
ENERGY vol.10(2022年冬号)掲載
PICKUP
人的資本ナンバーワン企業に聞く
2021年度、インソースでは各社の「人的資本の開示」を比較してきた。その中で、特に株主に対する誠実な姿勢という点で際立っていたのが双日株式会社だ。実際に同社は290の企業・団体が参加した日経統合報告書アワードでグランプリを獲得し、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」でも先進的な取り組みが紹介されている。
また、経営戦略と一体化した人的資本経営を基に、直近の中期経営計画2023(以下、中計2023)では人材KPIを設定した。双日が考える「価値を創造できる人材」づくりについてうかがった。
双日の価値創造の源泉は人~2030年に向け事業や人材を創造し続ける総合商社を目指す
中計2023では、当社が2030年に目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げました。この目標をさかのぼり経営・事業戦略を立て、その実現のための人材戦略を意識して作られた計画といえます。
あえて「人材」という言葉を入れ、事業を生み出して的確に手掛ける社員の創造も重視しました。「商社は人なり」といわれるように、当社の価値創造の源泉は人です。「事業を創造するにはまず人を創造しなければ」との思いを込めています。
2020年から事業価値の見える化に着手~非財務的価値こそ訴求する
中計2023の策定が始まった2020年はコロナで出張も減り、代表取締役社長 CEOの藤本と役員が中計に向けて議論を深める機会が増えました。その際、10年後の2030年を見据えて、ありたい姿と、そこからバックキャスティングして、当社が財務と非財務の両面で何をすべきかを徹底的に議論しました。そして「財務的価値のみならず、将来の価値につながる非財務的価値の訴求が不可欠である」と整理しました。現在当社は、人材こそ最大の資産である、という考えのもと、人材一人ひとりの個性を重要視しながら、人的資本経営を推進し、企業価値向上に邁進しています。
事業価値向上を人的資本開示で実現する
当社が中計2023で掲げる定量目標の一つにPBR1倍超の達成があります。そのため、「資本コストの低減(非財務的価値の向上等による株価向上と株価変動幅の低下)」と「ROEの向上(稼ぐ力の拡大や資本効率の向上)」の双方を実現することが重要です。そのために、人材の創造性を高め、イノベーションを起こせる企業を目指すと同時に効果的に人的資本の状況を開示することに注力しています。
課長の4人に1人が外部から
議論を重ねた結果、当社が人材戦略で目指す姿は「多様性と自律性を備える『個』の集団」となりました。
まず多様性では、多様な価値観を持つ社員が交じり合って化学反応を起こし、新たな価値が生まれることを期待しています。当社は、日商、岩井産業、ニチメンが統合していく中で相手を尊重・受容する文化が育まれました。現在も約150ある課長ポストのうち、4人に1人がキャリア採用です。それぞれ「尖った能力・個性」を発揮していて、まさに双日らしい競争力の源となっています。
若手にも重要な仕事を担ってもらう
自律性に関しては、熱意と実力のある若手には次々とチャンスを与え、マネジメント層の会議にも参加させ、若いうちから大型交渉も経験します。結果として、他社で10年でひと回りとするならば、双日ではふた回り成長できると考えています。
経営戦略を実現できる人材を創ることで、市場に評価される
人的資本の開示の結果、市場は「双日は経営戦略を実現できる人材をどれだけ創造できるのか」を強く期待すると考えます。
その期待に応えるべく、共創や共有を実現する「巻込み・やりきる力」、事業を作るのに最も重要な「発想・起業できる力」、作った事業を営み価値を高める「事業経営できる力」を持った人材づくりを方針といたしました。
この方針を因数分解したのが人材KPIであり、多様性を「活かす」、挑戦を「促す」、成長を「実感できる」の3本柱で人事施策を作っています。ただし施策はあくまでもインプットなので突き動かすアウトプットを見せたいですね。
人的資本の拡充に向け人材KPIを設定~目標に向かい人事施策を定量的に効果測定
―双日さんの開示項目は、日本企業の中でもとてもユニークで、考え抜かれたものだと思います。ぜひ、選定ストーリーを教えてください。
人的資本経営の開示前から、各種データで人事の課題感が見えていました。例えば女性社員には、上司などからの思いやりによるアンコンシャス・バイアスが働き「彼女はライフイベントが控えているから無理をさせたくない」と配慮され、一定の経験を積めずにいた社員の存在がデータからうかがえました。
このように、データには課題とそれを改善・向上に導く手がかりがあります。人的資本経営を推進していく中で「事業や人材を創造し続ける総合商社」という目標に向けて有意な項目を選び、その人事施策の理解、浸透度を人材KPIで定量的に効果測定しています。
