係長の要件~部下指導・業務改善・リスク管理|マネージャーの要件2
一般的な職場では係長、職場によっては、製造業では班長、職長、コールセンターではスーパーバイザー、SEならリーダーなどさまざまな名称で呼ばれています。共通するのは現場の最前線で数名の部下を率いて業務を任されているリーダーであるという点です。係長の役割は、現場の最前線でチームをまとめ、実務を遂行しつつ部下を管理・指導しつつ部下を育成するリーダーであることです。
マネジメントの世界的権威として有名なピーター・ドラッカーは「最も重要な管理職は、第一線の監督者である」と、係長クラスの第一線監督者が最も難しく、重要なポジションであると強調しています。これは私も同感です。
係長の3つの役割 ~ 管理者、教育指導者、プレイヤーが4:4:2

係長の役割は4:4:2で定義できます。
管理者としての役割が4割、教育・指導者としての役割が4割、プレイヤーとして成果を上げる役割が2割です。
この配分を意識して業務を遂行するのが良いと思います。
業務遂行・管理者としての役割~4割
仕事の進め方を適正に整える~誰がやっても同じ品質、成果を目指す
係長に求められる管理の特徴は、チームの成果、仕事の品質をチェックすることに加え、仕事の進め方(プロセス)の適正化であると思います。我流でも仕事はできますが、それでは、組織全体の仕事の質は高まりません。管理の本質は、誰がやっても同じ品質、同じ成果を出せる様に部下の考え方の軸、スキルを揃えていくことです。自らも直前までプレイヤーであり、仕事の進め方を細部まで知っている立場であるので、部下に寄り添って、あるべき仕事の進め方に整えていくのが重要です。
業務改善~自ら汗をかき、小さな奇跡を起こすこと
日本企業の強さは現場生産性の高さにあります。この強さを維持、拡大させることが係長に強く期待されています。また、自分の仕事を「楽にしてくれる」「価値あるものにしてくれる」リーダーは、当然信頼され、尊敬されます。業務改善を成功させることは、係長のリーダーシップ獲得への第一歩でもあります。
- 最も成果の上がる課題に取り組み小さな奇跡を起こす
改善を成功させるポイントは、最も成果の上がる小さな課題に真っ先に取り組むことに尽きます。チームの仕事を観察し、現状の課題を分析し、2~3週間程度の活動で成果が出そうなテーマを見つけ、改善方法を探り、確実に改善を達成します。小さな奇跡を起こすのです。 - 自らがリードし改善を進める
昔の話ですが、私がリーダーとして最初に取り組んだ業務改善は、各自が別々に保存している商品開発メモを情報共有ツールで共有し情報探索時間を大幅に削減したというものでした。実際にはツールの導入も、初期登録も全部自分一人でやりました。すぐにメンバーで利用できる状態を作ったお陰で利用が促進され、大きな成果につながりました。 - 改善に弾みをつける
小さな奇跡を起こせば、自らの予測力・判断力が正しいことを部下に示すことができ、部下の信頼は集まります。そうすれば、少しアドバイスをするだけで、部下は改善活動に取り組む様になります。チームには改善グセがつき、業務改善はどんどん進みます。
リスク管理~責任をもって対応する気概が不可欠
現場の最前線でクレーム処理やトラブル対応を行うのも係長の仕事です。SNSが普及した現代においては、現場で発生したクレームやトラブルへの対処が組織の命運を左右する事さえあります。係長は自分が責任をもって対応する気概が不可欠です。
- リスク対策~まず着任したらやること
リスクは認識できていれば対策は立てられるものです。よって、起こりうるクレームやトラブルなどリスクの洗い出しを徹底的に実施します。洗い出しはチーム全員で実施し、課題認識を働くメンバーで共有することが重要です。次に洗い出したリスクに対する初動を決めマニュアル化します。 - 日常管理~クレーム・トラブル最優先
管理者として日常の「ひょっとしたら」「もしかしたら」を放置すべきではありません。この違和感を深堀するのが管理者としての係長の仕事です。例えば、お客さまの苦情は必ず調査し、対応状況を確認するなどです。
また、クレーム・トラブル対応の「後回し」は確実に影響を大きくします。クレーム・トラブル対応が最優先でなされたかどうかチェックしましょう。 - 迅速対応のために緊急連絡先は必ず整備すること
