経営者の要件~経営者は業績を上げる専門職|マネージャーの要件6
仕事柄、さまざまな企業を見てきましたし、私自身23年間も社長をやってきました。今までの経験を踏まえ、企業の経営幹部、特に経営トップに近い人が知っておいて欲しい事を書いてみました。こういった内容は過去に偉大な経営者や学者さんがいろいろ書かれていますが、ほどほどの規模の企業についてなら若輩の私の話でも少しは役に立つのではないかと思っています。
経営トップの要件
業績の上げ方を知っていること~ピンチの時に自ら業績を立て直せること
経営者というのは、業績を上げる専門職でしかありません。売上と利益が上げられないと、経営トップは務まりません。特に、業績がピンチの時には、自ら業績を立て直す事ができなければなりません。
業績を立て直す方法はごくシンプルです。株主、銀行に業績向上策を示し、当座の運転資金を確保し、売上や利益を上げる方法を迅速に発見し、利害関係者にその方法を示し、納得させ、経営資源を集中し、今やれる事を全部迅速かつ確実にやる。これだけです。
具体的には、細かく売上、費用を分解していき、問題のある点を探し、一つひとつ改善をしていくのです。売上であれば、エリア、顧客規模、業界、商品などをメッシュにして現状の良し悪しを一つひとつ評価し、すぐ改善できそうな課題から対策していくのです。リーダーとして、社内外の動揺を抑え、時間と闘いながら着実にやる。これだけです。
良い組織カルチャーを作れること~賢さと明るさ
業績が伸びつづける企業に共通するのは、賢さと明るさがあることです。こういった企業の経営者は、絶えず社内を一人でうろうろと歩き回り、多数の社員に笑顔で声をかけ、時には自ら指導している姿があります。その結果、組織全体の賢さが底上げされ、トップの笑顔が明るさを作り出しているのです。
自ら良いカルチャーを作ることができる人は経営者に向いています。今、管理者の立場にいる人から真似てもらいたいものです。
お金を理解していること~資金繰り、冗費を押さえる仕組み、投資を成功させる
運転資金が不足すれば、企業はつぶれます。そのため、まず、当面大丈夫と安心できる水準の現金を確保する、つまり、資金繰りを安定させることが大事です。今ある現金を全部使ってしまうようではダメなのです。ごく初歩的な事ですが、意外にも理解していない経営者を多数見てきました。
加えて、コントロールできる経費はしっかりコントロールして現金が貯まる仕組みを作ります。時々、伝票を見るなどして細かな経費や支払いの特徴を知り、冗費を押さえるルールを作るのです。これがうまくいけばどんどん現金は増えていきます。細部を気にしないとあっという間に会社のお金はなくなっていくものです。
難しいのは成長投資です。投資可能額を知り、その範囲でお金を使いリターンを得るのが経営者の仕事です。成功確率と想定利益を天秤にかけ、決断し、取締役会に諮り、その上で推進していくのが経営者の役目です。
売上確保、運転資金維持、経費コントロール、投資をうまくバランスさせるのが企業経営なのです。
順調な時は5年後、10年後の準備ができること~新規事業を守る
経営者の役割は短期だけでなく、長期的な利益を確保し、企業を永続させることです。なので、将来の収益源を育てる事が重要です。新規事業を見極める目と数年間の赤字を我慢する粘り強さが必要となります。
新しいもの、斬新なものは、まず、社内では良く思われません。私は銀行でネットバンクなど新規事業を担当していました。その時、結果がすぐ出ない事より、同僚の冷たい言葉や視線の方がつらかったのを今でもよく覚えています。企業の決算は1年単位であり、赤字の部門は嫌われます。経営者が新規事業に積極的に関与し、部門や担当者を守ってあげないといけないのです。
責任感が強いこと~多数の利害関係者の重みに耐えられること
企業には多数の利害関係者が存在します。インソースの様な歴史の浅い企業でも、従業員と講師で1千2百名、ご家族を含めると3千名以上方々の生活を当社はささえています。株主は8千名で、その中には年金基金もあり、多くの方の老後資金も託されています。お取引先は1万5千社あり、サービスのご利用者は研修で80万人、研修管理システムLeafは500万人です。また、年間40億円ほどの納税で社会を支えています。実にクラクラするぐらい多数の利害関係者が存在するのです。
経営者には、これらの方々を背負っている責任を自覚し、逃げずに働くという責任感が極めて重要です。経営トップになった途端、本業をおろそかにしているように見受けられる方々も少なからずいます。内実はわかりませんが、そう見えるのはまずいです。
大胆なことが平気でやれること
今まで優秀な経営者を多数見てきましたが、彼らの大胆な行動力には舌を巻きます。深い経験と観察力で強いインスピレーションをひとたび得れば、誰に反対されようとも、非常識とも思える事に突っこんでいき、成果を上げていきます。不思議でなりません。
