英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
以前取り上げたテイラー(F. W. Taylor) 以来、経営学が誕生して100有余年になります。経営学には学術的観点からは未熟でまゆつばものの理論が多いのが実情で、 大半の命題は、今後さらに追試や再検討が必要なものばかりです。100有余年の歴史といっても、 経済学や法律学などの他の学問領域に比べて遙かにその歴史が浅いということも、あやふやな理論が多い理由です。
ただ、その中で殆ど唯一といってもよい確かな命題があります。それは、「社員のやる気を上げるには、仕事の内容を面白くしてやらないといけない」というものです。
仕事内容のおもしろさでやる気を出させるということの裏に秘められた意味は、賃金を上げたり、
職場の雰囲気をよくしたりするだけでは働く人々のやる気は決して上がらないということです。
もちろん、これらの賃金や雰囲気といったことも悪ければそれはそれで良くないのですが、それらは通常レベルであっても問題はなく、
個々人が日々こなしている仕事や職務の設計、職務の中身の在り方こそが、人々のやる気の向上にとって最重要であることを示唆しています。
では、職務はどのように設計すればよいのでしょうか。経営学の解答は、「職務を全うする各位の能力より少し難しいレベルの仕事を社員に与える時、 対象者のやる気は上がる」となっています。
ここで込められている意味は、各自の保有している能力を十全に発揮でき、可能なら持っている能力を少し超え、 更なる能力開発ができるような難度の職務に就かせる時、社員は考えることを通じてやりがいや満足を感じ、 自己実現が達成されてやる気が上がる、というメカニズムです。
こうした少し難しいレベルの職務を社員に与えることのできる前提は、1つにはマネジャーに、働く社員への信頼があることです。
社員への信頼がないと、コスト増を恐れるあまり、誰がやってもできそうな簡単な仕事しか与えないことになりかねません。
そしてもう1つの前提は、日々の短期的な仕事の出来映えではなく、長期視点に立って評価することです。
言い換えれば、社員を育成しようとする視点が重要ということになるかもしれません。
人の育成は即席にできるものではなく、大いに時間がかかるものだからです。
この2つの前提はいずれも、マネジャーの心の余裕が必要であるということを示しています。 ただ、見落とされがちですが重要なポイントが実はもう1つあります。
それは職務に就く社員自身による創意工夫も必要ということです。満足感や自己実現は、所詮は主観的な要因であり、
要は働く人々の心の持ちようが最終的な鍵となります。マネジャーがいかに少し難しいレベルの職務を設計し社員に付与していても、
それをどう受け取るかは、つまるところ社員自身の心に帰着する問題なのです。
裏返せば、どのような職務を与えられていようと、それに社員オリジナルな創意工夫を加え努力しようとする姿勢があれば、
やりがい感や満足感は自ずと向上します。
このように社員のモチベーションを向上させようとする際に、社員自身も努力が必要であるというのは極めて重要なポイントです。 一面的な「ものの見方」しかできない社員の眼を見開かせ、より広い視点から考察できるように導くことが大切です。 社員をやる気にさせるためのエッセンスは、働く社員とマネジャーの双方で仕事の在り方を考え直す機会を持ち、 改善へ向けた努力を重ねることであるといえるでしょう。
人間は「喜・怒・哀・楽」という4つの感情を有しています。古来、中国ではこの4つに加え、 怨(うらみ)を加え五情と呼んだり、立場によっては、愛(いつくしみ)や憎(にくしみ)を加えて六情と呼ばれたりすることもあるようですが、 喜怒哀楽の4つはいずれの立場でも共通して挙げられる基本的な感情です。
昨今、経営学でも感情に関する研究領域が新しく確立され始めています。 例えば、肉体労働や精神労働といった従前の分類には収まりきらない精神的ストレスを対象とした労働を「感情労働」と呼び、 飛行機の客室乗務員や看護師など、精神的ストレスの高い業務のあり方が科学的に分析されるようになってきています。
ここでは喜怒哀楽の4感情の中でもポジティブに捉えられがちな楽(楽しみ)の感情に関して、
私が考えた個人的な分類について、紹介したいと思います。
結論を先取りしていうと、楽しみには2つの相対立するタイプがあり、
仕事をするにあたってはそのうちの1つの楽しみが深く関与しているということです。
2つの楽しみを、便宜上AタイプとBタイプと仮称することにしましょう。
