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 【経営資源考】

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ヒト資源が重要になるまで

経営資源考 【2】

ヒト資源が重要になるまで

◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、 2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
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■ヒト資源の重要度の高まり

現代でこそ,「ヒト」資源ほど重要な経営資源はほかにない,というのが常識となっています。ヒト資源が企業の「競争優位の源泉」とされるゆえんですが,ではいったい,いつごろからヒト資源が重要だと認識されるようになってきたのでしょうか。

以下では,ざっくりとした歴史的な観点から,ヒト資源が重要になってきた経緯を述べてみましょう。

ここで興味深いポイントは,時代に応じてどの経営資源が重要であるかということが移り変わってきたという点です。


■資本主義到来の前

大昔,封建時代には農業生産が中心でした。農業生産が中心の社会では,いちばん重要な経営資源は土地という経営資源です。土地さえもっていれば,そこで農作物を大量に作り,優位に立つことができました。これはまだ工業生産が始まる前の段階です。


■産業革命の到来

やがて産業革命の時代を迎え,機械が発明されます。機械で多くの工業生産が行われるようになると,土地に代わって多くのおカネをもっている資本家が優位な立場になります。カネにものをいわせてどんどんモノを生産するようになり,資本家はますます裕福になっていきます。川には橋が架かり,鉄道が走り,物資の輸送が頻繁に行われ,人の移動も簡単にできるようになります。こうして資本主義の時代が到来するのです。

つまり,経営資源としては,資本主義の成立期~初期あたりには,ヒト・モノ・カネ・情報の四大経営資源のうち,カネやモノが非常に重要な役割を担っていました。カネさえあれば,"労働力"としてのヒト資源は簡単に雇うことができたのです。


■モノやカネが溢れていくと

その後,資本主義がさらに成熟していくと,経済社会にモノやカネが溢れ出す事態になります。そうすると,今度はモノやカネそれ自体ではなく,それらを動かすヒトこそが決定的に重要な役割を担うことになります。

今では当たり前に聞こえるお話ですが,モノやカネを動かすヒトが誰であるか,そのヒトの考え方次第で,モノやカネのあり方が大きく変わってくる,という認識になってきたのです。


■肉体的なヒトから精神的なヒトへ

こうなると,もはやヒトは単なる"労働力"ではありません。むしろヒトひとりひとりの能力を活かした多様な役割を果たすことが期待されています。

こうしたヒト資源の重要度の高まりは,以前にこのメールマガジンでも紹介した,人事労務管理の発想から人的資源管理の発想へという,ヒトのマネジメントに関するパラダイム転換とも関係します。いわば,"労働力"としての肉体的なヒトから,(哲学者パスカル流にいえば)"考える葦"としての精神的なヒトへ,という認識の大転換です。


■手で触れない資源が重要に

そしてさらに時代が下り,1980年代以降になると,ヒト資源に加えて,4つめの経営資源である「情報」や,そのほか「知識」,「企業文化」,さらに「新技術」(ITやナノテク,バイオ技術など)といったよりソフトな要素が重視されるようになってきたのです。これらの新資源に共通する特徴は,手にとって触ることができず目に見えない資源である,ということです。

こうしてみると,経営資源の重点は,時代を経るごとに,形のある,かっちりとしたハードなものから,よりソフトで形のないものへという方向へ移行してきたとまとめることができるでしょう。後者は,手で触れないという意味でよくインタンジブル(intangible)と呼ばれることもあります。ですから,インタンジブル・プロパーティ(intangible property)といえば,無形資産や特許権・商標権・意匠権などのことを指します。


■ガルブレイスによる予測

実は,こうした経営資源の重要度の移り変わりは,もう数十年も前に著名な経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith)によって予測されていたことでした(経済学者なので上記と視点や文脈は少し違いますが)。

興味をお持ちの方は,是非,ガルブレイス著『新しい産業国家』(河出書房新社, 1968年/講談社文庫,1984年)をご一読下さい。少し古い本なので書店では入手困難ですが,図書館には必ず入っているはずです。

☆次回もお楽しみに!


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