私なりに考えてみると、「大胆な事を平気でやれる」は「他の人には見えていない要素を発見する力」と「冷静な計算ができる力」と「人の意見より自分の計算を信じる力」に分解できる様に思われます。これらは、彼らの研鑽のたまものなのでしょう。
私は、意識して、何か成し遂げた方々にその方法を教えてもらう様にしています。すごくシンプルなお話が多いですが。経営者を目指す方々は話をきくだけでなく、読書からも補強できるので日々意識して勉強して欲しいと考えます。
人の好き嫌いがないこと~誰でも上手に使いこなせ、人に嫌われないこと
企業の戦闘力は働くすべての人が同じベクトルを向いている時に最大化します。経営トップに人の好き嫌いがあると、必ず、社内に対立や混乱が生じます。そうなると戦闘力は想像以上に弱体化し、あっという間に業績は落ちていきます。
業績を上げるためには、持てる経営資源を無駄なく全部活用し、最大限の業績を上げなければなりません。なので、経営トップは誰でも、良い点を評価し、皆をいい気分にしながら、最大限働いてくれるように持っていける人が望ましいと思います。
加えて、こういった人は厳しい事を言っても、人に嫌われないのでその点でもトップとして重要だと思います。
さっぱりしている人~適任者に譲る潔さ
権力というのは魔物です。一度でも、トップの座についた人なら分かると思いますが、その地位を失う感覚は自分が消えてなくなってしまう様な不安な感覚になります。また、成果を上げてきた経営者は自分じゃないと企業を上手く回せないのではないかと不安になったりもします。どちらにしても、経営トップの座に長く座ってしまいがちになります。
気持ちは分かりますが、利害関係者を守るためには、業績不振や、リスク対応の失敗の場合はその職を辞し、適任者に譲る潔さを持っている事がトップの資質だと思います。また、大過なく経営していても、世の中の変化は急であり、それに対応ができなくなる時がどんな優秀な経営者でも来ると思います。
そのため、私は、経営者はオーナーであっても任期制にすることが良いと考えています。一定期間経営トップをやったら必ず次の人にバトンタッチしていく。その際は第三者が入った指名委員会が業績を伸ばせるかを吟味して決める。というのが良いと理想だと思っています。悩ましいですが。
心身共に健康であること~特にメンタルが強いこと
経営者の仕事は常に強気と弱気が併存する様な仕事です。成長への確信を得れば、果敢に投資の決定ができないといけません。投資家や社員の前では、常にポジティブな発言をする強気さが必要です。リーダーが弱気なところを見せれば、たくさんの人が動揺するからです。一方で、リスクの予兆、投資家の叱責、株価の下落におびえるが故に、こまごまと毎日対策を打ち続ける弱気な面も絶対に必要です。
経営者は強気、弱気と頭や心のスイッチを一日に何十回も切り替えながら働かないといけないのです。また、計画は絶えず遅れ、意図しない問題は常に発生します、いちいちそれに悩みメンタルが悪化していては日々の仕事はできません。また、経営者の頭は昼に夜に休日にと働き続けることが日常です。よって、心身が強く健康であることと、常にベストな状態に保つ努力が必要です。
GEのジャック・ウェルチが自宅に筋トレルームを持っていたり、最近ではアマゾンのジェフ・ベソスがムキムキになっていたりと、心身の健康を保つため筋トレにはまる経営者が多いのも良く分かります。
従業員や利害関係者を大事にしてくれる人
私の場合であれば、とにかく創業者なので、0から、企業を作るプロセスで支援してくれた利害関係者、特に今まで一緒に会社を大きくしてきた仲間である従業員を大切にしてくれるかどうかをとても気にします。この点はオーナー企業を創業者から引き継ぐ場合は極めて重要だと思います。
また、それ以外の企業でも、一度経営者になれば、企業で働く人、取引先、お客様のありがたみを強く感じているので、利害関係者を大事にしそうな人を後継者に選びがちであると思います。
出世が遅くても企業の経営者になれるのか?
これは明確にイエスです。出世が早いのと、企業のトップにふさわしい事は異なるからです。企業にもよりますが、部長や執行役員までは一芸に秀で、実績を残せば、早く任命される可能性は高いと言えます。
ただ経営トップとなると、別に必要な要件がたくさんあります。社長は競争でなるものではありません。遅すぎると間に合いませんが、実績と能力向上をじっくり進めていけばいいと思います。
ここに書いたように、多様な要件があります。現代は、大転職時代です。もし今の会社でトップになれなくても、磨いた能力は必ず役に立ちます。じっくり、これらを自覚してがんばりましょう。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
マネージャーの要件シリーズ