Aタイプの楽しみは、使うことを楽しむタイプのものです。 例えばゲームをしているとき、食事をしたりお酒を飲んだりしているとき、 このAタイプの楽しみ方をしています。 こちらは、すでに存在する何かを消費することの楽しみと言い換えることができるかもしれません。
使う楽しみに対し、もう1つのBタイプは、作ることを楽しむものです。
何もないところを自分で作り上げていく、創造する楽しみです。
ここでいう「作る」とは、何も物理的なモノを作るだけではありません。
形のないものであっても、例えば概念的・抽象的なことがらを作り出すのも、
ここでいう作る行為に含まれます。人間のクリエイティブな創造活動はすべてこのBタイプの楽しみです。
AタイプとBタイプは、同じ楽しみといってもその特徴がかなり異なっています。
楽しみの持続時間に注目すると、Aタイプは刹那的でその場限りであることが多いです。
消費しているときは大変楽しく刺激的だけれど、終わればたちまちその楽しみは消えてしまいます。
それに対し、Bタイプの楽しみはじわじわと長時間にわたり継続するタイプの楽しみです。
その瞬間の刺激は高くなくても、比較的長期にわたり幸せに感じる時間が続きます。
普段私たちが感じる達成感や充実感も、このBタイプの楽しみと大きく関係しています。
仕事で働くうえで得られる楽しみは、実はBタイプの楽しみです。働くことは労働とも呼びますが、
この労働は英語ではlabor(原義は骨折りの意味)です。すぐに楽しさを覚えることはほとんどないのですが、
時間の経過とともにじわりと喜びを感じられるタイプの楽しみが、そこにはあります。
日々の仕事のちょっとしたことに自らで何らかの創意工夫を加えることは、
実にクリエイティブな作業です。骨は折れるのですが、
そこにはあとになって大きな達成感や充実感が得られる楽しみがあるはずです。
仕事を楽しいものにしようと思えば、普段から仕事以外の場でもこのBタイプの楽しみをできる限り体験することが重要です。
Aタイプの楽しみ方をよくする人の場合、楽しみにはこうした2種類存在することすら、そもそも気づいていません。
極力そうした場を意識的に設け、Bタイプの楽しみの深さを知るべきです。
今ある現実を見つめ、疑い、考え、その枠を壊すこと、そしてできれば自分なりのやり方を創造すること。
これがここでいうBタイプの楽しみの本質なのです。
経営学の領域で最も有名で、読者の皆さんも耳にする機会がよくあるのは経営戦略論でしょう。
戦略をどう立案し実行するかが、経営で成功を収める基本ですから重要なのは当然です。
しかし、経営戦略論がアメリカで経営学の領域として打ち立てられ、日本にも輸入されて盛んに研究されだしたのは、
せいぜい1980年頃からです。経営学の伝統的な領域としては、市場・環境など企業の外部を扱う経営戦略論よりも、
内部マネジメントのあり方の議論の方が遙かに長い伝統を有しています。
テイラーによって20世紀初頭に経営学が創始された ことは以前も触れましたが、それ以降70~80年間は、経営学の殆どの研究は内部マネジメントの手法についての研究で占められてきたわけです。
マックス・ウェーバー(Max Weber)というドイツ人学者は、組織に於ける意思決定やマネジメントの在り方にいくつかのパターンがあることを発見しました。 ウェーバー自身は偉大な社会学者・宗教学者であったのですが、この研究によって、その後の経営学の研究の展開にも大きな影響を与えることになった希有な人物です。
ウェーバーは、マネジメント(management)という用語ではなく、コントロール(支配、control)という用語で説明しており、 正確には両者は概念上区別されるべきなのですが、内容的にはコントロールとは内部マネジメントの在り方と読み替えても、 ひとまず差し支えありません(ウェーバー著、世良晃志郎訳『支配の諸類型』創文社、1970年)。
では、ここから彼が考案した3つの内部マネジメントのパターンについて順に見ていきましょう。
1つめの内部マネジメントのパターンは、非常に権威を持ったカリスマのようなリーダーが存在し、 その「偉い人」がありとあらゆることを決定し、命令し、動かしているマネジメントです。 極めて属人的で、カリスマ個人の資質・能力に依存して組織の内部マネジメントがなされていることになります。 ウェーバーはこのマネジメントの在り方を「カリスマ型マネジメント」と名付けています。
ウェーバーの書物は、政治的・宗教的な実例を中心に書かれていますが、多くの企業組織においても、
こうしたカリスマ・リーダーによるマネジメントの在り方の例はいくらでも挙げることができるでしょう。
ウェーバー自身も例に挙げている歴史的に有名な例としては、モーリス自動車のナフィールド卿や、
フォード自動車のヘンリー・フォードのような事例です。より身近な例では、
