銀子の一筆

星に願いを

■星に願いを

晴れた夜には、東京でも星が見える。遠い海原から柔らかな波が打ち寄せる砂浜、深い森から涼気が伝わる山地で見上げる満天の星にはかなわないが、果てない宇宙の闇から届く光に変わりはない。どんな表現も口にすれば陳腐に聞こえてしまう荘厳な神秘が胸を打つ。

子供の頃、いつも夏は山か海で過ごした。昼の遊びはそれぞれに楽しかったが、夜はどこの星空も一様に素敵だった。

1960年頃から約30年間、信州に「学生村」という活動があった。ベビーブーム期に生まれた子供たちが受験準備を始める時期、静かで涼しい環境で勉強してもらおうと、村おこしの一環として始まったらしい。

現在の民宿や民泊とは違って、農家の空いている部屋を利用した三食・おやつ、個室に机とスタンド付きの短期の下宿のような感じだった。

私と友人が夏休み中滞在した家は北アルプスの麓の古い大きな農家で、古武士のような風貌の謹厳実直な主と、まだ五十歳にもならないのに既に腰が深く曲がった働き者の妻、私たちと同年輩の3人姉弟の家族だった。

姉弟は厳しく躾られていて、みんな礼儀正しくよく家の手伝いをする優しい子供たちだった。他に東京から来て滞在している男子4人、時々OBの大学院生や学者がやってきて、みんなで食卓を囲んだ。

◆星降る夜

すぐにみんな仲良くなって、ある日子供たちだけで隣町の花火を見に行くことになった。花火を楽しんだ帰途、急に冷気が満ちて私は肌寒くなった。すると長女がもっていた外出用のカーディガンを私にすすめた。

ありがたかったが、私は趣味に合わないカーディガンを着るのがどうしても嫌で頑なに遠慮した。押し問答をして、結局私は寒いまま帰った。彼女は気にしていないようだったが、私は断っておきながら内心彼女(の趣味)を見下したような気がして後ろめたい気持ちでいっぱいだった。

若い稲が育ちつつある暗くて細い畦道を帰る途中、みんなで時々立ち止まって星空を見上げた。星が降るというのはこういうことか、静寂な夜空一面に広がる星屑だった。天の川が溢れて地表にこぼれたような、静謐で清浄な星々に身を洗われるような気がした。比べて下らない見栄から人の優しい気持ちを傷つけた、ちっぽけで愚かな自分の恥ずかしさに涙が出た。(ごめんなさい)今でも記憶に残る星の思い出だ。

◆古来の友

古来、人間は星の巡りに従って暮らし、畏怖と感謝を捧げてきた。移動の時と方角を知り、収穫を逃さず生命を保った。生活や健康・祭祀だけの実用ではなく、星は思索・詩歌・音楽など多くの文化を育む題材にもなってきた。人智が及ばない天の領域に輝くからこそ、人の気持ちに憧れや祈り、闇に見出す光のよろこびや届かぬ哀しみを湧かせてきたのだろう。

私もまた子供の頃から、屋根に上って星を取ろうとする与太郎に笑い、ピノッキオの祈りに共感し、ホルストの「惑星」に昂った。時代が進んで惑星探査や星の成分分析がニュースに上り宇宙は身近になったはずだが、まだまだ不明が多い未知の世界への興味は尽きない。

◆天文学的な努力

宇宙には地球から見える1等星から6等星までだけで約8600個の星があり、そのうち地球の半球から肉眼で見えるのは半分、約4300個という。

寝苦しい東京の夜空で見える星などは、そのまたごくごく一部に過ぎない。宇宙全体では凡そ24垓個(24億の1兆倍)の星があるともいわれている。まさに天文学的数字で見当もつかない。

何十年間も新しい彗星を探し続けてやっと発見し、天文学会で星に自分の名がつけられた人が言っていた。「どうしても叶わなければ嫌だと思うなら星探しなど止めた方がいい、見つからないかも知れないから。見つからなくてもいいから探したいと思うなら続ければいい。見つかるかもしれないから」

学問とは、努力とはそういうことなのかも知れない。卑近な評価や承認を得るためではなく、数えきれない本質的な解決を探し求め続けることなのかも知れない。

物言わぬ星を見て報われにくい過酷な道を選ぶ人もいることに私は感銘を受け、その後も彼の言葉を忘れない。

◆億光年の光

幼い時は流れ星も一つの星だと思っていた。流れ星が消えるまでの間に願い事をすると叶うといわれたが、願い事を言い終わる前に消えることが多かった。流れ星を見ることは珍しくなかったのに、夜空の星が減らないのが不思議だった。

本当は、流星は宇宙塵がまとまり大気に突入し燃えて発光する現象で、地球の軌道が彗星の軌道と交差するときに現れる。交差する日時は周期がほぼ決まっているため、特定の時期に観られる(最近では、7月17日から8月24日にペルセウス流星群。8月13日未明ピーク)ということを知ったのは、ずっと後のことだった。

それでも星は億光年を隔てた今も昔と同じ姿で悲しくなるほど幻想的な美しさで胸に迫る。

◆星に願いを

特定の宗教や占術とは無縁だったが、祖母は「五黄の寅」の星回りの年は、 昔から世の中に強い変化があるといわれる、と言っていた。

実に2022年は五黄の寅年。国際紛争や異常気象、新たな感染症、経済の 乱調などが止めどない。吉事よりも凶事は記憶に残りやすいが、地表のできごとに 流されるほど人間は無能ではない。

多くの地球人は急がず休まず、たゆまぬ努力を重ねている。どうか必ずそうした努力が 実を結び、より良い賢明な強い変化をもたらしますよう。地球に心穏やかな日々が 巡り来ますよう。

星に願いを託さずにはいられない。宇宙のどこかの星でも同じ思いで青い星地球を 見上げている誰かがいるかも知れない。

2022年7月27日 (水) 銀子

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