商品開発・研究開発の考え方と実践方法論|経営の方法論5

※上記画像は生成AIで作成|AIのビジネス活用ならインソースのAI・DX推進サービスへ
インソースが継続成長していることを、いつも不思議がられます。売上が落ちたのは創業23年間で1回、コロナ禍の時だけです。大量の研修やサービス(当社ではこれらをコンテンツと呼んでいます)を、多品種少量生産で開発し続けているのが、一番の理由だと思います。
近年では、新作の研修は年間400タイトル、動画・eラーニングは年間300タイトル、さまざまなサービスも年間10種類以上開発しています。
新作を「どんどん作る」契機となったのは、創業当時、企業の求める課題にジャストフィットした研修を作っている教育会社がまず無く、「個別課題に応える研修をどんどん作れば、売上が伸ばせる!」と考えたからです(ちょっと甘かったですが)。
商品開発の本質的な意義~企業存続・成長の基本
商品開発は企業の「トップライン」を支える根幹です。開発投資を絞ると、短期的には利益は増えますが、そう長くは続きません。だんだんと売上が上がりにくくなり、利益は想定以上に減少していきます。商品は常に陳腐化していくので、売れ行きの落ちるスピード以上の速さで、新しい商品を生み出し続けないと企業は存続できません。インソースは上場しており、業績を落として株価を下げるわけにはいかないので、追われるように新しい研修やサービスを徹底的に開発しています。
商品開発は「あちらを立てれば、こちらが立たず」を乗り越えること
私は20代後半から一貫して、商品開発に従事してきました。銀行員時代は個人向けの金融サービス、ネットバンクやコンビニATMなど、今に続く先進的サービスの開発をゼロから担当しました。金融業特有の規制、セキュリティ、コスト、顧客利便性など、いろんな要素が存在し「あちらを立てれば、こちらが立たず」の状況で、実用化するのは、なかなかに困難でした。
こういった状況を
- 顧客がどうしても欲しい機能から開発する
- 1つの機能で十分に性能が発揮できない時は、別の機能を組み合わせたり、分割したり、いろいろ工夫して解決する
こういった「合わせ技」で「何とか顧客要望に応える経験」が、今に活きています。
銀行時代の工夫「合わせ技」で実用化する
システム開発や技術用語で、信頼度成長曲線というのがあります。不具合を極限までゼロにしようとすると、莫大なコストがかかるというものです。そんな場合は、別の技術を組み合わせて、「合わせ技」で不具合の発生を下げていくのが、技術活用の常識です。
銀行での商品開発担当時代、ネットバンクの本人確認を実用化する際、金融庁の決めたレギュレーション克服(安全性)とお客さまの利便性という、両立が難しい二つの課題を解決するため、暗証番号と暗号カードを組み合わせ、さらに可変暗証番号化する「合わせ技」でなんとか実用化しました。
暗号カードとは、少し前まであった、銀行取引をネットで実施する際に利用する、数字がいっぱい書いてあるカードです。なお、現在はスマホなどが普及し、より安全なワンタイムパスワード技術が使われています。25年前はコストが高すぎて利用できませんでした。
インソースの「合わせ技」~講師と研修開発者を分けることで実現
同業他社は講師が研修コンテンツを開発するのが一般的ですが、当社では120名の専任チームで開発しています。研修において、お客さまは自社独自の内容をよくご要望されます。しかし、「お客さまの課題に合わせた、細かなカスタマイズをした研修」の作成を講師が担当すると研修費用のご請求が高額になってしまいます。また、売れっ子講師はコンテンツを作る時間が捻出できません。
そこで、インソースでは、講義担当とコンテンツ開発担当を分離する「合わせ技」によって、廉価かつスピーディーに、研修サービスを提供できるようになりました。
発想の参考はトリーズ「40の発明原理」
私のアイデアの元ネタとして、トリーズの「40の発明原理」があります。トリーズ(TRIZ)は、旧ソビエトの特許審査官であったゲンリッヒ・アルトシュラー(1926~1998)が膨大な特許を分析し、発明に至る普遍的な法則やパターンを抽出し、「40の発明原理」として体系化したものです。発明原理の例としては、以下のようなものがあります。