米アップル社のスティーブ・ジョブズを想起されてもいいですし、我が国の経営者でも、
松下幸之助をはじめ、カリスマ・リーダーと呼ぶべき名経営者はたくさんいます。
では、カリスマ的マネジメントは、どういった特徴や問題点があるでしょうか。
ウェーバーによると、その最大の問題点は、権威の基盤が一個人の特徴にあり、
命令がそのカリスマの直感や考えに基づいて出されるために、不安定な要素を組織が抱え込んでしまうことにあると述べています。
また、カリスマ・リーダーの決定には組織の誰もがおかしいと思っていても口を出せなくなります。
これで失敗した企業の事例も枚挙に暇がありません。
そしてさらに深刻な問題は、不幸にもそのカリスマ・リーダーが亡くなったとき、 権威を誰が引き継ぐかという後継者問題が発生することです。 ウェーバーによると「我こそはカリスマ指導者の真の後継者である!」と主張する多くの弟子たちの間で分裂が起き、 組織としての体を成さなくなり、いずれ組織は空中分解してしまうことになるというのです。
こうしたカリスマ的マネジメントは前近代的な内部マネジメントの在り方です。 ウェーバーは、カリスマが亡くなった後、組織は残りの2つの類型のいずれかの内部マネジメントに移行すると述べています。
前章で挙げたカリスマ的マネジメントからの移行先の1つである「伝統型マネジメント」についてご紹介します。
伝統型マネジメントとは、読んで字のごとく伝統にのっとって種々のマネジメントを行うことです。
伝統という表現がわかりにくければ、慣習や習わしと読み替えても差し支えありません。
要するに、これまでの組織で慣行的に行われてきた通例のやり方に基づいて組織のマネジメントを行うのが伝統型マネジメントです。
この伝統型マネジメントは、偉い人の個人的資質に基づいて全ての管理が行われるカリスマ型マネジメントに比べると属人性は低く、
その意味では近代的な内部マネジメントの在り方といっていいでしょう。
ただし問題は、「これまでずっとそのように行われてきたから」というそれだけの理由に基づいて、
何らそれ以外には考えたり分析したりすることないままに、物事の進め方が正当化されることです。
例えば、組織でプロジェクトを進める際に、とりあえず前例踏襲をして対応しておこうと考え、
安易に前回と同じやり方で対応しようとする場合がこれにあたります。
こうした対応が伝統型マネジメントの典型例です。
前例踏襲というネガティブな印象を与え、積極的な文脈で語られることの少ない伝統型マネジメントですが、 実はメリットもあります。この伝統型マネジメントのメリットを知っておくことが、 皆さんが効率的に物事を進めていくうえでのヒントを得ることにつながります。 私自身も、実は日頃から伝統型マネジメントを随所に使いながら物事を処理しています。
皆さんの組織でもそうかもしれませんが、大きな成果に結びつかない事柄、 しかしどうしてもやらないといけない業務については、私はできるだけ素早く効率的に最小限のエネルギーで済ませられるように、 この伝統型マネジメントを活用しています。「こういうケースでは、以前はどのように対応していたか」を探し、 殆ど考えることなくそのやり方に従って物事を前へ進めていっています。 こうすればエネルギーは殆ど使いませんから、疲れることもありません。 そしてとりあえずは物事を前へ進められ、省エネ運行ができるのです。
ここで重要なのは、自分に降りかかってくる仕事や作業のうち、どれにエネルギーを最大限投入してコミットするか、 そしてどれは力を抜くかをしっかり識別できる力を身につけることでしょう。 適当に処理しても許容される事項に対しては、思い切って伝統型マネジメントを適用すればいいのです。
一方、真剣によく考えたうえで進めていかなければならない事案、例えば研究論文を書くときや学生の指導などの場においては、 私は決してこの伝統型マネジメントは利用しません。むしろ五感を十全に働かせつつ、 1つひとつ時間をかけて丁寧に取り組むようにしています。
自分の為すべきことを列挙し、優先度の低い事項には伝統型マネジメントで対応するようにしてみると、
仕事が一気に効率的にはかどるよう革新できるかもしれません。
次項では伝統型マネジメントよりもさらに効率的なマネジメント手法について説明します。
カリスマ型マネジメントの崩壊とともに現れるマネジメントのもう1つが、かの有名な官僚制マネジメントです。
官僚制マネジメントは、法律・ルール・規則に基づいて物事への対応が進められるので、ウェーバーは合法的マネジメントとも名付けています。
現代社会のあらゆるところで見られるのがこの官僚制マネジメントです。