★ 2023年度「チャレンジ指数70%以上」
―貴社のKPIの中でも、とてもユニークな項目ですね。
「チャレンジ指数」は、人事評価と連動したKPIです。年間個人目標の中で事業計画に基づく内容を除き、新たな領域への挑戦とその評価を数値化したもので、2023年には結果を出せる人を70%以上にすることを目指します。
社長の「結果を出せる評価方法にすべき」との思いを受けて策定
「チャレンジ指数」を策定した背景には、社長である藤本の強い意向があります。当社では人事評価において相対評価を採用していますが、本来40%となるべき普通評価が60%となっていました。この結果を受けた藤本の「チャレンジを当たり前とし、挑戦に対し上司が正しく評価する仕組みとすべきだ」との思いを形にしています。
★ 2023年度女性総合職海外・国内出向経験割合40%
女性活躍を推進した初期から「2030年度には女性課長職比率を約20%にする」との目標がありました。このKPIがこの達成に向けたドライバーになるよう期待しています。
具体的には、当社の新入社員が最初に海外駐在を経験するのが30歳前後である一方、エンゲージメントサーベイで女性社員に「海外で働きたいか」と尋ねると、30歳を境に「はい」と答える人が減少します。ライフイベントと両立しながら必要な経験が積めるよう、特に女性は早期に本社外経験できるよう取り組んでいます。その後にライフイベントを迎えて復帰しても、本社外経験を生かして活躍の場が広がると考え、設定しています。
★ デジタル応用人材比率25%
DX推進については、まず、全社員が国家資格のITパスポート取得、全総合職社員のデジタル基礎研修修了を目指しています。そして、エキスパートレベルのデジタル人材創造に向け、外部から招へいした執行役員CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)が自ら作成した育成プログラムを通して、DXを駆使してお客様の課題解決に繋がる価値を創出できる人材づくりに取り組みます。こちらも2025年度までに総合職の25%以上が修了するよう促します。現場に戻ってからもスキルを磨きながら、さらに周囲に伝播していくような仕組みを作っているところです。
★ 二次検診受診率70%以上
KPIでは「二次検診の受診率70%以上」も掲げました。がん検診の結果や喫煙率からすると長期休暇予備群の社員も多い中、要再検査のうち、実に20%程度しか二次検診を受けていませんでした。そのため、産業医の指導で予防や未病を意識するきっかけになればと70%以上の受診を目指しています。
現場の声をありのまま伝える
―すばらしい統合報告書をお作りになっていますが、こだわった点は何ですか?
統合報告書はIFRS財団の「統合報告フレームワーク」と経済産業省発表の「価値協創ガイダンス」を参考に作成したものです。
非財務部分を単に開示するのでは「血の通わない報告書」になるため、「統合報告書を作ることを目的としない」という点を徹底しました。つまり、企業価値向上に向けて当社が取り組む経営戦略、成長に向かって変化・変革を遂げる当社をそのまま伝えることが本質であり、これこそが投資家にとって重要な情報です。この点を大切に、綿密に整理しながら作成しています。
具体的には、当社にとって将来の企業価値向上に有意であると考える取り組みや、その背景を定性・定量の両面で示すと共に、もちろん社長をはじめキーパーソンの生の声をお届けすることにもこだわりました。現場の声こそが生きた価値あるものと、考えたからです。
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2022 WINTER
Vol.10 人的資本経営の進め方
vol.10は近年注目が高まっている「人的資本経営」がテーマです。 企業に対して非財務情報の開示が求められる中、具体的な取組み策の検討が急務となっています。 本誌では、お客さまの取組み事例や人的資本の開示項目設定、人事サポートシステムの活用についてご紹介しております。
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Vol.17 企業課題を解決
Vol.17は、「企業課題解決」がテーマです。労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、 成長し続けるために経営戦略や人事戦略を改めて考えていくことが求められます。 本誌では、企業インタビューによるDX人財育成の事例や人的資本経営をサポートするソリューション事例をご紹介しております。
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