部長の要件~部長は企業の未来を作る仕事|マネージャーの要件4
社内のミドルリーダーから「優秀な部長とはどんな人か?」という質問を受けました。部長は企業や組織を「動かしていく人」が適切ではないかと思います。メンバーを率いて、各部門の部長が方向性を定め、今とは違うところに企業を動かしていく、そんな部長が理想的なではないかと思います。もちろん、それは部長以上に全部あてはまることでもあります。今回は部長以上の役職者に求められるスキルについてざっくばらんに書いてみました。
企業や経営者のベクトルを理解していること
経営層、とりわけ社長は、部長には自らの代行者であって欲しいと考えています。会社方針を理解し、それにベクトルをあわせて自部門の方針を示し、チームを動かして成果を上げる必要があります。自らの部署の施策を「私はこうしたい」でも良いのですが、ベクトルの方向が違っていれば、企業全体の業績拡大効果が最大にはなりません。この点を理解し、行動できる賢さは部長以上の役職者には必要です。
短期、中期、長期の目線で業績拡大ができること
企業が大事にすべき収益は3つあると思います。営業活動の様な一瞬、一瞬の勝負の結果の集積である短期収益、中期経営計画の様な3年間で実現する中期収益、研究開発や人材育成など10年先、20年先に花開く長期収益などです。
持続的に企業が成長するためには短期、中期、長期の全部の数字を追う必要があります。残念ながら自分の部署において、この3つのバランスはどんなものかを考え、意識しながら事業運営している部長はなかなかいません。優秀な部長と言われるためには3つの収益をそれぞれ伸ばすような活動をして欲しいですね。
業績拡大における課長と部長の違い
この点において、課長と部長の違いが明確に出てきます。課長の仕事は勇気をもってPDCAを回して、短期の業績を作る事です。ほとんどの企業では優秀な課長がいれば十分なのです。短期目標の達成を確実にするのも部長の仕事ですが、目線を上げ、中期、長期の目標達成がより確実になる様な施策を打つのが真の意味で部長の仕事です。みんなで短期目標を追っていたら来期以降困ってしまいますよね。プロ野球においては、課長は一軍監督として現場の指揮を執り、部長はGM(ゼネラルマネージャー)として、今期だけでなく来期以降も想定して、メンバーや監督を選定する様な役割分担が分かりやすいと思います。
新しいこと・変革ができること~半年に1件は新しいことをやり成果を上げる
株主への責務として、社長は最低、年に4件ぐらいは(四半期に1度くらい)新しいことをスタートしたいと考えるものです。特に上場企業のトップは四半期毎に実施する決算発表で株主や投資家に価値ある何か新しいことを始めたと発表したいものです。
「新しいこと」はM&Aや新市場への参入、新商品の開発だけではありません。女性やシニア活躍推進など労働力不足対策などでもいいし、業績が上がりそうな営業体制の変革、マーケティング施策の開始、既存業務の大胆な改善(本社を海外や地方に移す、新しい製造方法の開発)など、大きな成果が期待できるものであれば良いのです。まあ簡単ではありませんが、半年に1つぐらいは、会社として発表できる様な新しいことをやってくれる部長がいれば、社長としてはとても助かるので高く評価すると思います。
組織デザイン~自分の率いる組織を最適化できること
会社は最も大切な経営資源である「人材」を部長に託しています。
なので、託された人員を最適配置し、組織全体を活性化することが部長の責務となります。具体的には今の7~8割の人員で既存業務を回せるように生産性を高め、残りの2~3割の人員を「新しいこと」に投入することができれば、企業の成長は確実実現できます。
自分の席にどっかりと座り、課長のコントロールが仕事だと考えている部長はまずこういった最適配置はできません。部内のメンバーと対話し、その人の能力を最大限に発揮する配置はどこなのか?を考え続ける事が求められます。とは言え、相手は人なので経験的には人情も2割ぐらい加味した親切な対応をしないと人は動きません。
社長目線でのリスク管理ができること
社長というのは臆病なもので、さまざまなリスクに日々おびえています。会社の中で一番自社の抱えるリスクが見えているものです(見えてない人もいますが)。なので、社長と同じ目線で「リスク」を捉えることができ、顕在化していない「リスク」を先んじて発見し適切に対処できる人材を極めて高く評価します。
特に法令順守(コンプライアンス)は重要です。業績が多少下がっても、社長がクビになることはまずありませんが、過去からの慣例で発生した違法行為であっても対処を怠れば退任理由になります。
昨今、企業として「ずるい行動」をしていると、反社会的な組織とみなされ、組織の存続すら危うくなる時代です。明確に法を犯していなくても、組織の社会的責任に関する国際規格ISO26000にかかげる、7つの原則に大きく反する行動がなされていないかを見逃さないことも部長以上の役職者には強く求められます。これは意識して再確認してください。
【社会的責任の7つの原則】
- 説明責任(アカウンタビリティ)
- 透明性
- 倫理的行動
- 利害関係者(ステークホルダー)の利害の尊重
- 法の支配の尊重
- 国際行動規範の尊重
- 人権の尊重
経営数字で施策が説明できること~会社の意思決定のフォーマットに乗ってること
営業部門であれ、製造部門であれ、スタッフ部門であれ、「数字が分からない」「収益・コスト感覚が欠如している」部長から稟議が上がってくると困ってしまいます。やりたいことはなんとなく分かるし、施策を通してあげたいけど、会社の意思決定のフォーマットに乗っていないので、ルールとして通せないのです。
部長は推進者と申しましたが、企業の中で自ら立案した施策を推進するためには、稟議や経営会議や取締役会で承認される必要があります。当然「やりたい」だけでは無理です。部長以上は主たる使用人(えらい人)にあたり、組織内で一定の責任と権限を持つ人として一般の使用人と区別されるべきです。
企業のルールとして、売上や利益・コストダウンの成果を数字で示し、企業の業績拡大にどれだけ貢献するかを説明する必要があります。
その際、ROI(投資利益率=(利益 ÷ 投資額) × 100)が高いことを説明することが必要です。リスク管理や人材教育など一見コスト優先に見える施策は遺失利益(これをやらなかったらどれだけ損をするのか)から説明できます。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
マネージャーの要件シリーズ