ウェーバーによると、このシステムが合法的マネジメントと呼ばれるのは、
ある特定の目標を達成することを明確に意識して、その達成のための手段が考え出されているからです。
官僚制マネジメントはしばしば精密機械に例えられます。精密機械のそれぞれのパーツには何らかの果たすべき機能が与えられており、 それらの全てのパーツが各々の機能を最大限に発揮することによって全体の目標が達成されるのです。
官僚制マネジメントは、正確性・処理スピードの速さ・明確性・連続性などさまざまな特徴を持っていますが、 なかでも最も大きな特徴は「誰がやっても同じ結果になる」という点です。 この特性は作業を遂行する人間の個性が業務に反映されないという意味において没人格性と呼ばれます。
カリスマ型マネジメントでカリスマの人格そのものがマネジメントに反映されていたのとまさに好対照です。 官僚制マネジメントでは、影響力のある社長がたとえ亡くなったとしても手続きに則って粛々と同じ対応がなされ、 マネジメントが継続されていくわけです。
私は学外の仕事として行政や地方自治体系の委員会で司会進行役を仰せつかる機会がありますが、 どこの自治体でも進行にあたっては事務局が「何時何分頃に司会者がこういう発言をし、 委員会メンバーに意見を言ってもらい、何時何分には次の議題に移り、 何時何分ごろにこういう発言をして会議を閉める」といったことが記してある会議シナリオを準備し、 司会者に事前に手渡されます(注:当然ですが、委員の意見にシナリオはありません)。
自治体で働いている方々は文字通り官僚です。官僚制の没人格性がこういうところにも現れており、 司会者が私以外の人になったとしても、同じ意見なら必ず同じ結果が得られるようになっています。 民間企業ではこうした文書を予めいただくような会合はまずありません。
没人格性は、「公平性」というコンセプトとも関わっています。誰がサービスを受けても同じサービスが受けられるように工夫されているのです。 例えば、役所の窓口サービスは従来対応が悪いと評価されることが一般的で、時に官僚制が無愛想で人間味のない対応を示す代名詞になっていました。
ただしこれは「誰が窓口に行っても、同じ要請なら同じ結果が得られる」という公平性を最優先にするからこそ出てくる対応であることを忘れてはなりません。 窓口に偉い地位にある人が行っても、普通の市民が行っても、お金持ちが行っても、そうでない人が行っても、必ず同一のサービスが受けられるということこそ、 公的サービスでは重要なのです。
逆に、民間企業では、意思決定や対応にもっと個性がある方が一般には望まれることが多いです。 人的資源管理(HRM)の発想法は、実は従業員各自に個性があり、その人のオリジナリティが競争優位の源泉となるべきであると考えられています。 その意味では、官僚制マネジメントから脱皮する脱官僚制と人的資源管理の考え方には共通項があります。
要するに、今日では、仕事のどういった局面で官僚制マネジメントを活かし効率を追求し、 どういった局面では逆に脱官僚的に個性を追求すべきかを判断できる人材になることこそ、求められているといえるでしょう。
働く意欲・モチベーションをどうやって上げればよいかは、経営に携わる方々にとって最も基本的で素朴な問いです。
街の書店には、いつ行ってもモチベーションに関するビジネス書が数多く並べられています。
経営学においてもモチベーション理論には多くの展開があり、これこそ決定版といえるような理論は残念ながら存在しません。
ただ、古典と呼ばれる有名なモチベーション理論には、そのアプローチ法や展開の仕方に1つの共通点が見られます。
それは、人間のもつ心的特性を見極め、この心的特性やそこから導かれる人間行動を対照的な2つの人間モデルに分類し、
それぞれに合ったモチベーションの上げ方を分析するというアプローチをとっていることです。
マズロー(A. H. Maslow)の欲求階層説でみられる低次元欲対高次元欲求、
ハーズバーグ(F. Herzberg)のいう衛生要因対動機づけ要因、あるいはマグレガー(D. McGregor)のいうX理論対Y理論などがその典型です。
これら数あるモチベーション論のうち、以下では具体的で分かりやすいと思われるマグレガーの理論を見てみることにしましょう。
マグレガーは、1960年に発表した『企業の人間的側面』(The Human Side of Enterprise)という書物で一躍有名となり、
その後の経営学やマネジメント思想のトレンドを変えた、経営学の巨人です。
ですが、有名な書物のわりには、この著書で展開されているX理論・Y理論のとらえ方については誤読も多いようです。
マグレガー理論の正確な理解のために、ここで簡単におさらいしてみましょう。
