崩れない働き方はどう作られたのか?休職・復職・転職を支えた「環境調整という戦略」|メンタル不調と働く3

現在、精神障がい者雇用として勤務するKさん。前職では、うつ病による休職と復職を経験しています。
その後、無期雇用への切り替えを経て勤務を続けていましたが、体制変更に伴う退職勧奨を受け、当社へ転職することになります。
第3回は、崩れず働き続けるため、意識していることについて、Kさんに伺いました。障がいの有無に関わらず、キャリアの岐路や働き方に悩む方へのヒントが詰まったインタビューをお届けします。
休職で始まった「回復」ではなく「再設計」のプロセス
―前職で休職されたときの状況についてもう少し詳しく伺ってよろしいでしょうか。
就職してすぐは、知らない業界だったことや職場の雰囲気、電車通勤なども重なって、全体的に余裕が少しずつ削られていく状態でした。その結果、気分が上がらない日が続き、欠勤や早退が増えていきました。いったん止まることになったときは、「あ、もうこれ無理かもな」とか、「やっぱりいろいろ合ってないのかな」という感覚のほうが近かったです。
ただ、あとで振り返って気がついたんですが、自分は思っていた以上に環境に左右されやすいタイプだったんだと思います。それまでは自分の頑張り方とか慣れ方に問題があるんだと思っていました。
でも実際には、慣れていないことを相手のペースでこなしていく状態が続いて、だんだん負荷が大きくなっていった、という感覚でした。そのときに残ったのは、「もっと頑張れば何とかなる、という話ではないんだな」というシンプルな見え方でした。
休職期間にやっていたのは、頑張ることではなく再構築だった
―まず、休職期間はどのように過ごしていたのでしょうか。
休職した直後の2週間は、とにかく何もしないことでした。医師からも、人事関係以外の連絡には応じないように言われていて、生活リズムもあまり気にせず、まずは仕事から完全に距離を取ることを優先していました。
その後は、2週間ごとの診察で振り返りをしながら、少しずつ生活を再構築していきました。決まった時間に起きること、決まった時間に寝ること、支援施設へ通所すること。そういった基本的なことからの再スタートでした。
―当時はどのようなことを考えていましたか。
正直、自分のことばかりで、「会社にとって自分は必要なんだろうか」とか、「自分の何がダメだったんだろうか」といったことを考えていました。
ただ、その一方で、無理に自分で答えを出そうともしていませんでした。まずは医師や施設の方から言われたことをやってみる。自分の理屈だけで判断せず、専門の人の意見を取り入れながら進める。今振り返ると、これがかなり大きかったと思います。
たぶんそれ以前は、自分なりのプライドもあったんだと思います。自分で何とかしなきゃとか、自分で答えを出さなきゃとか。プライドを持つことが悪いとは思いません。ただ、あの時期に関しては、一度それを横に置いて人の話を聞けたことは大きかったと思います。
―振り返ってみて、意味があったと思うことはありますか。
定期的に通院することや、施設へ通うことですね。内容そのものというより、決まった予定を実行するということに意味があった気がします。
それと、移動しながら考え事を整理することを癖づけていたのも大きかったと思いますし、それが結果的に習慣のようになっていった部分もあったと思います。
復職で見えたのは「仕事」よりも「状態」の重要性だった
―復職してみて、何か見え方は変わりましたか。
実際に復職してみて感じたのは、「仕事そのもの」よりも「日常の状態」のほうが自分のパフォーマンスに影響するんだな、ということでした。休職前は仕事の出来、不出来を気にしていたんですが、後から考えると、通勤や生活リズムみたいな部分もかなり影響していたんだと思います。
もう一つ大きかったのは、休職中に意識していた「自分の状態を少し距離を取って見る」という感覚が、復職後に少しずつ実感を伴って使えるようになったことです。
メタ認知という言葉を休職中に施設で教わったんですが、実際にそれを実感したのは復職してからだったと思います。以前だったら、「調子が悪い」「頑張らないといけない」で終わっていたんですが、「今はこういう状態だから負荷を下げた方がいい」というふうに、自分の状態を一段引いて見ることが少しずつできるようになりました。判断の基準が、「気合いで乗り切る」から「状態を見て調整する」へ変わっていった時期だったと思います。ですが電車通勤だけは、思っていた以上に負荷が大きく、そこは他の部分とは違って、考え方で調整できる領域ではなかったという感覚がありました。
緊急事態宣言が可視化した「通勤という見えない負荷」
―その後、環境の変化もありましたね。