重要なのに漏れがちなのが、自分の不在時のエスカレーション先や、夜間・休日の緊急連絡先などを決め周知することです。また、災害時の緊急連絡網に外部委託先や非正社員を加えることも忘れないでください。利害関係者の安全配慮も係長の仕事です。
教育・指導者としての役割~4割
私は、教育は最も低コストの業績拡大策であると考えています。仕事ができ、生産性の高い社員が一人でも増えれば、企業業績は確実に向上するからです。課長の立場では一人一人と向き合い、育成するのはなかなか難しいですが、係長は直接部下を指導、育成していくことが可能なので、係長には指導・教育に多くの時間を割いて欲しいと考えています。なので、教育者としての役割が6割なのです。
OJTは部下の能力や特性にあわせて行う
教育の基本は「私はこうやって学んだ」を部下に押し付けるのではなく、まずは個々の部下の能力や特性を適切に評価し、学ぶべきことと教え方を具体的に考えます。「1ヶ月後に一人で伝票処理ができるようになって欲しい」と到達点を伝えます。今の若手は仕事で失敗したくないので、先に座学で教え「聞いてない」をなくすのが重要です。その上で部下の実情にあわせたOJTを実施するぐらいの手順を踏む必要があります。
部下指導のポイント~「ほめる」
あらゆる部下指導に有効なのは「ほめる」ことです。指導が難しい年上の部下であっても、能力の低い部下であっても、とにかくほめることでモチベーションが向上します。
ほめる基本的は、業務における行動で良い点があればタイムリーにほめることです。一方、若手や成果が上がっていない部下なら、行動だけでなく、本来兼ね備えている特性や性格も、仕事に対して良い影響を与えることがあれば、業務とは一見関係のないと思われる特性や性格などの良いところも見つけ、ほめましょう。
■部下のほめるところ発見シート(記入例)

ほめるスキルはトレーニング次第で伸ばせるスキルです。トレーニングは、日常の中でも可能です。例えば、身近にある空き缶の良い点を10個みつけるなど、いくらでもトレーニングのチャンスはあるので、ほめグセをつけていきましょう。
※「行動」「特性」の2つに区別することではなく、より多く「ほめるところ」を発見することが重要です
プレイヤーとしての役割~2割
係長は管理者、指導者であると同時にプレイヤーとして成果を上げる事が期待されています。メンバーであった時と比べ、圧倒的に限られた時間で成果を上げる事が必要です。例えばプロジェクトにおいて、簡単な業務は部下にやらせ、難しい業務は自らプレイヤーとして引き受け、総合的にチームの成果を上げるといった事です。
優秀なプレイヤーとして一部のパートを担い、チーム力を活用して、大きなパフォーマンスを上げるのです。
ただ、現実はなかなか難しく、部下のスキルが低いためであったり、メンバー時代の意識が抜けなかったりして、係長がプレイヤーに徹し、管理や部下指導やおろそかになる係長が続出しています。業績を上げるカギは部下指導や適切な管理であることは忘れないで欲しいものです。2割ぐらいの時間でプレイヤーとしての役割を実現するのが理想です。
チームコントロールの基本~まずルールを作れ
新任の係長がすぐにチームをうまくコントロールするのは難しいものです。何と言っても、直前まで同じチームメンバーの立場にいたため、急に昇格しリーダーシップを発揮せよと言われても、心とマネジメントスキルがついてきません。
そんな時はまず自分のチームにおける仕事のルール、時間に関するルールを決める事です。例えば、会議の時間を守ってもらう事から始めるのです。決めた時間を守れない事は幼稚園児でも分かる悪い事なので、躊躇せず指導できます。こんなことからリーダーとして指導力を得ていくのが簡単だと思います。
部下には愛情を注ぎ、親切にしよう
係長には部下の若手にはまっすぐな愛情を持って接し、親切にしてあげて欲しいと思います。上司からの愛情や信頼を感じれば仕事の楽しさ、喜びは倍増するし、親切心からの指導であれば、気分が塞ぐことも少なくなると思います。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。
マネージャーの要件シリーズ