マグレガーは、人がなぜ働くのかという問いに関して、全く対照的な2つの考え方が存在することを発見しています。
その2つの相反する考え方を、それぞれX理論・Y理論と呼ぶのです。
X理論の考え方として、マグレガーは次の3つの前提があるとしています。
これらの前提の背後にあるのは、簡単にいうと、人間を基本的に怠け者だと捉える性悪説的な考え方であるといえるでしょう。
X理論とは対照的に、次の6点のような性善説を前提とする人間行動についての考え方があるとマグレガーは主張し、 これをY理論と名付けています。
マグレガーはX理論とY理論のいずれの前提に立つかに応じてモチベーション・マネジメントのあり方が異なると主張しています。 実はこの解釈に誤解が多いのです。次章ではこの解釈になぜ誤解が生じるのかについて解説していきます。
X理論に基づく人間性悪説的なマネジメントでは、従業員に対し強制・賃金・罰則などの「アメとムチ」を適宜与えながら外から統制するのが適切なマネジメントとなるはずです。 性悪説に基づく従業員管理手法では通常人間は仕事嫌いであると仮定するので、業績を上げるためには従業員を管理・命令し、強制して信賞必罰で臨む必要があります。
逆に人間性善説のY理論の前提に立てば、従業員各自が個々に成長して自分を伸ばしていきたいという自己実現欲求を充足させることを通じ、 組織目標の達成を志向していく手法が適切ということになるでしょう。
Y理論では、大概の人間は仕事嫌いではなく、自主的に目標を設定して創意工夫を主体的に編み出しながらその目標を達成しようとすると捉えられますから、 当然にマネジャーは従業員一人ひとりを信頼し、基本的に「任せる」マネジメントとなるはずです。 したがって従業員を厳しく管理することなく各人の主体性に任せる経営管理手法となるのがY理論です。
ここまではマグレガー自身が書物の中で説明していることそのものです。誤解が生まれやすいのは、 この後にマグレガーが述べている点の解釈についてです。
マグレガーによると、X理論は古い時代の管理論である経済人モデルの人間仮説であり、 今後の企業はX理論よりもY理論に立脚したマネジメントに変えていかなければいけないと述べられています。 しかし本当にそういえるのでしょうか。
このマグレガーの書物の文脈で重要なのは、人がなぜ働くのかに関して全く異なる2つの考え方が、 たとえ現代企業であっても存在しうるということです。実際マグレガーがこの理論をまとめた契機は、管理職の人々と話し込んでいて、 人が働く理由に関連して2つの相互に対立する考え方が存在していることを発見したからだといわれています。 どこの企業でも、マネジャーは部下を管理しようとする際にそれぞれ自分なりの何らかの人間モデルを頭に抱いていて、 それらは大別すると2種類あるということをマグレガーは見つけたのです。
そしてさらに注目すべきことは、何も「X理論=悪い考え方」ではないということです。 当然のことながら、一見まじめに働いていそうな従業員であっても、大した仕事をせずサボってしまうことがあります。 こうした従業員に対してY理論的マネジメントだけで済むかといえば決してそうではありません。 X理論も真実の一面を捉え、いいところはあるのです。
現代企業では、各社のホームページや会社紹介・人事採用関連のサイトに表だって書かれているのは、
一見やさしく映るY理論の考え方であることが多いようです。
とはいえ業種によっては、例えば従業員の主体性を認め過ぎると人命も脅かすことにもなる危険を伴うような仕事も存在しています。
原発を運営する電力会社、交通インフラを担う電鉄や飛行機の会社などがその一例です。
こうした業種では、Y理論をそのまま許容するのも問題です。
このマグレガーのX理論・Y理論という考え方をベースに敷きながら、この2つにはあてはまらないマネジメント手法として、 「Z理論」という考え方を提唱した人もいます。ハワイ生まれの日系3世でUCLA教授を務めたW.オオウチ(William Ouchi)という研究者が発表したもので、 日本企業の経営はX理論とY理論の両方の優れたところを集めたものではないかという仮説を立て、検証したのです。 あまり指摘されませんが、このオオウチの研究は、日本的経営についての研究系譜や1980年代以降にアメリカで展開された人的資源管理論の先駆けとなりました。
研修担当者の虎の巻
「そもそも研修ってどういうもの」「担当になったら何からやるの」など、研修ご担当者になったらまずは読んでいただきたい内容をまとめてご紹介しています。
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