緊急事態宣言の時期は通勤がほぼなくなり、体感としてはかなり楽になりました。その後、在宅勤務が解除されて出社が戻ると、再び負荷が上がっていくのが分かりました。電車通勤は思っていた以上に自分には負担が大きかったんだなと、あらためて実感しました。
引っ越しによって変わった、「環境は調整していいもの」という認識
―その後、引っ越しもされたそうですね。どんな経緯だったんでしょうか。
通勤による負荷が続いていたこともあり、日々のしんどさを少しでも減らす方法を考えるようになっていました。その中で、会社の近くに現実的に住めそうな物件が見つかったこともあり、引っ越しを決めました。
当時は「もう少し頑張れば慣れるかもしれない」という考え方もあったと思いますが、それ以上に、毎日の負担を減らすことのほうを優先していた形です。結果として、通勤の負荷は大きく下がり、生活全体の安定度も上がりました。
体制変更をきっかけに迫られたキャリアの再選択
―転職につながるきっかけは何だったのでしょうか。
前職の体制が変わる話が出たことで、「残るか辞めるか」を選ぶ必要が出てきました。その際は、医師や支援してもらっていた施設にも相談しながら状況を整理しました。これまでの働き方を前提に続けるのは難しいという話もあり、最終的に退職する判断に至りました。
生活リズムを崩さずに進めた転職活動
―退職後の転職活動はどのように進めたのですか。
転職活動自体は必要ですので、こちらは進めながらも、日常のリズムは崩さないことを前提にしていました。自分の中ではここがかなり重要で、生活リズムが崩れると全体が崩れてしまう感覚があったため、気合いで維持するというより、「崩さないことを前提に組み立てる」という考え方でした。
また、転職活動後もこの状態を崩さないようにするために、その前から生活リズムを整えておくことは意識していました。
―まず生活のリズムを維持することを優先していたんですね。具体的にはどのように進めていたのでしょうか。
はい、日中の空いている時間をどう使うかだけを調整していきました。もともと仕事をしていた時間が空くので、その時間に転職活動や通院、施設利用で埋めていくイメージです。面談や面接がある日はそれだけで終わりにしたり、予定がない日は自由にしたりと、「空白を埋める」というより「空白のままにしておく日も含めて設計する」やり方でした。
通勤も含めて検証しながら作った、再現可能な働き方
―内定後、実際に働き始めるまでの期間はどのように過ごしていましたか。
内定をいただいてから勤務開始までの間、朝から予定がある日以外は、毎日電車通勤の練習をして過ごしていました。これは復職前にも行っていた方法の応用で、いきなり毎日通勤するのではなく、実際の通勤時間に電車に乗り、移動の疲れ具合や負荷を確認していくためです。電車通勤そのものも約3年ぶりだったので、どの程度負荷がかかるのかを事前に把握しておく意味もありました。
―その取り組みにはどのような意味があったのでしょうか。
地図アプリや時刻表など、机上で把握することもできますが、私の場合は実際に乗ってみることで混雑や所要時間を体感として確認することを重視していました。そのうえで、使うルートと使えるルートを把握しておくことが目的でした。どの状況でも通える状態を作っておくという意図です。これは復職時の経験がベースになっていて、通勤を未知のものにしないことで、「行けるかどうか」を心配する負担を減らしました。
―復職後の崩れない働き方と比べて、転職後の今の働き方で変わったところはありますか。
今の転職については、新しいことにも挑戦していますが、以前整えた生活リズムや働き方をそのまま維持している、という感覚に近いです。仕事そのものの内容も大切にしながら、崩れない状態をどう保つかというところを軸にしています。もちろん今の仕事にもやりがいがあり、楽しく取り組めています。だからこそ、生活のリズムを崩さないことの重要性は以前よりも実感しています。
「頑張り方」から「崩れない設計」へ変わった判断軸
―これまでのできごとを振り返って、ご自身が実感している大きな変化は何だったと思いますか。
今振り返ると、自分で判断しようとすることを一度横に置き、まずは決められたことを続けることに集中していた期間だったと思います。以前は「どう頑張るか」を基準にしていましたが、今は「どうすれば崩れずに続けられるか」を基準に考えるようになりました。
また、休職や復職の経験も含めて、自分の状態を客観的に見る視点が持てるようにもなりました。その過程で支えていただいた方々には、今でも感謝しています。
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