- 組合せ原理:
複数の要素を物理的・情報的に組み合わせる(暗号カードとパスワード、スマートフォン) - 分割原理:
システムや対象物を、より扱いやすい部分に分割する(講師とコンテンツ制作者、電車) - 先取り原理:
必要な時にすぐ使えるにあらかじめ準備しておく(データベース、冷却ジェルシート)
今でも時々、トリーズの発明原理を眺めては、いろいろ思案するのが好きです。
インソース流の商品開発~大ヒット商品がなくても勝てる方法がある
インソースの戦略は、いわゆるニッチャー戦略と呼ばれるものです。小さな要望への対応はコストがかかるため、大きな企業成長は望みにくい難点があります。インソースはDX化、開発したコンテンツのデータベース化とWEB活用の販促で、ニッチ対応を続けながらも、コストを抑えつつ成長を遂げられました。その一端をご披露します。ぜひ、参考にしてください。
(1)小さな顧客要望に応える商品開発をする
ニーズが顕在化しているものは大体、先行者が商品を提供しています。後発のインソースは、先行者よりお客さまに喜ばれる商品を提供しないとまず売れません。
そこでインソースは徹底的にマーケットインすることにしました。インソースの商品開発は、お客さまが欲しいとおっしゃるサービスを「まず断らず」作り続けています。(大先輩企業でこの戦略を取っているのはアイリスオーヤマです)
(2)個別ニーズ対応も追加料金なし
個別ニーズに対応しても、追加料金はいただいていません。その理由は業界別や課題別に多数のコンテンツを開発し、競争優位を確立するのが優先だからです。なので、新分野大歓迎で新作に挑んでいます。そうやって個別ニーズに対応した結果、ハラスメント研修などは50種類以上もあります。
(3)開発したコンテンツをデータベース化~さらにWeb化
小さな顧客ニーズに応えて商品開発するだけでは、開発費倒れになってしまいます。作ったからには、売らねばなりません。そこで、開発した膨大なコンテンツをデータベース化し、さらにWeb化して、お客さまがじっくり検討できるようにしました。
その結果、お問い合わせが激増し、過去に開発した研修が二度、三度と売れるようになり、高収益が確保できるようになりました。また、コンテンツのデータベース化により、新作開発も、よりスピードアップしました。
生成AIの活用
徹底的なマーケットインでお客さまからのリクエストを断らなかった結果、大量の商品を開発してきましたが、入社から日が浅い営業担当者などは、細分化されすぎて商品理解が困難になってきました。よって、生成AIで業界別、お悩み別に提案ができるAIエージェントを開発して、経験に関わらず提案できるようにしています。
23年間の「さまざまな工夫」と具体的な開発手法
(1)コンテンツ開発の自社専任開発チームの設置
コンテンツの開発専任チームを保有し、著作権を自社で持つことで、コンテンツ所有者との交渉に時間を取られることなく、多様な改変も自由かつスピーディーに実施できるのが強みです。
(2) 基本アーキテクチャの設定
試行錯誤の末、コンテンツ開発では受講者の「行動変容」をゴールにした、基本アーキテクチャを決めました。誰がコンテンツを開発しても成果が出せるようにするためです。
講義 → 考察 → グループ討議 → 意識変化 → 行動変容
特に難しい意識変化に関しては、業界およびその会社に特化した内容にすることで、受講者に「我が事」と感じてもらえるようにして、意識変化を促しました。また、行動変容に関しては、研修のための演習ではなく、研修後の業務に即した内容の演習、具体的には、研修後の行動計画などを必ず作成することで、変容を促しています。
基本アーキテクチャを設定したことに加え、開発の手法や流れも明文化し、標準化をしました。明確なルール設定がコンテンツクリエイターの創造性を支え、組織として良いコンテンツを繰り返し開発できる再現性が高まっています。
