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お通しは強制の小皿ではなく、日本独自の「最初のおもてなし」~なぜ納得できる・できないものがあるのか

お通し(席料)については、いまもさまざまな議論があります。法律的には任意提供で、食べずに返せば会計に入らないケースもある。こうした情報も広く知られるようになりました。

飲食店の現場では依然としてお通し文化は根強く残り、訪日外国人からも「これは日本独自のホスピタリティだ」「なんだこの迷惑なシステムは」と良くも悪くも興味を持たれる存在です。

では、納得できるお通しと納得できないお通しの違いはどこにあるのでしょうか。

お通しは元々「最初の歓迎の一皿」だった

本来のお通しは、料理が出そろうまでの単なる場つなぎではありません。店が「いらっしゃい、ウチはこういう感じだよ。よろしくね!」の気持ちを込めて最初に出す、いわば挨拶の料理。季節の素材を使っていたり、その店らしさを表現する味がのっていたり、職人があたためてきた工夫の結晶であることも多いです。

最初の飲み物や料理のオーダーが厨房に「通った」ことを表し、これから楽しい宴が始まりますよ!という高揚感を演出する役割があります。だからこそ、お客さまは思いのほか自分の口に合っていたり、見た目から店のセンスが伝わってきたりすると、

「この店、期待できるぞ⋯⋯」
「メインの料理はもっと美味しいに違いない!」

と、まさに期待を高め歓迎されている感覚が生まれます。日本独自のおもてなし文化は、こうした小さなポーションの中でも十分に表現されるのです。

「雑なお通し」が引き起こす強烈な落差

ただし、すべてのお通しが満足につながるわけではありません。明らかに出来合いを仕入れてビニール袋からそのまま盛っただけのものや、明らかに煮崩れたもの、作り置き感が強い冷たい料理などが出てきた瞬間、

「え、これで数百円とるつもりなの...?」
「こんなの要らないから早く頼んだものを作って出してよ!」

という気持ちが湧いてしまうのも事実。最初の歓迎ではなく、提供までの時間をつぶすための義理的な一品になってしまうと、人はどうしても納得できません。つまり、お通しの評価を左右するのは「あるかないか」ではなく、 「どう出すか・どんな内容か」 なのです。

失敗すればまさに初見でお客さまの気持ちは離れ、「この店なんかイマイチだね。何品も試すまでもない、次の料理も美味しくなかったら早く出て別の店に移動しよう」とまで思わせます。お客さまのもやもやした不満を最小限にする、という意味では本来の役割を悪い意味で果たしたことになってしまいます。

店舗運用の視点でお通しを考える

毎日のピーク時間、注文のスピードに提供が追いつかない状況では、やはり最初の注文を気持ちよく待ってもらうための施策が必要です。その意味で、お通しは店側にもお客さま側にとってもちょうどよいツールといえます。なお、関西エリアでは最初のオーダーがなくとも先に出される「突き出し」という文化もあり、この突き出しとお通しを同じ意味で使っている飲食店もあります。

また、お客さまがおかけになっているテーブルの上にお通しの器があるということは、最初の注文は既に済んでいることを表しています。時間差でシフトに入るホールメンバーがパッと見るだけで各卓の進捗状況を把握することができます。

加えて、特にリーズナブルな価格帯でサービスを提供している店舗では、このお通し代も売上を構成する重要な要素です。単価を300円で設定したとして、日に30名のお客さまで9,000円、25日営業で225,000円の売上で、決して軽視できない先発選手なのです。

外国人にも評価されるポイントは「ストーリー性」

訪日外国人にとって、お通しは馴染みのない・驚かれる日本の暗黙知です。しかし、日本文化としてのストーリーが感じられたり、味に感動できたりすれば、

  • Unexpected hospitality(予想外のもてなし)
  • A small but impressive starter(小さいのに印象的なスターター)

と、かえって高評価につながります。やはり四季の移ろいが表現されたもの、郷土料理をアレンジしたもの、職人のこだわりがチラッと伝わるようなもの。それが一皿に込められていると、文化体験としての価値が生まれます。

納得できれば尊い文化、そうでなければ悪しき習慣

最終的に、利用者が「払いたい/払いたくない」と判断する境界線にあるのは誠意です。

  • その店らしさを伝えたいという姿勢
  • 美味しいものを最初から味わってほしいという想い
  • 季節感やストーリーを少しでも添えようとする丁寧さ

こうした姿勢が見えると、たとえ数百円でも納得しやすくなります。

逆に、コストを排したその場しのぎのものでは、「なぜこれが自動的に加算されるのか?」という不満が勝ってしまいます。うまく説明ができないのであれば、チャージ(席料)であると明言したほうが、まだ理解されます。あるいは、お通しを不要とすることもできると選択性にするのも一案です。

お通しは文化でもあり、技でもあり、期待値を操る装置でもある

お通しは法律や料金体系の話だけでは語りきれません。ここまで述べたように、店の力量やセンスが最初に表れる名刺の代わりであり、小さな皿一つで客の気持ちを高めることも、逆に下げてしまうこともある非常に繊細な存在です。

そして、歓迎の気持ちを込めた一品としてのお通しこそが、最も強く支持されます。お通し文化は、ただ残すか残さないかの議論ではなく、「どうすれば客が嬉しいと感じるか」という、本質的なホスピタリティの議論に向かっていくべきなのかもしれません。

店舗運営への示唆と従業員教育

多くの飲食店の店長も、一番初めにお客さまが口にする(たとえ口にしなかったとしても印象に残りやすい)このお通しについて、あまりに当たり前の存在すぎて、スタッフへの説明が不十分なままなのかもしれません。

  • お通しの意味と価値をスタッフ全員に共有
  • 季節感や工夫のある一皿を提供することで期待値を高める
  • 外国人対応として言語や文化の違いに配慮した説明を徹底
  • 断る選択肢や代替案を整え、顧客満足と柔軟性を両立

これにより、現場のスタッフは「何をどう伝えるか」を理解し、統一された対応ができるようになります。結果として、顧客の納得感や満足度が向上し、トラブルの予防にもつながります。

よろこばれる「おもてなし」の小皿であるために

お通しは、単なる料理提供までのつなぎではなく、店からお客さまへの最初の挨拶であり、文化体験でもあります。雑に提供されると不満を招きますが、丁寧で店の個性が感じられるものは、顧客の期待を高め、店への信頼につながります。料金の明示、内容の工夫、説明の徹底で「納得されるお通し」に変えることが重要です。

現場教育を含め、店舗としての一貫した姿勢を整えることで、外国人客を含む多様な顧客に喜ばれるサービスを実現できます。

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