンスの本質は「排除」ではなく「共創的な改善」にあります。もし問題が見つかっても、すぐに取引を止めて突き放すのではなく、相手と話し合って一緒に解決の道を探る「パートナー」としての姿勢が求められます。ステークホルダーと対話し、共に課題を解決する仕組みをつくることが先決です。

推進担当のタスク例

  • 改善計画書・アクションプランを策定し、取引先と共有
  • 現地での労働環境改善支援、教育・研修の実施
  • 自社内部でも是正措置(勤務時間管理・ハラスメント防止など)を展開
  • 苦情処理・相談窓口(グリーバンスメカニズム)を整備し、「リスク対応=制裁」と捉えるのではなく、被害者の「救済」を重視する体制を整える

ポイント

「パートナーシップ型の改善」を掲げることがポイントとなります。この姿勢がサプライチェーン全体に信頼をもたらし、企業のブランド価値を高めます。

プロセス④「モニタリングと情報開示」~成果を可視化し信頼につなげる

最後のステップは、定期的なモニタリングと外部への情報開示です。活動の結果を正直に公表することで、取り組みの透明性と社外からの信頼を獲得し、改善サイクルを継続できます。

推進担当のタスク例

  • 年次レビューを実施し、改善状況を報告書にまとめる
  • KPIを設定(例:教育実施率、是正完了率、苦情対応件数など)
  • サステナビリティ報告書・統合報告書で情報開示
  • 第三者認証や外部評価を受ける

ポイント

「報告書づくり」ではなく「ステークホルダーとの信頼づくり」を意識。情報開示によって対話が生まれ、企業への期待と理解が深まります。

社内の理解と共創が成功の鍵

人権デューデリジェンスの推進担当にとって最大の難関は、「社内の温度差」です。「CSR部門の仕事でしょ」と他人ごとのように捉えられ、現場に浸透しないケースも見受けられます。だからこそ、まずは社内での認知を広げ、人権デューデリジェンス=有用な経営課題であることを理解してもらうことが重要です。

そのうえで、方針策定→リスク特定→是正→情報開示という4つのプロセスを着実に進めれば、社内外の信頼が積み重なり、結果的に企業価値を高めるサイクルが生まれます。

(半日研修)リスクマネジメント研修~人権デューデリジェンス導入に向けた基本知識を学ぶ

人権尊重に対する社会的な関心の高まりを受け、「人権デューデリジェンス」に対する企業の関心がますます高まっています。

本研修では、ビジネスと人権における基本知識を学んでいただくとともに、人権デューデリジェンスを具体的に導入する手順についてもお伝えします。

よくあるお悩み・ニーズ

  • 最近よく耳にする「人権デューデリジェンス」について知りたい
  • 海外事業を行うにあたって気をつけるべき人権問題について学びたい
  • SDGsの達成に向け、人権に関する取り組みをどう進めるべきか悩んでいる

本研修のゴール

  1. 企業にとって「人権の尊重」が重要な課題であることを認識する
  2. 人権デューデリジェンスについて理解する
  3. 人権デューデリジェンスの導入に向けた具体的な取り組み方が分かる

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短時間で学ぶ「ビジネスと人権」

なぜ企業が人権を考慮する必要があるのかという背景から、実際に自社が人権を尊重するための一連の取組み方法までを、コンパクトにわかりやすく解説した講座です。

約13分の動画ですので、組織全体に人権尊重の意義と取組みの重要性を周知する目的にもフィットします。

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セットでおすすめの研修・サービス

働くみんなのための「ビジネスと人権」講座

企業が人権を尊重する必要がある背景から、働く方にとって身近な人権リスクである「ハラスメント」「差別」などに対して留意していただきたいことを説明します。動画の後半では、今日から意識していただきたい「誠実」「尊重」「公平・公正」「配慮」について解説をしており、日々の仕事の中で人権を尊重する姿勢を身につけられる構成としています。

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人権リスク講座~企業が配慮すべき26項目

適切な人権デューデリジェンスの実践に向けては、人権を毀損し得るリスクを包括的に理解することが大切です。本講座では、企業が人権尊重に取り組むべき背景について説明し、その後、各リスク類型について、具体的にどのような言動が人権侵害に該当するか、またどのようなことを意識すればよいか、実践的な視点から解説します。

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【弁護士解説シリーズ】「ビジネスと人権」の基礎と企業に求められる対応~人権の取組みは、誰のために、何のために推進するのか

本講座では、「ビジネスと人権」の基礎から、日本・海外における動向、そして、具体的な取組み内容、そのあるべき方向性について、弁護士が講師となり説明します。「ビジネスと人権」に関する多数の論文や論稿を著している講師の目線から、実践的・実務的な内容を広く・深く解説します。【講師:梅津英明(第二東京弁護士会所属)】

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不正リスクアセスメント付き ワークショップ

不正リスクアセスメントにワークショップを組み合わせ、自組織のリスクの洗い出しから対策までを一気通貫で取り行うことを目的としています。米国犯罪学者の研究では、人が不正に至る仕組みを「機会」「動機」「正当化」の3要素に分類しており、当社はこの3要素に着目した独自のアセスメントを開発しました。

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