(3)スピード開発と実地検証
「こんなコンテンツがあったらいいな」に対して、迅速にプロトタイプを開発し、まず、公開講座として実施し、斬新な研修を求める、一部のお客さまに使ってもらい、改善を繰り返す「磨き上げ」型の開発をしています。自社判断で開催できる公開講座を、年間1万2千回も開催しているので、公開講座の中で熟成することが可能となっています。
(4)クリエイターは発想量が大事~量が質を生む
実際、400本の研修を開発しても、翌年も売れ続けるのは3〜5%程度なので、売上をあげ続けるには、やはり開発量が不可欠です。また、研修を開発するコンテンツクリエイターにおいても、量を作ることを慣れてくると、どんどん発想が豊かになっていきます。
とにかく新しいものを、次から次に考案しなければいけないわけですから、毎日見るもの聞くものを、常に新しいコンテンツに結びつけていく力がついてくるので、量を作る中で腕を磨いてもらっています。これはあらゆる企業の研究や商品開発で共通すると思います。
(5)経験者への注意点と拡張戦略
コンテンツクリエイターも経験が長く慣れてくると、だんだん自分の過去に作ったものの改善ばかりやるようになります。つまり、仕事を過剰に深めるのです。ダメではないのですが、顧客の求める斬新なコンテンツは作らなくなります。よって、これはマネージャーとして、別分野の担当に異動してもらうようにしています。
(6)コンテンツクリエイターを生成AIエンジニアに転用
例えば生成AIが登場した時は、DX担当ではない多くのコンテンツ開発者に、1か月間、生成AIを徹底的に利用してもらい、生成AIを活用したコンテンツを作るように命じました。生成AIに熟達する中で、自分が得意なジャンルと生成AIを結びつけた、面白いコンテンツを作れるようになりました。
商品開発におけるマネージャーの役割~「深さ」と「バラエティ」の管理
120名ものコンテンツ開発者を、現在は擁しているので、私の役割は、開発の方向性を示し、量と品質の管理を行うことです。その過程で開発者の能力を引き出し、彼らの成長につなげることが使命だと考えています。商品開発は単なる自由放任ではなく、厳しくも意味ある管理が、創造を加速させるのではないかと思います。
研究開発管理全般に言えることだと思いますが、研究開発の深さとバラエティを、マネジメントすることです。とかく研究開発者は、先に書いたように、一つの事をコスト度外視で、研究開発を深めてしまう傾向があります。マネージャーは意識して研究の「深さ」を管理し、業績に寄与する水準を示すことが必要です。
バラエティ拡大を維持する
また、事業拡大のため、研究開発のバラエティ維持は重要です。近接分野や他分野の研究に人員を割くのは極めて重要です。富士フイルムは写真分野で成功していますが、医薬・ライフサイエンスおよびメディカルシステムの分野にも、写真で培った膜の技術を展開し、成功しています。バラエティに富んだ特許出願でも分かります。
今、儲かっている分野が続くとは限りません。「今、自社ができること」は「将来、みんなができること」にすぐ変わります。研究開発のバラエティ拡大は欠かせません。インソースでも、ホワイトカラー向け研修から、生成AI技術、外国人・エッセンシャルワーカー分野の教育など、バラエティを広げています。
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<本記事の筆者>
株式会社インソース 代表取締役 執行役員社長
舟橋 孝之(ふなはし たかゆき)
1964年生まれ。神戸大学経営学部商学科卒業後、株式会社三和銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に入行し、システム開発や新商品開発を担当。店頭公開流通業で新規事業開発を担当後、教育・研修のコンサルティング会社である株式会社インソースを2002年に設立。2016年に東証マザーズ市場に上場、2017年には東証第一部市場(現プライム市場)に市場変更。



