ロンジェビティ=「労働寿命を延ばすこと」〜定年廃止時代に人事部が果たすべき新たな役割
日本の労働人口は年々減少しています。厚生労働省によると、2060年には生産年齢人口が5,000万人を下回る見通しです。
この現実のなかで、企業が持続的に成長を続けるには、一人ひとりの「労働寿命」を延ばすことが欠かせません。ビジネスの文脈における「ロンジェビティ(longevity)」とは、単なる長寿社会への対応ではなく、健康・スキル・意欲を保ちながら長く働ける仕組みを整える取り組みを指します。
本記事では、60歳から65歳への定年延長で明らかになった課題を起点に、定年廃止後の人事課題、そして「人事が主導するロンジェビティ戦略」を具体的に解説します。
定年を60歳から65歳に延長する際に人事部門が苦労していること
処遇と役職の格差問題~全社員のモチベーションを維持する
まず大きかったのが、処遇設計の難しさです。60歳以降の社員・職員を「再雇用」とした場合は給与水準を大幅に引き下げるケースが多く、「仕事量に対して給与が見合わない」と不満を抱く社員もいました。一方で、65歳まで同じ処遇を維持すると、若手との賃金バランスや昇進機会の公平性が問題になります。結果として、定年対象者のモチベーションの維持と若手育成の両立という、極めて繊細なマネジメント課題が浮き彫りになりました。
健康と働き方の個人差への対応~制度構築には時間を要す
シニア世代は体力や集中力の差が大きくなる年代でもあり、「通院が増え、これまでと同じフルタイム勤務が難しい」「暗いとものが見づらくなるので夜間のシフト勤務は避けたい」といった要望が増えました。柔軟な勤務制度を整えなければ離職が進みますが、制度変更にはコストと時間がかかります。結果として、一律の基準で対応せざるを得ず、本人にとっても組織にとっても不十分な仕組みにとどまってしまった例も多く見られます。
キャリア支援の手薄さ~自分の強み・武器をたくさん持てるように仕立てられるか
多くの企業では「定年延長=延長雇用」と捉え、60歳以降のキャリア形成を具体的に設計していませんでした。制度を延長しただけでは、働く意義や学ぶ動機は維持されません。「雇用を延ばすだけでは労働寿命は延びない」という現実を痛感した人事部員は少なくありません。
定年制度廃止となると、課題は更に複雑になる
公平な評価制度をどう設計するか
定年が廃止されると、70歳を超える社員と30代社員が同じチームで働くことになります。このとき最も難しいのが、年齢を超えた公平な評価制度の構築です。年功序列を前提とした評価では若手が不満を持ち、成果主義を徹底しすぎると高齢社員が苦しくなる。
つまり、「誰もが納得できる評価軸」を再定義しなければ、組織の一体感は保てません。
キャリア終盤におけるモチベーション維持
定年という区切りがなくなることで、「いつ引退すべきか」「どのように次の世代にバトンを渡すか」という問いが個人任せになります。人事部はこれに対し、キャリアの終わり方を支援する仕組み(エンディング・キャリアマネジメント)を整える必要があります。たとえば、役割の段階的移行や、知識・経験を伝えるメンター制度の導入など、キャリアの出口支援が重要です。
人事部門が主導すべき「ロンジェビティ施策」の3つの重点領域
1.健康寿命=労働寿命を支える仕組みづくり
ロンジェビティの前提は、健康に働き続けられる環境の整備です。人事は、年齢や職種に応じた健康支援を設計する必要があります。
- 体力差に応じた勤務体系(短時間勤務・在宅勤務など)
- 産業医や健康経営との連携による早期フォロー、健康リテラシー向上教育の実施
- 健康状態を可視化するデータ活用
これらを制度に落とし込むことで、「働ける期間」そのものを延ばすことが可能になります。
2.スキル寿命を延ばす「学び直しの仕組み」
知識やスキルも年齢とともに陳腐化します。そのため、キャリアの後半におけるリスキリング(学び直し)が欠かせません。人事が担うべきは、「再教育の機会提供」ではなく、「学びを通じて貢献の幅を広げる支援」です。
たとえば、
- デジタルスキルやコミュニケーション研修の実施
- 経験知を若手に伝える「指導者教育」の場づくり
- 社内資格制度などによるスキルの可視化
これらは、個人の自信を高めると同時に、組織全体の知的資産を維持することにもつながります。
3.意欲寿命を維持する「役割再設計」
人が長く働き続けるためには、「自分が組織に貢献している」という実感が欠かせません。そのため人事は年齢を問わず力を発揮できる「役割の見直し」を進める必要があります。
具体的には、
- 若手教育・品質監修・チームメンターなど、経験を生かせる役割設計
- 成果以外の貢献(支援・伝承・育成)を評価に組み込む仕組み
- チーム内で世代を超えた協働を促すマネジメント研修
こうした工夫が、「年を重ねるほど価値が高まる組織文化」をつくります。
これからの人事部の役割:制度設計者からキャリアの共創者へ
これからの人事部の担当業務は、社員の「労働寿命」を最大化するマネジメントが中心になっていく可能性があります。この役割を果たすにあたっては、年齢や雇用形態を超えたキャリアの共創者としての姿勢が求められます。
健康・スキル・働き方のデータを可視化し、個々の状況に合わせて支援する。また、定期的なキャリア面談やライフプラン相談を通じて、社員が「どのように働き、どのように次の世代を支えるか」を共に考える存在になることが重要です。人事部は人事制度を運用する立場から、人生100年時代のキャリアデザイナーへと進化する必要があるのです。
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